第411話 医療立国2。定例会議
ローゼットさんをいろいろ案内している途中、偶然オストラン王国の進むべき方向として医療立国がいいのではと思いついた。もちろん医学では地球の現代医学に太刀打ちなどできないので、ポーションでの力技だ。その意味では医療立国ならぬ錬金術立国という方が正確かもしれない。
将来的に錬金術師は国家公務員にしてしまうのも手だ。
『国家錬金術師』
どこかで聞いたフレーズだが資格試験を厳格に行えばポーションの品質も保たれる。なかなかいいことを思いついた。とにかく地球に無い職業というところが素晴らしいい。
俺の場合は錬金素材を使わず簡単にポーションを大量に作れるから素材のことなど気にしたことはない。しかし、国を挙げてのポーションづくりとなると、錬金素材を大量に生産する必要が出てくる。薬草のようなものが素材なら薬草園の拡大。モンスターの部位なら冒険者の育成。やることは沢山あるが、やれないことは何もない。
いける。これならいける。
屋敷に帰った後、エヴァを見つけて、オストランの宮殿へいけるようになったと話した。行き方を教えて、宮殿の通路の小部屋の鍵をその場で作って渡しておいた。宮殿に行くときには、誰でもいいのでアスカのうち一人を護衛として連れていくようにも言っておいた。
その日の夕食時。俺は将来のオストラン王国のことを考えて食事していたせいか食事しながら、どうも顔に出ていたらしい。
「ゼンちゃん、妙に機嫌が良いが何か良いことがあったようじゃな?
もしかして、見目の良い女子とデートしたとか」
「アキナちゃん、訳の分からない事言うけど、そんなことあるはずないだろ。
実は、今日ローゼットさんを連れて、マンション近くの喫茶店にいったんだ」
「それをデートと言うのではないのか? ゼンちゃんの向かいに座っておる御仁の箸が止まったのじゃ。ヒヒヒ」
「違う、違う。
アスカたちを使って宮殿を電化してやろうと思って、コアルームの隣りの通路に宮殿を繋げてやったんだ。それで俺に用がある時は屋敷に来てもいいとローゼットさんに教えただけだ。その流れでローゼットさんを連れてダンジョンの連絡路が他にどこにつながっているかも教えて、せっかくだからマンションの近くの喫茶店に行っただけだ。
言い忘れてたけど、そういうことなんでローゼットさんがやってきたら俺に教えてくれ」
「「はい」」「ヒャッヒャッヒャ」
若干一名目を細めて笑ってるのは放っておいて、
「話を戻すと、商店街の先に大きな病院があるのをみんな知っているだろ?
あれを見て思いついたんだが、オストラン王国をポーションによる医療立国、正確に言えば錬金術立国させればいいと思いついたんだ」
「それは素晴らしい考えですね。
病気の人が病気を治すためにこの国を訪れれば付き添いの人も当然この国を訪れることになる。病気が完治すれば気持ちよく、しかも大きな気持ちになって観光もできる。素晴らしいと思います」と、はるかさん。
「はるかさんもいい考えと思うでしょ? それで将来的にはこの国の錬金術師に資格試験を施して錬金術師の国家資格にするんです。そうすれば、ポーションの品質も安定する。資格保有者は国家公務員にしてしまえば囲い込める。良さげでしょう? 国家公務員になった錬金術師は国家錬金術師ですからね。どうです、心のどこかをくすぐられませんか?」
「いいんじゃないですか」
われながらいい案だと思っていたが、理解者がいると心強い。
とはいえ、これはまだ先の話だ。地道に身近な問題を片付けていこう。
「そういえば、善次郎さん。学校の新入生なんですが、商業ギルドを通じて応募者がもう40人近くいるんです」
「ほう。それならみんな通わせてやりましょう。校舎が足りなくなれば建てればいいだけだし。先生の都合がつくならどんどん行きましょう」
「はい。わたしの友だちの後藤さんの都合がつきましたから、商業ギルドからは算数の先生として1名きてもらうことになりました。それとアキナちゃんのおかげでアキナ神殿から2名国語の先生に来てもらうことになっています」
「学校の方も順調で何より」
そして翌日の防衛省での会議の席。
まず、川村局長から。
「国内のダンジョンの開放ですが、どのダンジョンもピラミッド周辺の整備は順調で、残っていたピラミッド=ダンジョンも全て4月1日よりオープンすることになりました」
俺の故郷もこれで賑やかになっていくんだな。これまでも工事関係の人でそれなりに賑わっていたそうだが、これからは本格的だ。町興しになってくれればありがたい。あまり発展できないようなら、俺なら親父のところのダンジョンにテコ入れもできるし、あの町は安泰だな。
「直径3メートルのメタルゴーレムコマですが、コマを組み込んだ原動機部分が完成し予定の出力を発揮したそうです。これは1号機として発電部分をダンジョンに運び込み組み立てるようです。
2号機以降も順次ダンジョン内で組み立てるそうです。発電所自体は第1から第3ダンジョン内での建設は終わっていますので、年度末には稼働できるようです。
まだ先の話のようですが、ダンジョン協会では第1ダンジョンで直径6メートル級のメタルゴーレムコマを組み込んだ発電機を10基建造する計画も立てているようです。1基当たりの出力は100万kW、総出力1千万kW。
これについては電力会社の燃料購入予約などと調整して建設及び稼働時期を調整するそうですが、いずれ建設されるのでしょう。
わが国はことエネルギーにかけては世界最低コストの国になることは確実のようです。近い将来、国外流出していた製造業各社の工場はわが国に回帰してくるでしょうな」
日本の景気が良くなっていくということは一国民としても、一オストラン王国国王としても喜ばしい限りだ。今はまだ日本との結びつきがないからいいが、将来はかなりの結びつきになるはずだ。そのとき日本の景気が悪いとこっちまで波及してくるからな。俺が生きているあいだにこの関係を逆転できるくらいにできれば本望だが、さすがにそれは無理か? いや、少なくとも気概だけは持って進んでいくぞ。
防衛省側の説明の後、俺はダレン南ダンジョンで大空洞を発見したことを発表しておいた。
「日本の大空洞並みに広い大空洞を見つけました。その空洞を少し探索したところ、巨大な水たまりがありました。その水を舐めてみたら塩水でしたし、見た感じは完全に海でした。向こう岸は全く見えないくらい広いので、琵琶湖の比ではないようです。
それで海を渡るため船を作って海に乗り出したところ、かなり沖まで進んでみましたが向こう岸は見えませんでした」
「なんと、大空洞に海ですか?」
「はい。
そういえば、海に出るまえ、温泉が湧き出ているところもありました」
「大空洞の中で温泉が湧いていたということは、火山のようなものがダンジョンの中に存在するということでしょうか?」
「今まで火山は見たことはないので何とも言えません」
「ところで船を建造されたというのは?」
「ダンジョン内でしか走らすことはできませんが、メタルゴーレムコマを原動機としてスクリューを回す船を作りました」
「オストランの造船所でですか?」
マズいな。妙なことを口にしなければよかった。あまり詳しく話すと造船所のことがばれるし。
「自宅の造船所のような場所で、DIYしました」
「ご自宅で? しかもDIY?」
「はい」
隣の華ちゃんを見たら、口をぎゅっとへの字にして、また横隔膜の辺りが振動させていた。
気持ちはわかる。




