第399話 日本視察団引見。
後藤真由美さんを屋敷に招きリクルートした翌日。
今日は日本からの視察団をオストランに連れていく日だ。防衛省の会議室に集合した視察団4名をオストランの宮殿の玉座の間に直接連れていくことになっている。持参する荷物は自分で持てるならいくら大きくても重くてもいいと伝えている。
9時5分前に会議室に跳んだら、D関連局の野辺次長と外務省の世良事務官の他視察団の4名が大型のトランクと手提げのカバンを持って待っていた。全員30代から40代の男性だった。異世界で男女混合となるといろいろやりにくいことが発生するだろう、という配慮なのだと思う。そういうわけでそれ以上詳しい観察はしなかった。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「それではさっそく宮殿の玉座の間にお連れしましょう。小さい方の荷物は手に持ったままで構いません。大きい方はわたしが運びましょう」
そう言ってから、4つある大型トランクをアイテムボックスにしまった。もちろん初見の4人は驚いていたが、世良事務官まで驚いていた。
「視察団のみなさんはわたしの手を取ってもらえますか? 転移で一度にお連れします」
4人が俺の手を取ったところで、世良事務官が俺に、
「よろしくお願いします」
「それでは」
俺は残る2人にひとこと残して、視察団の4人を連れて宮殿の玉座の間に跳んだ。
玉座の間では、玉座の左右にブラウさんたち高官が居流れている。ローゼットさんは玉座の斜め後ろに控えていた。
4人は転移で移動することは知っていたはずだが、生れて初めての転移で動転しているに違いない。預かっていた荷物は今は閉められている玉座の間の大扉の横に出しておいた。
動転しているはずの4人をそのままにして、俺はコアに創らせた伝説のマントを取り出してはらりと身にまとった。その際裏地が盛大に見えてしまったが、動転しているはずの視察団の4人は気付かなかったはずだ。
玉座に向かって歩きながらマントを羽織り、マントの上から例の百億は軽くしそうなダイヤモンドを並べたプラチナネックレスをかけようとしたのだが、マントのエリが大きすぎて首からかけることができなかった。これは大きな誤算だった。しかたないので、アイテムボックスに戻しておいた。後ろの金具を外せば簡単に輪っかが分かれることは後で気づいたが、いずれにせよ首の後ろでその金具を短時間で留めるスキルは俺にはない。
王さまらしさの頼みの綱は、玉座の後ろの壁に飾ってある『成王の試合』での俺の雄姿をイオナが描いた絵だ。問題は、視察団の連中の立っている位置からは遠い上、絵の大きさはそれほどでもないので、俺の雄姿であると気付けない可能性が高いということだ。
とにかく玉座に座って背中を伸ばしたところで、玉座の間の大扉の前、大型のスーツケースの隣りに立った儀典官が視察団に向かって、
「陛下がお席に着かれました。
日本国視察団団長閣下、前にお進みになり、陛下にごあいさつをどうぞ」
40ちょっと過ぎに見えるおじさんが、俺にあいさつするため前に進み出てきた。
先ほど防衛省の会議室で顔を合わせているのでやりにくいと思うが、これは個人と個人の付き合いではなく、国と国との付き合い、外交なのだ。その中での大事な儀式なのだ。と、自分自身に言い聞かせ、俺のマントのバカでかいエリが気になるが真面目な顔を取り繕う。
「オストラン王国国王陛下、視察の機会を与えていただき感謝いたします。
……」
視察団団長はどうも演説好きの人みたいで、5分くらいあいさつが続いた。あくびするわけにもいかないので、真面目な顔を維持していた。そんなあいさつするくらいなら俺の後ろの壁に飾っている俺の雄姿を描いたイオナの絵を褒めてくれよ。
やっと終わったあいさつの後、俺はひとことだけ。
「みなさんの視察が起点となり、わが国と日本国の交流が盛んになることを期待します」
そのあと、玉座の間の大扉が開き、儀典官がお帰りはこちらとばかりに、
「日本国視察団団長閣下および随員の方々は宮殿前に馬車を用意しておりますので、荷物はそのままで、わたくしの後にお続きください」
視察団が儀典官のあとについて玉座の間から退出し、その後を視察団のスーツケースを持った数名が続き、最後に扉が閉められた。
「陛下、ありがとうございました」
ブラウさんに感謝されてしまった。
「これから3週間、彼らのおもりをよろしくお願いします」
「お任せください」
俺は玉座から立ち上がり、ローゼットさんを伴って執務室に歩いていった。
執務室に歩いていく途中、ローゼットさんに、
「陛下、そのマントはお脱ぎになった方がよろしくありませんか?」
と、やんわりダメだしされたので、すぐに脱いでアイテムボックスの中に入れておいた。女神仕様のマントなのでマジックアイテムの可能性は高いのだが、どういった効果があるのかは皆目見当付かない。
宮殿での俺の護衛役のアスカ2号は、アニメ顔ではないが視察団の面々が見れば一発で誰似なのか分かってしまうし、ロイヤルアルバトロス号の内装で忙しいので連れてきていない。
国賓としての日本訪問はゼンジロウ1号に任せるので、これで一連の行事のうち、残ったのは視察団の送り返しと俺の戴冠式だけだ。
ロイヤルアルバトロス号が完成したら、王宮の電化に取りかかるか。照明とパソコンが動けばいいくらいだからそんなに大変じゃないだろう。パソコンもスタンドアローンで動けばいいから、適当なパソコンを1台買ってきてコピーで済ますこともできる。とはいえ、さすがにパソコンはまだ早いかもしれないが、コンセントをいろんなところに付けておけばそれなりに役立つだろう。
工事自体はアスカたちでしかできないのである程度時間がかかるかもしれないが、まっ、良いだろ。
しかし、そうなるとコアルームの横の発電室に置いている発電機では小さすぎる。もう少し大きな発電機が欲しいところだ。ああいった物は単純に大きくしてしまっていいなら話は簡単だが、そうでないとD関連室経由で発注することになるか。俺が頼めば嫌だとは言わないだろう。




