第395話 王さまらしさ1
防衛省での会議で、俺がオストラン王国の国王であることを話したらスッキリしたような気になったのも事実だ。これが懺悔だか告解というものかも知れない。俺はダンジョンマスターなんだと話していないから、悔い改めてはいないわけで、そういうものとは違うのかもしれない。
とにかく、少し気持ちが軽くなった。
視察団をオストランに連れてくるときの俺の格好は普通の格好程度でいいだろうが、玉座に座って引見する時の格好が普段着、それも日本製の普段着でいいのだろうか?
俺の着ている服は地味かもしれないが、それなりに高級だと思っている。とはいうものの一国の王さまとして考えると、ちょっとインパクトというか威厳に欠けるかも知れない。
王冠でもあれば簡単にラシクなると思うが、そんなものはないし、俺の持っているものと言えばミスリルのヘルメットとはるかさんからもらった毛糸の帽子だけだ。
ここはミスコンみたいなガウンを作ってそれを上から羽織るのも手かもしれない。
思い立ったが吉日とばかり、俺はいつものデパートに跳んでいった。
男物のガウン売り場がどこにあるのか店の人に聞いて、ガウン売り場のある階にエスカレーターで上っていった。
店の人に聞いたとおりガウン売り場にやってきたはずなのだが、パジャマ売り場だった。パジャマの上に着るガウンと湯上りに着るガウンを売っていた。
日本だもんなー。パジャマの上に着るガウンとか風呂上がりに着るガウンを着て日本政府が寄こす視察団、おそらく高級官僚たちを引見したら恐ろしいことが始まりそうだ。
これは無理だな。
ということで、俺はアスカ3号に救援を求めるためデパートからマンションに跳んだ。
玄関からアスカ3号を呼んだら、返事が返ってきたので、靴を脱いで廊下に上がり、やってきたアスカ3号に、
「アスカ3号、悪いがミスコン優勝者が着るガウンを適当に検索してカラーで印刷してくれ」
「はい、マスター」
アスカ3号はパソコンを操作してすぐにレオタードだか水着だかを着たミス付きでミスコンガウンを見つけてくれた。
「これでよろしいですか?」
「それでいい」
アスカ3号が画面に映ったミスコンガウンを印刷してくれた。
でき上ったプリントを手にして俺は玄関に出て靴を履き、コアルームに跳んだ。
「コア、この女性が着ている服と同じものを作ってくれ」
「はい、マスター。
でき上がりました」
俺の足元に赤地に白いフサフサで縁取りされたガウンが置かれていた。ガウンの上にはミスが着ていた派手なレオタードだか水着だかも置かれていた。
あれ?
気が付いたらレオタードが足元から消えていた。おかしいなーと思ってアイテムボックスに注意を向けたらアイテムボックスの中に2セットレオタードがあった。解せぬ。
ガウンを拾いあげて試しに上から羽織ってみたのだが、羽織った感じ重厚感が全くない。そもそも布も薄いし。もしかして、これってコスプレ衣装じゃないか? そう思って見るとそう見えてしまうようなチープさが黄金色のコアルーム内で際立っている。
疑惑は深まった!
わけではなく、疑惑を通り越して明らかに没だ。ミスコンガウンはアイテムボックスの素材ボックスに突っ込んでおいた。
方向性は正しいはずだ。
コアならラシイのが創れるような気がしたので、コアにお任せで頼むことにした。
「コア、王さまの着るような豪華なガウンって創れないか?」
「創れると思います。マントでもよろしいでしょうか? かつて異世界の女神さまが、神として封じられる前に羽織っていたマントと同じものになります」
「それはいいじゃないか。それで頼む」
「はい、マスター。
でき上がりました」
足元にたたまれて置かれたマントは、先ほどのコスプレ衣装と比べ明らかに大きく重厚感がある。女神が羽織っていたというだけのことはある。色は黒。おそらくビロードだ。
拾い上げて、両手で広げてみたところ、表側は、たたまれていた時の表側なので高級感がにじみ出るような黒いビロードなのだが、裏地が黄色地に黒い横縞だった。そして異様に大きな襟が顔の側面から後頭部を覆うように大きく立ち上がっていた。
なまじ高級感があるためにトラ柄の裏地が見えたらアウトだな。このマントを着ていた女神は一体どういった美的センスをしていたのか疑問ではある。
「いかがですか?」
これまで『いかがですか?』とかコアに聞かれたことなど一度もなかったはずだが、コア自身何か感じるものがあるのか? ちょっとおかしいとか?
疑惑は深まった!
とはいえ、裏地が見えなければ、王さまの衣装として申し分ないような気もしてきた。俺とすれば、トラ柄などではなく赤地にCの字が欲しかった。まあいい。せっかくコアが創ってくれたものだからありがたく着てやろう。
用件は終わったので、コアに礼を言って屋敷の居間に戻った。
居間では、オリヴィアがピアノを弾いてその横に華ちゃんが立って楽譜をめくっていた。
ピアノの邪魔になっては悪いので黙っていたら、華ちゃんと目が合った。
華ちゃんは、
「オリヴィアちゃん。ちょっと悪いけど席外すね。プフ……」
そう言って、なぜか口に手を当てて居間から走り出ていった。
オリヴィアは俺を見て「お父さん、お帰りなさい」と、言ってくれた。
「ただいま」
華ちゃんのさっきの動きは何だったんだろう。急にトイレに行きたくなったわけでもないだろうに。
コタツに入ろうとカーペットの横で靴を脱いでいたらマントを着たままだったことに気づいた。
トラ柄は見えなかったはずだが、そういうこと?
めげてはいけない。少なくともオリヴィアは受け入れてくれたので、こういったマントがこのオストラン王国で文化的に忌避されているということはなさそうだ。
ならばよし!
視察団の連中も視察後レポートくらいは提出するのだろう。そのレポートの中で、オストラン国王はトラ柄を好むようだ。とかまさか書くまい。なら、十分だ。
マントを脱いでアイテムボックスに収納し、念のためコピーしてからコタツに入った。
誰もコタツに入っていなかったせいか、コタツに電気が入ってなくて中は冷たかった。
[あとがき]
常闇の女神シリーズ1『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』
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