第391話 イワナガ・コーポレーション2。ロイヤルアルバトロス号
エヴァが会社を作ろうと言った日から10日(654年1月23日)ほどで株式会社イワナガ・コーポレーションが設立されたとアスカ3号から報告を受けた。俺の口座から会社用に新しく開いた口座に100億振り込むようアスカ3号に指示して振り込みは完了している。エヴァ自身は視察団の一員として、日本の国内を視察しており留守中のことだ。
取締役社長は岩永エヴァ、俺は取締役会長。今のところ役員は二人だけの会社だ。取締役と一応カッコつけに役職の上についているが、当分の間取締役会を設置するつもりはない。
防衛省の野間次長に民間企業の経営者になっていいか専用スマホで確認したところ問題ないと言われたので安心して会長になった。
株式数は100株、額面は1億円。全株俺が所有している形だ。エヴァは会社設立を請け負った業者から額面を小さくして発行株数を多くしろと言われたようだが、株式を公開してまで資金を集める必要はないし、お金が必要なら100億単位で増資して俺がその分引き受けるだけなのでこれで押し切った。
エヴァはリクルート会社に求人を出している。求人の内訳は労務管理者、経理責任者各一名だ。人数的には小さな会社だが、法人は社会保険に加入する義務があるようなので、それらは新たに雇用する労務管理者に任せることになる。
どちらも管理職待遇だが今のところ部下はいないので自ら実務の必要がある。そのため年間給与1000万を提示しての求人だ。こちらの条件を示したおりリクルート会社から応募者が多数になるだろうと言われたので、地域社会貢献のため、できればマンションの市内に住む人からという条件を付け加えていた。
市内からだけでも既に複数応募者がいるようで、エヴァが視察から帰ってきたら『会社』で面接することになっている。面接者は俺とエヴァとアキナちゃん。これで間違いはないだろう。
会社はうちのマンションから50メートルほど離れたアキナちゃんが所有するマンションで、大きさは3LDK。事務室として居間を使い、社長室が1室。残った部屋は物置にする予定だ。
事務机と椅子を2組とキャビネットを置いている。電話は固定回線とデータ回線を現在予約中だ。パソコン等はアスカ3号がパーツを買ってすでに組み立て終わっている。その他にファイヤーウォール用の大型のパソコンだかワークステーションをアスカ3号が用意した。仕組みは分からないが、IT担当者の超高性能美少女ゴーレム、アスカ3号がすることなので間違いはないだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ロイヤルアルバトロス号のスクリュー2個がマンションの駐車場に届けられた。
俺はそれをコアルームの隣りに作られた造船所に運んで、アスカ2号が指示する場所に取り出してやった。届けられたスクリューをコピーして新たに2つスクリューを作ったのだが、新たなスクリューは2つとも羽の向きを反転させてくれとアスカ2号に頼まれたのでそうしている。
もちろん人手で持ち上げることなどできない重さだが、ゴーレム作業員がロイヤルアルバトロス号の船尾の船底から突き出た軸まで持ち上げて、アスカ2号が軸にはめ込み固定した。その後付属のキャップを取り付けできあがり。残った軸にもスクリューを取り付けて作業は完了した。
最高速度は実測しないと分からないとアスカ2号は言っていたが、それでも、
「最低でも35ノット=時速65キロは出ると思います」
とのことだった。ロイヤルアルバトロス号は燃料を気にする必要のないゴーレムエンジンを搭載しているため、際限なく最高速でかっ飛ばせることを考えると、とんでもなく高性能だ。
建造用の足場は片付けられ、荷物搬入用の傾斜路のための足場だけが残っている。
「マスター、これで浸水試験可能です」
「とうとうここまできたな。
さっそく浸水試験だ」
ロイヤルアルバトロス号の全長は数字上たかだか120フィート(35.5メートル)なのだが、架台の上に乗っかっていることもあり、近くに立つとものすごく大きく感じる。
船側に窓が大きく取られていてすごくモダンだ。設計はアスカ2号だから、アスカ2号のセンスなんだろうな。アスカたちのことを超高性能、超高性能とあるごとに言ってるけど、ほんとに超高性能だ。
浸水試験は淡水で実施した方がいいので、ロイヤルアルバトロス号をZダンジョンの大空洞で見た湖に運んでいくことにした。
「収納!」
ロイヤルアルバトロス号をアイテムボックスに収納して、アスカ2号を連れてZダンジョンの大空洞に跳んだ。
湖のほとりに2人で立って
「アスカ2号、100メートルくらい先にロイヤルアルバトロス号をアイテムボックスから出すけど、水深は大丈夫かな? 俺の感覚だと6メートルくらいはあるんだが」
「喫水は3.0メートルですから、それだけあれば大丈夫ですが、水平になるように排出してください」
「了解。
排出!」
湖の水面ギリギリにロイヤルアルバトロス号を収納したときのまま排出してやった。
一度大きく船体が沈んだがそれだけで安定した。
「このまま5分ほど浮かべておけば大丈夫かな?」
「今は空船なので、喫水まで沈んでいないため何とも言えません」
何だよ。早く言ってくれよ。バラストとして何か船底に置いておけばいいだけだから、水袋を作って少しずつ船底に置いていくか。喫水まで船が沈めばいいだけだしな。
待て待て、一応ロイヤルアルバトロス号はひっくり返ることもなくちゃんと浮いているんだから、華ちゃんの重力魔法で重力を少しずつ強くしてかけてやればいいんじゃないか? 均一に重力がかかるなら重力が2、3倍になったくらいじゃ船体が壊れることはないだろう。
「アスカ2号、ロイヤルアルバトロス号はこのままにして、華ちゃんを呼んでくるから様子を見ていておいてくれ。すぐに戻る」
「はい」
ロイヤルアルバトロス号を湖面に、アスカ2号を湖のほとりに残して、俺は屋敷に戻った。
華ちゃんは居間でオリヴィアと並んでピアノを弾いていたので、引き終わるのを待って、
「ちょっと華ちゃん、ロイヤルアルバトロス号のことで手伝ってもらいたいんだ」
「はい?」
「水に浮かべて浸水試験をしたんだけど、まだ中身が空だから喫水まで沈んでくれないんだ。それで華ちゃんの重力魔法で重力をかけて喫水まで沈めたいんだよ」
「分かりました」
「オリヴィア、時間はかからないと思うから」
そう言い残して、華ちゃんを連れてアスカ2号が待つ湖のほとりに跳んだ。
「浮いてますね」
「アスカ2号とコアの仕事だから問題が起こるとは思えないけれど、人が乗るものだからな。
ということなんで、少しずつ重力を強めて喫水まで船を沈めてくれるかい?」
「あー。魔術は発動させたらそれっきりで強さは変えられないんです。なので、かけて、解除して、様子を見て、それから強さを加減してかける。の繰り返しになりますが、それでいいですか?」
「それで十分だ。
アスカ2号、注意点とかあるか?」
「重力魔法が船全体に均等にかかるようにして、浮き沈みでロイヤルアルバトロス号が振動しないようお願いします」
「了解。グラヴィティーを解除してからロイヤルアルバトロス号が落ち着くまで待って強さを変えた次のグラヴィティーを発動するね。
グラヴィティー!」
重力魔法が発動して30センチくらい沈んだ。
「解除」
「華ちゃん、あと50センチくらい沈めばいいから、今の3倍くらいの強さでいいんじゃないか?」
「了解。
グラヴィティー!」
喫水より少し深く船は沈んだが問題はないだろう。
「そのまま1分くらい発動したままにしてくれ」
「了解」
……。
「解除してくれていいよ」
「解除」
「華ちゃんありがとう。
これでロイヤルアルバトロス号を造船所に運んで水漏れチェックだ。
収納」
ロイヤルアルバトロス号をアイテムボックスに収納して、華ちゃんとアスカ2号を連れていったん屋敷の居間に跳んだ。そこで華ちゃんを置いて、俺とアスカ2号で造船所に戻った。
アイテムボックスから排出する時、架台の上にキッチリのっけないといけない。
「さーて、船の架台にちゃんと置かないとな。
架台の上に緩衝材になるようゴムとかがあればいいんだがな。
コア、できるか?」
『はい』
「じゃあ、頼む」
『できました』
「サンキュー」
架台の上に厚さ10センチほどの黒いゴム板が張り付いていた。これなら排出時少し上に出して上から落ちても大丈夫だろう。
「いくぞ、なるべくギリギリに。排出!」
心配するほどのこともなく、ロイヤルアルバトロス号はゴムの上に音もなく乗っかった。
アスカ2号を連れて作業用の足場に上り、そこから上甲板に乗り込みタラップを伝って船底まで下りてみた。
「水漏れはどこにもなかったな。
そしたら、これから艤装工事だな?」
「はい。
排水ポンプなども含めて機械設備などの準備は終わっていますが、まだ内装用の資材が届いていません。
厨房器具やベッドなどの大型の資材の運搬はマスターにお願いします」
「了解。荷物が届いたら知らせてくれ、すぐに運ぶから」
「よろしくお願いします」
これから、アルバトロス号内は船底に重量物を設置していき、その後、器材の設置と内装を並行して行なっていく。
船外については、塗装が始まる。
完成後は、真っ白い船体に強化グレイガラス製の船窓が並び、喫水線として船首から船尾にかけて水色のラインが1本引かれる。
ジュールベルヌの『空中戦艦』(征服者ロビュール)に登場するのがアルバトロス号。




