第387話 皮算用。
エヴァと外務省とのやり取りで、こちらの視察団の出発は日本のカレンダーで1月21日となった。もちろんこれについてブラウさんの了承を得ている。
視察のスケジュールは、
視察団員は当日9時前に宮殿の玉座の間に集合。団員たちに俺から有難いお言葉があり、その後10人を第1ダンジョンの入り口の空洞に一人ずつ転送する。その時俺は付いていかない。
転送先の第1ダンジョンは9時から9時30分までの30分間空洞部への立ち入りを禁止し、護衛員により封鎖することになっている。1週間前から周知しているので間違いはないだろう。
ダンジョンを出た視察団は、外務省が用意したバスに乗り込み、外務省の庁舎で簡単なレクチャーを受けた後視察のため再度バスに乗り込み視察先に移動する。
初日の視察が終われば、歓迎レセプションが催される。レセプションには外務大臣も出席する予定だ。
10日間の視察を終えた視察団は出現した時と同様に封鎖された第1ダンジョンの入り口の空洞に戻り、待ち受けた俺が宮殿の玉座の間に視察団の10名を転送する。
玉座の間で俺が視察団をねぎらい、解散。
というのが、大まかな視察の流れだ。
細かいところだが、視察団員用に日本での歩行者の交通ルール、ホテルなどの宿泊施設での注意事項などを書いた小冊子をエヴァが用意している。エヴァはスマホを持っているので、もし何か危急の用件が発生した場合などは、マンションの固定電話でも俺のスマホでも電話することができる。
こちらが送り出す視察団についてははっきりと目途が立った。
これに対して、日本からの視察団の受け入れだが、2月3日(水)から3週間を予定している。都オストランから各所を巡ることになる。まずはオストラン王国の全体を把握したいという意向のようで、特別どういった場所を視察したいとの要望はなかった。
馬車移動しかできない以上3週間では王国全体を巡ることは無理なので、都オストラン周辺の視察にとどまることになる。こちらとしては、都の現状、農林水産業、鉱工業、軍隊、商活動などを中心に紹介した後、日本町として考えている用地を視察団に見せる予定にしている。馬車で国内を移動することになるが、今回日本に送る視察団のメンバーから選んだ案内役を付けた上、護衛として陸軍の1部隊を付ける形になる。
週が明けて、その日の午前中。マンションの駐車場でダンジョン宿舎用の厨房設備などを受け取った俺は、アスカ1号と2号を連れてダンジョン宿舎に跳んだ。
厨房設備の取り付けは夕方までに終わるということだったので、そのころ迎えに行くと言い残して屋敷に戻った。
夕方4時ごろ、エヴァを連れてダンジョン宿舎に跳んだら、厨房設備の据え付けは終了していた。食材などは明後日から業者に依頼してダンジョンの最初の空洞内まで運んでもらい、そこからゴーレム列車に乗せて宿舎まで運んでくることになっているそうだ。
宿舎の増築もマーロン建築に発注しているそうで、厨房の使用法に従業員たちが慣れる一週間後から工事を始めるということだった。
アスカたちと一緒に屋敷に戻った俺は、少し遅くなったので子どもたち用に風呂の準備をしただけで風呂には入らなかった。
翌日。
だいぶ間が空いたが今年最初の防衛省での会議が開かれた。
まず、防衛省側から、新年某国からダンジョンの放棄とニューワールドに対する機会均等などという無理な要求がなされ、日本政府はこれを即日拒否した。という話があった。これについては華ちゃんから聞いていたのでそれだけの話だったが、その後、某国の工作員によるものと思われるダンジョンへの破壊行為が行なわれたという説明があった。いずれも未遂で食い止められたそうだ。
ダンジョンへの破壊行為の話はネットにも流れていなかったようで華ちゃんも驚いていた。しかし、俺のダンジョンに何してくれるんだ!
当初防衛省では、対応として持ち物検査機の導入を考えたが、そもそも凶器を持ってダンジョンに入っていく冒険者に対してあまり意味がないのでは、ということと、いらぬ憶測を生みかねないという判断で持ち物検査機の導入は見送ったそうだ。
俺も不届き者に俺のダンジョンを荒らされて客入りが減っては困るので、何か対応を考えた方がいいと思うが、ちょっと思いつかなかった。帰ったらコアに相談してみよう。
次の説明で、冒険者の入場数が少なくなると考えられる大みそかから階段間をつなぐ本道にケーブルを埋設する工事を第5階層まで行ない、携帯基地局設置を含め1月4日の深夜工事が完了したそうだ。
工事では、大型掘削機械により本道を拡幅しながら溝を掘り、溝の中にコンクリート樋を設置しその中にケーブルを敷設。樋の上にコンクリート製の蓋を被せ保護したそうだ。
「工事はこういった感じで完了しました。
ダンジョン内の岩盤が多孔質ではありませんが大谷石のように均質な上硬度もそれほどないため、大型掘削機械の効率が高く、作業は非常に順調だったようです。
それで、ダンジョン協会では、ダンジョン内での土木工事の目途が立ったということで、第1ダンジョンの入り口空洞を拡幅して発電室を作り、先般岩永さんから購入した10機の60センチのメタルゴーレムコマ2機を直列にして発電機に繋げたタンデム型ゴーレム発電機を5台製作し、さらにその5台を並列にして、出力1万kWの小型発電所を作ることにしたようです。
タンデム型ゴーレム発電機は完成しているそうなので、あとはダンジョン内に発電室を作り、発電機やそのほかの機器を据え付けるだけでいいようです。発電室が稼働すれば、ピラミッド周辺の施設の電力がすべて賄い、余った電力は売電する予定だそうです。
これは支障なくでき上るんでしょうが、そうしたら、ダンジョン協会ではさらに大型のメタルゴーレムコマを岩永さんに発注して、それを組み込んだ大型発電機を使い本格的な発電所を作りたいと言っていますので、その時はよろしくお願いします」
「了解しました。
大型のメタルゴーレムコマですがどれくらいの大きさのものをお考えですか?」
「直径3メートル、同じように2台直列にして発電機に繋げたものを5機並列で出力125万kWの発電所を造る計画のようです」と、野辺次長が答えてくれた。
野辺次長は続けて、
「これはわたしの想像ですが、その次は直径6メートルで発電機を作るんじゃないでしょうか。直径が2倍なので出力が8倍とすると、これを10機使えば125万kWの8倍ですから1千万kW。首都圏全体の電力需要は4千万kWと言われていますからその4分の1です。こうなってくると、ダンジョン協会は電力会社になってしまいますね。性質上民営化されることはないでしょうが、超優良企業でしょう」
そこまでいくとなんだか途方もないな。しかし、超クリーン発電だ。俺のダンジョンが社会貢献しているようで実に喜ばしい。
それはそれとして、直径3メートルのゴーレムコマをいくらで買ってくれるのか分からないが、相当高額になるような気がする。
直径60センチのメタルゴーレムコマ1個で2億ちょっとだったわけだから、単純に考えて、直径3メートルだと体積は5の3乗で125倍。機械出力も125倍。ならば価格も125倍だろう。そうすると1個でだいたい250億。10個となると2500億。うほー! アキナちゃんの予想年間利益並みだな。そして、直径6メートルのメタルゴーレムコマ10個だと2500億の8倍で2兆円! おいおいおいおい。いいのか? 俺は嬉しい悲鳴を上げちゃうよ。




