第383話 元旦
年が明けた。
未成年者が三々五々コタツから出て居間から出ていく中、俺と親父とはるかさんは夜遅くまで酒を飲んでいた。そのうち親父は自分でマンションの自分の部屋に帰っていったところでお開きになった。
はるかさんが自室に帰ると言ってコタツを出ていったところで、俺はコタツに足を突っ込んだまま横になって寝てしまった。
音がすると思って目を開けると、リサがコタツの上を片付けてくれていた。
元旦の朝食は、昨日の残りのおせち料理を詰め直したものと、巻きずしとお吸い物で、リサがどこに朝食を用意するのか聞いてきたので、今朝もコタツで食べることにした。
子どもたちも朝の支度を終えて居間に下りてきて、そのままリサの手伝いに台所に行った。俺はスマホでマンションの固定電話に電話して、アスカ3号に、朝食の準備ができたので居間にやってくるよう親父に伝えてくれと頼んでおいた。
朝食の準備はすぐに終わり順にコタツに座ったところで、親父もそんなに遅れることなく居間にやってきて全員揃った。
「明けましておめでとうございます」
「「明けましておめでとうございます」」
日本語スキルにはこういった言葉にも対応しているようだ。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
朝食が終わった後、リサ以下の6名にお年玉を配った。
去年はリサに金貨3枚、子どもたちには金貨1枚だったが、エヴァとアキナちゃん、それにイオナは今となっては大金持ちだ。だからと言って何もなしというわけにもいかないので、今年はリサに金貨10枚、子どもたちには金貨5枚をそれぞれ渡しておいた。一般家庭のお年玉の相場相当なのかどうかはよく分からない。お年玉は、もらう方からすれば多寡の問題なのだろうが、上げる方からすれば多寡ではなく気持ちだからな。俺が満足すれば一応の目的は達成されたことになる。
大金持ち3人組のエヴァもアキナちゃんもイオナも喜んでくれたようだ。
それを見ていた親父が急に、
「年賀状がきちょーけん、いったん家に往ぬ」と急に言い始めた。
「あんまり早く帰っても仕方がないから、昼を食べて帰ったらどうだ?」
「善次郎、ちょっこし」
そう言って親父が小声で俺を呼ぶので、耳を貸したら、親父がさらに小声で、
『お年玉の用意をしとらんかったんじゃ』
「クリスマスでみんなに結構なものをプレゼントしているんだし、気にするなよ」
「それとこれとは別じゃろ」
「わかったよ。じゃあ、今から取りに戻るか?」
「そうじゃの。そうしてごしぇ」
そういうことになったので、
「ちょっと、親父は用事でいったん実家に戻るけど、すぐに帰ってくるから」
俺はそうみんなに告げて、親父を連れて実家に跳んだ。コタツにいた関係で靴を履いていなかったので、今回はいつもの玄関の土間ではなく土間に続く板の間に跳んだ。戸締りをしているので家の中は結構暗いし、人がいなかったせいで肌寒い。家の外はおそらく大雪が積もっているはずだ。
親父は「ちょっこし待っちょってくれ」と、言って、奥の方に歩いていった。
親父が奥で作業しているあいだに雪下ろしでもしてやろうと、土間に下り、予備の靴を履いて玄関の戸のねじ鍵を開けて外に出たら一面の銀世界だった。
フー。息は白くなるし、寒いじゃないか。いくら寒暖に対して抵抗力を持った俺でも、外は十分寒かった。
空はどんより曇っているし、久しぶりに冬の山陰を感じてしまった。10年以上この感じを味わっていなかったので、懐かしいと言えば懐かしかった。
屋根の上には1メートルほど雪が積もっていたので、雪を感じながらきれいに屋根に積もった雪をアイテムボックスに収納してやった。結構大きな家なのだが、30秒ほどできれいに雪下ろしできた。ついでに、玄関から門に続く小路も雪かきしてやった。
玄関の土間に戻ってねじ鍵をかけ、靴を脱いで板の間に上がって5分ほどして、小さなかばんを持って親父が帰ってきた。
「善次郎、待たしぇたな」
「待っている間に屋根の雪を全部片づけておいたから」
「雪下ろししたのか?」
「下ろしたわけじゃないが、屋根の雪は俺がもらっておいた。
じゃあ、むこうに帰ろうか」
首を傾ける親父を連れて屋敷の居間に戻った。
居間では、朝食の後片付けも終わっていた。
「お年玉を持ってくーのを忘れちょったんで、取りに往んだんだ。
それじゃあ、アキナちゃんから順番にお年玉を渡すけん」
そう言って親父は封筒をアキナちゃんから順に、はるかさんまで配ってしまった。
華ちゃんとはるかさんが「わたしも?」と言っていたが、親父が当たり前の顔をして、
「そりゃそうじゃろ」と、言ったら、「ありがとうございます」と言って二人とも受け取った。なんであれ、そういった物を貰えば嬉しいものな。俺も二人にお年玉を渡した方が良かったのだろうか? それはいいのだが、親父は俺にはお年玉をくれなかった。
封筒の中身はどの程度なのか、探る気になれば俺のアイテムボックスだか転移の能力で簡単に認識できるのだが、さすがにそんなことはしなかった。
「年始の行事も終わったことだし、今年は初詣に行ってみないか?
大きな神社がマンションのある街から2つか3つ先の駅から歩いて行けたはずだ」
「それじゃあ、着替えてきます」
女子たちは居間を出て2階に上がっていった。
「善次郎、正月の晴れ着をちゃんと用意しちょーのか?」
「いや。思いつきもしなかったので誰も用意していない」
「そらぁいけん。
生活に余裕がなえなら仕方なえが、余裕があーだけん子どもにできーことをちゃんとしてやれ」
「確かに親父の言う通りだ。今回は間に合わないが、何かの行事があったら晴れ着を揃えるようにしよう」
「それがええ。そげしたら家族そろーて写真屋に行ーて写真を撮ってもらえ」
「写真屋もいいかもしれないが、イオナに頼んで絵にしてもらってもいいな」
「それもええな」
「で、親父は今の格好でいいのか?」
「あっ! こらぁいけん。
善次郎、服を着替えてくーけんもう一度家に戻ってごしぇ」
「俺のジャンパーを貸そうか?」
「正月だけんちゃんとした格好をしてえ」
本人がそうなら仕方がないので、俺は再度親父を連れて実家に跳んだ。
5分ほどで親父がスーツらしきものを下に着てオーバーコートを羽織って出てきた。
「靴はどうする? 雪は降ってないから普通の革靴でいいんじゃないか?」
「そうだな」
親父がこげ茶色の革靴を土間の下駄箱から取り出し、手にしたところで、コタツの乗ったカーペットの上に転移した。
女子たちがみんな余所行きに着替えて居間に集まったところで、俺も親父も靴を履いた。俺ははるかさんにもらった毛糸の帽子を装着した。
「みんな俺の手を取ってくれ」
全員俺の手を取ったところで、俺は初詣に行こうと思っている神社に一番近いところに転移した。
日本の冷気に当たっても頭部が非常に快適である。




