第382話 大晦日2
俺は今日の政府からの発表を居間のコタツに一人座って小さなスマホで見ていた。コタツの上にはミカンが山盛りになったカゴが置かれている。
他の連中も日本政府の発表に興味がある者は、自分のパソコンの大きな画面で政府の発表を見ていると思う。
『……。そういった状況であります。
宇宙からのファーストコンタクトではありませんが、人類は初めて他の人類と接触したわけであります。
すでに、外務省では先方、ニューワールドの一国であるオストラン王国政府と接触を果たしており、近日中にオストラン王国からの視察団を受け入れる予定です。先方の視察が終わり次第わが国からも先方に視察団を送る予定です。
……』
さすがは官房長官で、当たり障りのない言い回しでニューワールドの存在が公式に発表された。
これでオストラン側の視察団はすんなり日本側に受け入れられるだろう。
俺が、スマホを見ていたらリサがやってきてお茶を淹れてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして。
今日の夕食からお正月料理になりますが、お爺さんを呼んではどうですか?」
「それもそうだな。一人でいるよりこっちでみんなと一緒に正月を迎えた方がいいからな。
マンションの寝室一つ親父用の部屋にしてしまうか。となるとベッドを用意しておかないと」
俺はお茶を飲み終わってからマンションに跳んで日当たりのいい部屋を選んでベッドを置いて、寝具も用意してやった。タンスを置いてもよかったが、部屋にはちいさなクローゼットが付いていたのでタンスは置かなかった。
親父用の部屋の準備を終え、俺は実家の土間に跳んだ。そこから奥にいるはずの親父に向かって、
「おーい。親父ー、俺だー」
『はえはえ、ちょっこし待ってろ』
どてらを着た親父がやってきた。
「親父、今日はうちに来て夕食をみんなで食べて年を越さないか?」
「善次郎、だんだんな。
正月用の料理だけは隣のおばさんに作ってもらーちょって冷蔵庫に入っちょーんだがな。
隣りの家も正月は都会に出ちょった子どもたちも往んできて一家団欒で、儂の世話は難しんなーけん、善次郎の言葉に甘えて世話になーとせーー。
戸締りして着替えとか持ってくーけんちょっこし待っちょってくれ」
10分ほどで旅行用の小型の手提げかばんを持った親父が戻ってきたので、親父を連れてマンションの玄関に跳んだ。
「親父、ここが俺が買ったマンションだ。そこの壁が揺れてるだろ? そのゆらぎの中に入って黒い板が左に見えるからその板に向かって進むと俺のあっち側の家の玄関ホールのゆらぎの先に出るんだ」
「この前見たあのゆらぎか?」
「そういうこと」
親父を連れてマンションの居間に入ったら、アスカ3号がいた。
「マスター、お帰りなさい。
マスターのお父さまですね、こんにちは」
「アスカちゃんだな。こんにちは」
「先日は高価なものをいただきありがとうございました」
「気にしぇんしぇええよ。
ほう、善次郎、日当たりがようてぬくえな」
「あっちに比べると天気もいいからな。
それで、親父の部屋はこっちだ」
親父用の部屋に案内してやった。
部屋の中に入ると、置いたままだった寝具が知らぬ間にベッドメイクされていた。管理人のアスカ3号がやってくれたのだろう。
「親父はこの部屋を使ってくれ」
「わかった」
荷物を置いた親父を連れて玄関に戻って、先にゆらぎの中に入り小部屋の中で親父が出てくるのを待っていたら、すぐに親父が黒い板の中から出てきた。
「ここはダンジョンの中なんじゃろ? 中はキンキラきんなんじゃな」
「ダンジョンの内装にも、いろいろ種類があるんだよ。
親父、そこの黒い板に指をちょっとだけ当てて押してみろ」
親父が人差し指を黒い板にあてて押したら、指が何の抵抗もなく見えなくなった。
「指がのうなった。あっ! 治った!」
「あっちの玄関ホールに指だけでたんだ。向こうから見ると気味悪いから、そのまま歩いて出てくれ」
「ぶつけんなえのか?」
「いま指が何も当たらなかっただろ? ゆらぎの中に入るのと同じだ。心配なら目を瞑って歩いていけばいい」
親父は目を瞑って黒い板に向かって歩いていきそのまま見えなくなった。俺も親父の後からすぐに黒い板の中に入って、玄関ホールに出た。
「何ともなかったろ?」
「不思議なもんだな」
「ダンジョンだからな。
居間でゆっくりしててくれ。
おーい。親父を連れてきたから、居間にお茶かなんか頼むー」
台所の方に向かって大きな声を出したら、すぐにリサがやってきて、
「お爺さん、こんにちは。
少し待っててください」
それだけ言って台所の方に帰っていった。
その後、2階から子どもたちが下りてきて、親父と一緒に居間に入っていった。
今日は華ちゃんとはるかさんも台所に入ってリサの手伝いをしているというか、リサから料理を習っているらしい。
親父のことは子どもたちに任せて、俺は屋敷の周りを点検して歩いた。
発電小屋は今となっては発電機を停止しているのでタンクの軽油が減ることはない。中を軽く見ただけで、敷地の中を見て回り、プロパンガスを補充したあと、屋敷の中に戻って消耗品を補充して回った。
午後3時には、親父と一緒に風呂に入り、その後子どもたち、そして正月料理の準備をあらかた終えた華ちゃんたちが風呂に入った。
正月料理には日本酒が欠かせないのだが、それなりの日本酒のコピーレシピはあったが、あいにくいい日本酒のコピーレシピがなかった。
寒くはないと思うがジャンパーを着込んでから、日本酒を調達するため、焼き肉屋の入っている商業ビルの近くに跳んでいった。そこから地下のスーパーに歩いていった。いい酒は4合瓶しか置いていなかったが、何種類か買って帰った。
大晦日の夕食はコタツでとることになり、一日早いがお雑煮とおせち料理、それに巻きずしが並べられた。
「「いただきます」」
雑煮の入った大きな土鍋が1つ携帯ガスコンロの上に乗っている。大人はおせち料理を肴にしてお酒を飲むし、年越しそばの用意もしてあるので、雑煮は食べたとしてもそんなに食べないだろうという予想だ。
日本酒は錬金工房で5度くらいにまで冷やしてグラスに入れて、親父、はるかさん、リサに配って4合瓶を2本だけ氷を入れたバケツに突っ込んでおいた。
子どもたちというか未成年者たちには、炭酸水、コーラ、各種のジュースのボトルをこれも氷を入れたバケツの中に入れている。バケツは邪魔なので、コタツの近くに持ってきたワゴンの上に乗っけている。
おせち料理は酒の肴としては優秀だ。俺だけそう感じるのかもしれないが、味が濃い目なところが日本酒に合う。




