第358話 俺たちのダンジョン
オストラン王国の王さまとして日本からの視察団の謁見を受けたり、俺自身が国賓として日本政府に招かれるということからの現実逃避的に、今日は久しぶりにダンジョン探索をすることにした。最下層を目指すための最終兵器、ピョンちゃんを投入するので、進展が期待できる。
アスカ1号は自宅警備、2号はミニ発電所、3号は2号の手伝いで物品の購入係を務めている。
まずは俺たちのダレン南ダンジョンの第1階層。最後に探索した位置に跳んだ。
そこは石造りの通路上で、通路の左右の壁には扉が並んでいる。華ちゃんが一連の魔法を唱えたところで探索を再開した。
「ピョンちゃん、このダンジョンにコアがあるならそこに連れていって」
華ちゃんがピョンちゃんに頼んだら、ピョンちゃんがピヨンと鳴いて華ちゃんの肩から飛び上がった。
「ピョンちゃんが鳴いて飛んだってことは、このダンジョンにもちゃんとコアがあるってことでピョンちゃんが有効だったってことだよな」
「そうみたいです」
ピョンちゃんが向かう方向に先回りして華ちゃんがグラビテーを発動させ、デテクトアノマリーで赤く光っていた場所にあった罠を作動させていく。
こうして、Zダンジョンを攻略した時と同じ方法で、ピョンちゃんの後を追うこと2時間。
「ここって、金色のドラゴンが妙な謎かけした広間に続く通路だぞ」
マップスキルで視界の右下に現れているマップには楽園に通じる広間が見えていた。
「あの部屋に楽園とはちがうところにつながる通路があったのかな?」
「見逃したとは思えませんが」
「いってみればわかるだろう」
やっぱりピョンちゃんは、広間の中に入っていった。
警戒しながら広間の中に入っていったものの、楽園に続く通路の入り口が見えるだけで、もちろん黄金のドラゴンもいなかった。
ピョンちゃんは構わず、その楽園に通じる通路に向かって飛んでいった。
「楽園がコアルームへの入り口だったのか?」
「ということは、台座の場所で現れる下り階段を下りて第2階層のどこかに下り階段があるわけですね」
「盲点だったというか第2階層をすっかり忘れていたものな。俺たち、この第1階層をくまなく探索してたからしかたがないよ」
通路に入って、100メートルほどで前回同様、行き止まりになっていた。鍵を使ってもよかったが、面倒だし、どうせ楽園の中央広場の台座のところまで行くので、そこまで転移してやった。
台座の脇に現れたら、ピョンちゃんはすぐに華ちゃんの肩から飛び上がって台座の上でクルクル回り始めた。
「それじゃあ、大金貨を置くぞ」
アイテムボックスから大金貨を一つ取り出して、台座の上に置いたら、ちゃんと第2階層に続く階段が現れた。
階段に向かって華ちゃんがデテクトアノマリーを唱えたのだが、ピョンちゃんは階段に入っていかず、台座の上空をクルクル回っている。
「あれ? ピョンちゃん飛んでいかないなー」
「第2階層からは、コアルームにつながっていないってことでしょうか?」
「うーん、何だろうなー」
しばらく考えてみたが、理由は分からない。再度華ちゃんがピョンちゃんに向かって、
「ピョンちゃん、コアルームのある方向に飛んでいって」と、頼んだのだが、ピョンちゃんはピヨンと鳴いたものの台座の少し上をクルクル回っているだけだ。
「どうしたんだろうな。この台座が問題なのかな?」
「ゼンちゃん、その台座に大金貨を1つ置いたら階段が現れたのじゃが、もう一つ大金貨を置いたらどうなるのじゃろ?」
「変化はないんじゃないか?
試すのは簡単だから、やってみるだけやってみるけど」
俺は大金貨をもう一つ台座の上に置いてみた。
カチッ!
なんだかわからないが確かに音がした。
「いま、カチッ! って音がしたよな?」
「しました」「わらわも聞いたのじゃ」
「お父さん、一瞬ですが階段が消えてまた現れました」
「階段が消えてまた現れた?
じゃあ、試しに大金貨を一つ取って一つにしてみるか」
俺は台座の上に2枚置いた大金貨の片方を手に取った。
そしたらまた、カチッ! と音がして、キリアの言う通り確かに一瞬、階段が消えてまた現れた。
「何かあるな。階段が変化したかもしれないから、階段の上に目印になるように普通の金貨を1枚置いておこう」
俺は、階段の上から3段目に金貨を1枚置いて、それから大金貨を台座の上に1枚追加した。
さっきと同じようにカチッ! っと、音がして、一瞬、階段が消えてまた現れた。現れた階段に置いていたはずの金貨は消えていた。もう一度大金貨を一枚とり上げたら、カチッ! と音がして、階段の上から3段目に金貨が現れた。
「大金貨を2枚置くと、別の階段になるみたいだな。
階段の先も違うんじゃないか?」
金貨をアイテムボックスに収納して、台座の上に大金貨を1枚追加し2枚にした。
カチッ!
「こっちの階段を下りてみよう」
華ちゃんの魔法で異常のないことを確認して、俺たちは階段を下りようとしたのだが、ピョンちゃんは依然として台座の上空をクルクル回ったままだ。
「この先じゃないみたいだな」
「ゼンちゃん、2枚で階段が変化したんじゃから、3枚でも変化するかもなのじゃ」
「2度あることは3度あるか。
じゃあ、もう一枚」
3枚目の大金貨を台座の上に置いたら、またカチッ! と音がして、一瞬、階段が消えてまた現れた。
「おそらく3個目の階段だな」
「ピョンちゃんは台座の上を飛び回ったままです」
「3度あることは4度ある?
どこまでいくか大金貨を置いていこう。みんな階段とピョンちゃんに注意な」
「「はい」」「任せておれ」
4つ目の大金貨を台座の上に置いたところ、やはりカチッ! と音がして、一瞬、階段が消えてまた現れた。ピョンちゃんは台座の上空で旋回したままだ。
「5枚目」。カチッ!
「6枚目」。カチッ!
……、
「31枚目、これが最後の大金貨だ」
カチッ! 今回も階段が消えてまた現れた。ピョンちゃんは? と見れば、台座の上を旋回するのを止めて、階段に向かって下りてきて、中に入っていきそうになった。そのピョンちゃんを華ちゃんが呼び止め、階段に向かってデテクトアノマリーをかけた。
階段には異常はなかった。
「32個大金貨が必要だと、コアルームに跳んでこの前使った大金貨を返してもらわないといけなかったが31個で済んでラッキーだった」
「じゃろ?」と、ここでアキナちゃんの『じゃろ』が出た。
「よし、階段を下りていこう」




