第353話 アスカ3号、秘書
アスカたちが思った以上に優秀だった。IT、電気、DIY作業を任せることができる。
その日の午後。俺はアスカ3号に向かって、
「アスカ3号、お金をお前に預けているが、金庫があった方がいいと思うからネットで注文しておいてくれ。エヴァもちゃんとした金庫があった方がいいから2つな」
「はい、マスター」
「支払いは、銀行から振り込んでくれ」
「マスター、今後のことも考えてクレジットカードを作りませんか?」
俺はアルバイトだったからちゃんとしたクレジットカードは作れないと思っていたけど、いまは防衛省の職員だった。
「ならアスカ3号、俺の名まえでクレジットカードを適当に作ってくれ。年会費は気にしなくていいからな」
そう言って、アスカ3号に防衛省にもらったIDカードを見せてやった。最初にもらったIDカードはD関連室だったが、今は更新していてD関連局所属、特別研究員と書いてある。勤務先は親方日の丸。カード会社から見てバッチリな勤務先だろう。
「はい、マスター」
こうなってくるとアスカ3号は俺の秘書だな。
1号は自宅警備。2号は俺の個人警護、3号は俺の個人秘書。なんだかVIPだな。よく考えたら俺はこの国の王さまなんだからそもそもVIPだった。
そういえば、アスカ1号にはリサの買い物の荷物持ちもさせた方がいいな。
翌日には注文していた金庫が届いた。一つはマンションの一室、いわゆるS、サービスルームに置いておいた。もう一つは屋敷のエヴァの事務室だ。金庫は相当重くて、大人でも一人では動かせない重さだったが、アスカ3号は簡単に持ち上げた。とは言え、普通に持ち上げるには自分の体重が足りないので、異常にのけぞった姿勢で移動させた。アスカ2号に手伝わそうかと言ったが、一人で十分です。と、断られた。まさか、アスカ2号とアスカ3号は仲が悪いんじゃないだろうな。
金庫の開け方はかなり面倒なのだが、俺に限って言えば、アイテムボックススキルのおかげで、金庫の壁越しにアイテムボックスと物品のやり取りができる。クレジットカードは作ったが、とりあえず現金での買い物もあるだろうと思い、500万円ほど現金を入れておいた。
アイテムボックスの中の現金がだいぶ少なくなってきたので、
「アスカ3号、明日1億現金を引き出すから用意してくれ。と、銀行に連絡してくれ」
「はい、マスター」
クレジットカードもできることだし、1億円も現金があれば、あと10年くらいは現金をおろさなくても大丈夫だろう。
その後10分ほどして、コタツに入ってミカンを食べていた俺のところにアスカ3号がやってきた。
「マスター、銀行の支店に連絡したところ、明日9時30分にマンションに1億円届けてくれることになりました」
「サービスがいいな。その時、伝票にハンコを押せばいいんだろうな」
「そのようです。
それで、その際、先方の支店長が『お時間があるようなら、ごあいさつにうかがいたい』と、言っていましたがどうしましょうか?」
「来るのは勝手だが、俺が会わなきゃいけない道理はこれっぽっちもない。とはいえ、向こうも仕事だし無下に扱う必要もないから、会うだけは会おう。しかし、ゆらぎのある玄関の中には入れたくないし、少しかわいそうではあるが玄関前で会うしかないな」
「では、そのように先方に伝えておきます」
そう言ってアスカ3号は居間から出ていった。
どのように伝えるのかは分からないが、アスカ3号が良きにとり計らうだろう。玄関前はテラスになって一応庇もあるから、そこで我慢してもらうしかない。
それからもう10分ほどしてアスカ3号が戻ってきて、
「先方の支店長の他、役員も一緒にあいさつに見えることになりました」
普通預金に千数百億円も入っているって普通じゃないのかもしれないが、銀行の重役が来たところで何にもならないだろう。とはいっても来るなと言えるわけでもないし、そもそも先方の勝手だし、こっちがもてなすいわれもないし。
「ところでアスカ3号」
「はい、マスター」
「俺の代わりにアスカ3号が銀行に連絡したわけだけど、先方はアスカ3号のことを何と思ったんだろうな?」
「わたしの方から、わたしはマスターの秘書だと名乗っています」
気が利くな。
「そうか。それならこれからもそのつもりでやってくれ」
「はい、マスター」
そして、次の日。
俺はアスカ3号とマンションの居間で銀行から現金が届くのを待っていた。
9時20分に、あと5分で到着すると電話があり、キッチリ9時25分にマンションの玄関ホールからうちのインタホンに呼び出しがあった。それでアスカ3号が下の入り口の扉を開けてやった。
それから30秒ほどして、インタホンが鳴った。
俺はアスカ3号の後についていく形で、玄関から外に出た。
うちの玄関の外は胸たけのアルミフェンスで囲まれたテラスになっていて、フェンスの真ん中に門扉が付いている。その前でスーツを着たおじさん二人と、警備会社の制服を着た二人がいた。
「XX銀行の者です。失礼します」
俺は門扉を開けてやりながら、
「どうぞ、と言っても玄関の外で失礼します」
「お構いなく。わたくし、XX銀行で営業本部長をしております横山と申します」
そう言って、歳をくった方のおじさんが俺に名刺を渡したので、一応両手で受け取ってポケットにしまっておいた。
「早速ですが、1億円、どうぞご確認ください」
1億円となると1万円札で1万枚なので確認できるのかと思っていたのだが、警備会社の一人が小型の台車に載せていた金属ケースをその場で開いて、100万円の束を10個束ねた1千万円の束を一つずつ台車の上に並べておいてくれた。そして、その1千万円の束を金属ケースに戻した。
「よろしいでしょうか? ケースごとお納めください。
払い戻し伝票はこちらですので、ここにお届け印をお願いします」
準備していたハンコを押して伝票を返しておいた。
「通帳への記帳は後日支店でお願いします」
「了解。ご苦労さまでした」
俺はそう言って、金属ケースを手にしてマンションの玄関ドアを開けて中に引っ込んだ。
後ろの方から『あっ!?』とか聞こえてきたような気がしたが、気のせいだろう。
俺が玄関に引っ込んでから5秒したら門扉が閉まる音がして、アスカ3号が戻ってきた。
金属ケースは安いものではないのだろうが、茶菓子くらい持ってきても良かったんじゃないか? などと考えながら、俺は中身の現金をアイテムボックスの中に抜き出して、アスカ3号が何か有効活用する気がしたので、空になった金属ケースを渡しておいた。
1週間後、アメ〇クスのプラチナカードが届いたとアスカ3号から聞いた。これからはこのカードを使って決済してくれとアスカ3号に言われた。年間1、2億カードを使えば、1、2年でアメ〇クスからセンチュリオンカードに乗り換えを勧めるメールが届くでしょうと言われたが、何のことか分からなかった。そもそも、年間1、2億も買い物などできやしないからな。




