第348話 将来
IT化のビッグウェイーブに乗ってパソコンを俺以外全員で持つことになったので、屋敷の中で机を持っていない連中にパソコン用の机と椅子を支給していったのだが子ども部屋に机5つは入らなかった。
この屋敷は広い広いと思っていたが、あと残っているのは屋根裏部屋だけだ。
エヴァのパソコンはエヴァの作業部屋に置けばいいので、残りのパソコン4台用に屋根裏部屋に机と椅子を置いてやることにした。屋敷を買った時一度屋根裏部屋に上がっただけだったのだが、ちゃんと電灯も付いていればコンセントも付いていた。自衛隊さんありがとう。
さすがに屋根裏部屋はホコリがすごかったので、子どもたちに拭き掃除をさせたが、もとが屋根裏部屋なので見違えるほどという感じはしなかった。屋根裏部屋は学校の教室2つ分くらい広かったので、掃除は相当大変だったと思う。それでも、ホコリも無くなり小学校の教室程度にはきれいになったので、4人分の机と椅子を置いてやった。
パソコンを使うとなると、画面の文字を正確に理解しなくてはならないので、日本語のスキルがかなり高くないと支障が出る。子どもたちの日本語教育は華ちゃんの国語授業で十分かと一度は考えたが、やはり日本語のスキルブックをコアに作らせた。リサからアキナちゃんまで6個だ。
これで6人の日本語はジャパニーズ・ネイティブになったはずだ。
この関係で、華ちゃんの国語の授業は終了し、居間での円盤観賞会となったようだ。今では簡単に円盤を取り寄せることもできるので、それはそれでよかったかもしれない。国語の授業はなくなったが、もちろんはるかさんの算数の授業は続いている。
ネットワーク用のプリンターとデータ用の機器を置くため勉強部屋に長机を置いてやった。ここならプリンターもみんなで使える。
そんな感じで週末となった。
アスカ3号の話だと、注文したパーツは全部そろって、昨日中に8台のパソコンの組み上げは完了しているそうで、今日中にパソコンのセットアップも完了するそうだ。
俺はその報告を聞いた後、ブラウさんとローゼットさんを神殿で拾って、王宮に出勤した。アスカ2号も一緒だ。
ブラウさんに日本関係の話をしておくため、その日は宮殿の俺の執務室に直接跳んでいる。
日本の話をする前に、
「ブラウさんにもう一つわたしのことで話していなかったことを伝えておきます」
ブラウさんは知っていた方がいいだろう。
「陛下、わたしは部屋から出ています」
ローゼットさんが部屋を出ていこうとしたので、
「ローゼットさんも聞いてください」
「はい」
「それでですね、日本にもダンジョンがあるんですが、少し前に、わたしたちの冒険者パーティーで日本のダンジョンの最下層を攻略して、わたし自身はダンジョンマスターになったんですよ」
「はぁ?」
「だから、ダンジョンマスター。ダンジョンの最下層でダンジョン・コアを手に入れてダンジョンマスターになったんです。それでダンジョンの内のことならたいてい自由にできるんです」
「へっ?」
「だから、ダンジョンマスター」
「も、申し訳ありません。
陛下は要するに、ダンジョンを攻略してダンジョンマスターになられた?」
なんとかブラウさんの思考が追いついたようだ。
「さっきから言ってるように、そのダンジョンマスターになっちゃったんです。
それで、ダンジョン内でしか動けないんですが、かなり特殊なゴーレムを作ったんですよ」
「はい」
「先日日本へお連れしたとき話をした電気ですが、そのゴーレムを特殊な機械に組み込むことで電気を作ることができるんです。その電気を近い将来この王宮で使えるようにしようと思ってます」
「あの明るい光やいろいろな機械をこの王宮で使えるようになるということですか?」
「そういうことです。期待しててください。
それでですね。この王宮の中で工事をすることになるんですが、王宮や宮殿の図面ってありますかね?」
「わたしはまだ見たことはありませんが、王宮や宮殿も修理や増改築を行なっていたはずですから、あると思います」
「今すぐじゃありませんが、用意するだけは用意しておいてください」
「かしこまりました」
「電気と一緒に、コンピューターという特殊な機械も導入しようと思っているので、事務作業の効率がそうとう上がると思います。もちろんコンピューターも道具ですから使いこなせるように訓練する必要があります。ある程度訓練した上で、実際に使っていれば少しずつ慣れていくから、2、3年単位で考えていけば何とかなるでしょう」
「わたしでは想像できないんですが、陛下のお言葉ですから実現できるのでしょう」
「わたしもそのつもりで頑張りますからね。
それで、視察団のことですが、こちらの視察団が日本の視察を終えた後、日本から視察団がこちらに訪れます。人数は4名。日程などはまだ決まっていないんですが、1月の末から2月にかけてと思っていてください。
宿舎は都で上質の宿屋があればそこでお願いします。
各所を回って見て歩くので、馬車の用意も必要かな。
先走っても仕方ないので、こっちは心づもりだけでいいでしょう。
いちおう伝えたかったことはそんなところです」
「了解しました。
それではわたしは部屋に向かいます」
ブラウさんが執務室を出ていったあと、ローゼットさんが俺に、
「陛下、将来この国は日本のようになるのでしょうか?」
「うん。そのつもりだ。だけど、何もかも取り入れる気はないから安心していいよ。日本にあるものがいいものばかりじゃないはずだからね」
「先日陛下に日本に連れていただいたとき、日本のようにこの国が発展すればいいのにと思っていたんですが、たしかにうわべだけ見てもダメですね」
「どこかで言ったかもしれないけれど、人は努力しても報われるかどうかは分からないけど、努力しなければ報われないのは確かだ。国として国民にできることは、だれでも努力できるようにすることだと思うんだ」
「その通りだと思います」
「そのために大事なことは効果が出るのは遅いけど、教育と思うんだよ。特に子どもの」
「なるほど。
神殿や奴隷商館では孤児を引き取ってある程度の教育を施していますが、逆に親のいる子は教育水準がバラバラで、読み書きすらできない子もいます。
そういった子どもを対象に教育の場を設けるということですね」
「うん。日本だと6歳から15歳までの子どもは全員義務として教育を受ける場所、学校に通っている。そんなところは日本のマネをしたいところだな。そうすれば国民の教育水準が一定以上に保たれる。これからこの国は日本から技術を導入していくわけだけど、技術の導入にもある程度の教育水準は必要だしな。
この国の将来は、ひとえにこれからの国民の教育にかかっている。国民は教育を通じて努力することを学び、その結果、国は発展する。国民の教育レベルが上がれば国の発展が加速される。と、思うんだ。
何年かかるか分からないけど、この国が発展していく目途が立ったらわたしは引退するからそのつもりで」
「まさか」
「まだまだずっと先の話だから」
「分かりました。その日まで一生懸命陛下に仕えさせていただきます」
「うん。よろしく」
「はい!」




