第337話 雑談の続きと日本見学
日本への留学生の人選はブラウさんに丸投げでいいと思うけど、その前に一度ブラウさんを日本に連れていってどんなところか見てもらった方がいいな。留学生の人選の指針にもなるだろうし。スカイツリーに連れていけばある程度日本がどんなところか分かるだろう」
「ブラウさんを日本に連れていくなら、衣服を用意しておいた方がいいんじゃないでしょうか?」
「それはそうだな。どうせだし俺の秘書役のローゼットさんも連れていった方がいいか。
服の着方なんかもあるだろうから、いったんここに連れてきて、華ちゃんたちに見てもらった方が無難だな」
「服の大きさは二人ともわたしくらいでしたから、アスカ用に揃えた衣服で間に合うと思います」
「それなら簡単に用意できる。じゃあ、衣服の心配はないな。
後は留学生か」
「人一人留学させるには、それなりの費用が必要になりますが、その辺りどうでしょう?」
「留学生数十人くらいのことなら俺のポケットマネーでどうとでもなると思うけれど、そういう訳にはいかないから、何か国として日本円を稼ぐ方法が必要だよな。
すぐに売れそうなものは、農産物だろうけど、むやみに売ってしまえば、こっちが飢饉になるし。
となると、最初は借金するしかないか。円借款で1兆円も借りれば、いい線いけるんじゃないかな。1兆円なら俺個人で10年もあれば返せそうだし」
「そういうふうに本格的にやっていくなら、やっぱり正式な国交が必要になるんじゃないでしょうか?」
「確かに。
そうなるとニューワールドを公表しないといけないよな。反響は相当だろうな」
「将来的に観光業を進めていくにはいいことじゃないですか」
「まあな。それに、だからと言って俺たちがどうなるわけでもないし」
「ですよね」
「正式に国交を結ぶとなると、両国間で大使館とか構えることになるのかな?
日本の大使館を受け入れるのは簡単だけど、こっちの大使館を向こうに作るのは面倒だな」
「それこそ、あのマンションの1室にオストラン大使館用の電話を1本追加で引けばいいんじゃないですか」
「なるほど。
アスカ3号を駐日オストラン大使にしてもいいしな。アスカ顔のアスカがオストランの大使だと受けるだろうな」
「いいんですか、そんなので」
「実写版なんだし、たまたまそっくりさんだったということしか日本側にはわからないんだからいいんじゃないか。
オストラン駐日大使館はいいとして、日本側の駐オストラン大使館は、現状こっちのインフラは全く整っていないから、うちみたいに石油タンクと発電機を備えた建物になるわけだ。生活に必要な電気は何とかなったとしても、電話も手紙も通じない以上大使館といっても機能するはずないから、やっぱり大使館は当分できそうにないな」
「岩永さん、それこそ日本と直通のダンジョンの出口の近くにそういった施設を作ればいいんじゃないですか? 日本からダンジョン経由でケーブルも引けるし、水道だって引けるし電気の場合はゴーレム発電機だってそのころには利用できるでしょうし」
「なるほど。インフラの整った日本区画みたいなのを作っておけば、日本政府の出先だけじゃなくて企業なんかも誘致できるかもしれないな。そこを中心にオストラン側のインフラを広げていけばいいかもしれない。
なんか見えてきたような。
その辺りに日本語学校も作ってもいいし。
はるかさん、日本語からこっちの言葉に翻訳した隣の学校用の国語の教科書を利用して、日本語やこっちの言葉を学ぶためのテキストはできませんか?」
今まで、俺と華ちゃんの話を食事しながら聞いていたはるかさんにその辺りを聞いてみた。いきなり話を振ったので少しはるかさんはあわてて、
「は、はい。できます。そんなに手間はかかりません。こちらの言葉はドイツ語のように発音と表記は同じですし、語順などは英語よりも日本語に近いですから、単語を一通り覚えてしまえばこちらの言葉を覚えるのはそれほど難しくないかもしれません。
日本語は語彙が多い上に同音異義語の宝庫ですから、こっちの人が日本語を学ぶのは大変かもしれません」
「どうしてもということになればスキルブックの出番になるけど、希望者全員に行き渡るものじゃない以上不公平にもなるから、日本語教育は地道に学校教育で進めていきましょう」
「ですね」
「週末宮殿へ行ったら、オストラン周辺で日本へ提供用のまとまった土地を手配できるか確認しておこう」
「岩永さんが、王さまに成った件も話しますか?」
「別に言わなくてもいいんじゃないか? 俺たちの住んでいるオストラン王国が日本と国交を結びたいと伝えて、ついでに俺はオストラン政府に太いパイプを持っているとでも言っておけば」
「確かに太いパイプですね。
将来日本の大使館ができて認証式かなんかで王宮に大使がやってくるときのお楽しみ?」
「そうなるかもしれないけど、どうせやってくる大使は俺の知らない人だろうから、俺がいくら日本人顔をしていようと、気にもしないんじゃないか?」
「それもそうですね」
食事しながら雑談を続けていたら、鍋の具がだいぶ少なくなってきた。
「それじゃあ、おじやにしましょう」
そう言っていったんリサが席を立って、しばらくして、ご飯の入ったボウルと生玉子の入ったかごを持ってきた。
一度鍋の中の残った具を皿の上にとって、その後、カセットコンロの火を強くした。鍋が沸騰して土鍋の蓋の孔から湯気が勢いよく吹き出してきたところで、鍋の中にご飯をほぐしながらいれて、再度土鍋に蓋をして、火加減を緩めて待つこと5分。
リサはその間に、余っていた取り皿で玉子をといている。
鍋の蓋から泡が少し漏れてきたところで、土鍋の蓋を取り、雑炊を長箸で混ぜながらとき玉子を落とした。
孔の空いていないお玉ででき上った雑炊をみんなの茶碗に入れていく。
さっそく俺もいただきました。ちょっと味は薄めだったが、おいしいー!
結局、俺はお代わりしたし、みんなもお代わりしたので、2つの鍋はすっかり空っぽになった。最後にヒールポーションを配っておいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
週末になり、今日は王宮へ出勤する日だ。アスカ2号を連れた俺はオストラン神殿に跳び、ブラウさんとローゼットさんを連れて王宮の宮殿に跳んだ。
現れた場所は俺の書斎兼執務室で、そこでブラウさんに、将来的に日本とオストランで行き来できるようになることを前提として、日本との交流を図っていきたいということを告げた。
まずはブラウさんに日本がどういった国か知ってもらうところから始めなければいけない。
「ブラウさん。日本がどういった感じの国かブラウさんにお見せしたいので、一日空けてもらえませんか?」
「わたしをニッポンに連れていっていただけるというお話ですか?」
「そういうことです。ローゼットさんも一緒の方がいいでしょう。明日わたしは用事があるのでダメなんですが、明後日以降ならいつでもいいです」
「それでしたら、明後日1日空けておきます」
「ローゼットさんもいいですね?」
「もちろんです」
「じゃあ、明後日の9時にオストラン神殿の大ホールに迎えに行きます。日本だと巫女の服はかなり目立ってしまうと思うので、いったんバレンのうちの屋敷に跳んで、二人ともこちらで用意した日本の服に着替えてもらいます」
「は、はい」
「陛下の関係者の方々がきていらっしゃった服を着られるのですか?」
「そうですね。
今アスカ2号の着ているような感じになると思います」
俺がそう答えたら、二人とも嬉しそうな顔をした。アキナちゃんのいうファッションリーダー効果が現れたようだ。
その話の後、ブラウさんは自分の執務室に向かい、それからしばらくして俺が決裁しなければならない書類が持ち込まれた。
先週と同じくハンコをペッタン押したらその日の俺の『執務』は終わってしまった。
仕事はすごく楽ではあるが、よーく考えたら給料をもらっているわけではないので、楽な仕事と一概には言えないような、言えるような。
棚に並べた愛読書を昼まで再読して、昼食をローゼットさんと一緒に食べてからお茶を飲んだところで早退してしまった。
やはり、楽な仕事と言い切っていいな。




