第334話 アスカ3号。ピアノコンクール会場下見
王さまの公務第1日目を無難?にこなした翌日。
防衛省との会議の日なので、華ちゃんを連れて防衛省のいつもの会議室に跳んだ。
今日は会議の後マンションに寄ろうと思っている。午後からは、オリヴィアのピアノコンクールの全国大会が開かれる横浜のホールまで足を延ばす予定だ。一度いっておけばいつでも転移で跳んでいけるからな。
今日の会議では、防衛省側から、各ダンジョンの階段間を結ぶ本道でモンスターを確認していないという話があった。
モンスターが枝道から本道に移動しそうな場面に冒険者が遭遇したところ、モンスターは本道に侵入することなく引き返していくところが何度か目撃されたそうだ。
モンスターは本道に侵入しないという判断はまだできないが、モンスターによって機器が壊されたとしてもその頻度はそれほど多くないだろうということで、年明けにも本道内にケーブルを敷設して無線基地局を設置する工事を始めるように手配を始めたそうだ。それとは別に、大型掘削機械などを使ってピラミッドの先の出入り口の空洞を拡幅するそうだ。
もう一つの話題として、ダンジョンアニマルが優れた食料であることが確かめられたことで、ダンジョンアニマルの買い取りは先週から始まっており、商社などがかなりの高値で買い取り価格を提示している関係で、買い取り所でのダンジョンアニマルの買い取り標準価格はキロ当たり3万円から5万円。その関係で、ダンジョンに入っていく冒険者数が1週間前の3割増しで推移しているということだった。
最後に、防衛省のダンジョンキャラの選定を終えたそうで、現在そのキャラのフィギュアを作っているそうだ。キャラの名まえは、ダンジョン娘。ウマ耳もしっぽも付いていなくて、頭に金色のピラミッドを乗せた美少女3人組だった。いろいろ候補があったようだが、川村局長が最終決定したそうだ。
来週の会議の席でそのフィギュアを受け取って、ゴーレム化することになった。
『岩永さん、アノこと報告します?』
隣に座る華ちゃんが小声で俺に聞いてきた。
『アノことってアノことな。俺が王さまになったなんて、ちょっと言いにくいよな』
『将来的にオストランと日本と交流するかもしれませんから、ある程度の話はしておいた方がいいんじゃありませんか?』
『そうだなー。ひとことだけ言っておくか』
「あのー、お伝えしたいことがあるんですが」
「何でしょう?」
「えーとですね。木内さんのレポートにあったと思いますが、わたしたちがニューワールドで住んでいる国はオストラン王国という国なんです」
「はい」
「文科的な水準は西洋の近世より少し進んだ程度、いや、ローマ帝国の全盛期かな?」
「はい」
「それで、もしですね、オストランと行き来ができるとすると、日本ではニーズってありますかね?」
「交易ということでしたら、工芸品でしょうか。なにせ異世界の産物ですから、ニーズは高いでしょう。本格的な産業ベースとなると、もしオストラン側に余剰があるようでしたら穀物などの農産物でしょうか。わが国から化学肥料や農薬を輸出することを考えれば、穀物類の収量はかなり増大するでしょうし。
一番の目玉はやはり観光じゃありませんか?」
「なるほど。工芸品、肥料、農薬、観光ですね」
「なにか、オストラン側で具体的な動きでもあるんですか?」
「今のところはまだですが、先方の政府高官と懇意になったもので」
「ほう、それはそれは。
今のところ、ニューワールドの存在は公表していませんが、できれば近い将来、公表して交流も活発化したいですな」
「そうですね。今日はそんなところです。
それじゃあ、ポーションとフィギュアを卸してきます」
ポーションとフィギュアを仮設テントで降ろした俺は、再度会議室に戻って、それから華ちゃんを連れてマンションの内側の扉の先に跳んだ。郵便受けに入っていたチラシや封筒をアイテムボックスにしまって、誰もいなかったのでそこから直接マンションの玄関に跳んだ。
台所の換気扇とは別に室内の換気扇は24時間点けっぱなしなので、窓をたまに開けて換気する必要はない。
それでも居間に回った華ちゃんは、カーテンを開けて回っていた。
「うわー、明るい」
「マンションの値段の何割かは日光代だったんだろうな」
「そうですね。
それで、今日ここにきたの用事は何だったんですか?」
「下の郵便受けの郵便物を片付けることと、」
そこまで言って俺はアスカ3号をアイテムボックスから取り出した。アスカ3号は日本用の普段着を着たアスカ2号をコピーしたものだ。
「このアスカ3号をここの管理人として置いておくためだ」
「アスカ3号?」
「アスカ2号をコピーして、もう1体増やしておいた」
「そんなに増やしていいんですか?」
「三つ子までなら並んでもセーフだろう」
「そ、そうですね」
「とにかく管理人の仕事を覚えさせないといけないから、まずは下の郵便受けの郵便物を取ってくるところから教えてくる」
俺はアスカ3号を連れて部屋を出てエレベーターで1階に下りてうちの郵便受けを教えてやり、中のものを取って部屋に持って帰るように教えてやった。アスカ3号の履いているのは俺のアパートの荷物の中に入っていた外用のスリッパだ。どこかの女子大生みたいで初々しい。とにかくアスカの美人顔は目立つから少々のことは世間が大目に見てくれるはずだ。
郵便受けを教えた後は部屋に戻ってカーテンの開け閉めとか教えてやった。
「アスカ3号、この部屋のことは頼んだぞ」
「はい、マスター」
いい返事が聞けた。
「岩永さん、アスカ1号はいつも戦闘服姿で敷地の中を巡回しているからいいですが、アスカ2号と3号の区別はつくんですか?」
「そう言われると、難しいというか、不可能だな。今は、アスカ2号はアイテムボックスの中だからいいけど。
ということは、どこか区別できる何かがないと分からないな。
着ている服で判断するにしても着替えてしまえば分からなくなるから、3号だけ首から名札を下げておくか?」
「それって、かわいそうじゃありませんか?」
「双子や三つ子のお母さんたちはわが子をどうやって区別しているんだろう?」
「ホクロの位置や、あざの位置とかじゃないですか」
「じゃあ、マジックでホクロを描いてやるか?」
「岩永さん」
「冗談、冗談。とはいえ、どうやって区別するのかは難しいぞ。
そうだ! 1号も2号もツインテールだから、3号はポニーテールないしまっすぐ伸ばすだけにするか」
「それでいいんじゃないですか。ストレートなら髪留めを外してブラシでとかすだけですから」
「アスカ3号、髪留めを外してくれ」
「はい、マスター」
アスカ3号が髪留めを外したので、髪が流れた。
「わたしがブラシを持っていますから、とかしますね」
華ちゃんは自分のアイテムボックスの中から取り出したブラシでアスカ3号の髪の毛をとかしてやったら、髪の毛が素直にまっすぐになった。
「これなら簡単に区別がつく。
それじゃあ、あらためてアスカ3号、この部屋のことは頼んだぞ」
「はい、マスター」
「じゃあ華ちゃん、横浜にいってそれから昼食にするか?」
「そうですね。コンクールの場所は中華街にも近かったはずですから、中華街にいってみますか」
「昼だからそんなには食べられないと思うけど、いいね、それ」
ということで、俺たちはアスカ3号を残し、東京駅に跳んで切符を買い、通路の掲示を見ながら横浜方向に向かう電車に飛び乗った。
30分ほどで電車は横浜に到着したので、駅前のタクシー乗り場からタクシーに乗ってコンクール会場のホールの名まえを告げたら、10分ほどでホールの前に到着した。
「ここか」
「ここは私も初めてです。コンクールはこのホールの中の小ホールです。大ホールにはパイプオルガンを置いているそうですから、ピアノコンクールにはあいませんよね」
分かんないけど、そうなんだろうな。
タクシーに乗っているあいだに中華街の場所を調べたら、ちょっと離れていたので、ホールの前ではタクシーを降りず、そのまま中華街に回ってもらった。
「ここが中華街か、初めてきた。華ちゃんは来たことがあるのかい?」
「2、3回だけ」
2、3回が『だけ』かどうかはわからないが、華ちゃんはやはりこういったところは押さえていたようだ。
「どこかいい店知ってる?」
「小さいとき来ただけなのであまり道を覚えていないんですが、たしかこっちにあったような」
華ちゃんが、こっちという方向に歩いていったら当たり前だがなんとか楼とかなんとか飯店とか看板が出ている中華料理屋さんが道の両側に並んでいた。
「道まちがえたかな?」
「どこの店に入っても、それなりに美味しいんじゃないか。適当にそこらの店に入ってみよう」
「そうですね」
昼の時間だったが、二人席は空いていたのでそこに座って無難にエビチリランチセットを二人とも頼んだ。
セットの中身は、エビチリ、炒飯、フカヒレスープ、小籠包、シュウマイ、ザーサイそれに杏仁豆腐。どれも少量ずつだが結構お腹いっぱいになった。もちろん食べる前にコピーしている。やや辛めのエビチリのエビがプリプリして実に美味しかった。
帰りにお土産として、ブタまんを買っておいた。ブタまんもコンビニ肉まんの何倍も大きくて立派だ。月餅も売っていた。半分に切った月餅の見本を見ると、月餅の真ん中にアヒルの玉子の黄身が丸ごと入っていると説明に書いてあった。その月餅を買おうとしたら期間限定でもう売ってなかった。食べたかったなー。仕方ないので別の月餅を買ったのだが、それももちろんおいしそうだった。




