第332話 公務3
オストラン王国の王さまとして各国の大使を引見して、それで俺の初日の公務は終了した。
玉座の間から神官や巫女たちが退室していくなかで、一緒に退出しようとしていたブラウさんを呼び止めた。明日は防衛省での会議の日なので、王宮に顔を出すにしても午後からになる。どうせ王宮では大した仕事があるわけでもないので、これからの俺の希望勤務形態をブラウさんに話しておこうと思ったからである。
「ブラウさん、少しいいですか?」
「はい。何でしょう?」
「わたしが王宮へ顔を出す頻度ですが、週に1度程度でいいですか? もちろん大きな問題が起こった時などは別ですが」と、正直に言ってみた。
「なるべく王宮へいらしていただきたいのですが、陛下がお忙しいなら致し方ありません。
それでは、次にいらっしゃるのはいつになりますか?」
「次の週末かな。8時に神殿のホールに伺います」
「それでしたら、陛下に決裁していただく書類をまとめておきます。今日急ぎのものは決裁いただいていますから、決裁をいただくような案件はそれほど多くないと思います。
そうそう、陛下の衣装を作らせなければなりませんが、その日仕立て屋を用意しておきます」
「ブラウさん、わたしのこの服、変ですかね?」
「いえ、そんなことはありません。
陛下の服装は機能的ですし、アキナさまを始めバレンの方々の服装は異国風のうえ彩がすばらしく、神殿の巫女や侍女たちはバレンに人をやって仕立て屋を呼び寄せては、とか申していました」
「あれはバレンで仕立てた服じゃないんですがね」
「転移の使える陛下ですから、遠方のスーダネイアとか?」
「スーダネイアがどこにある国かは知りませんが、ニッポンっていう名の国で買ってきた服です。わたしは、そのニッポンという国で生まれ育った者なんです」
「そうだったんですか。ニッポンという国名は初めて知りました。相当遠方の国なんですね」
信じる信じないは人それぞれだし、信じない上にアタオカと思われるかもしれないが、ブラウさんには本当のことを話すことにした。
「ブラウさんですからお教えしますが、実はこの世界とは異なる世界が別にあるんです。ニッポンはその世界にある国なんです」
「なるほど。この世界と異なる世界の話は神話などでよく語られていますが、やはり本当の話だったわけですね」
ブラウさんは俺の話にそれほど驚いた様子はなかった。
「はい。それで、いろいろあって、わたし自身はこの世界とニッポンのある向こうの世界とで行き来できるようになったんです」
「そういったことは重大な秘密でしょうに、わたしに教えていただきありがとうございます。このことは決して口外致しませんからご安心ください」
今のブラウさんの格好で日本に連れていったら相当目立つから無理だけど、コートか何かを羽織らせれば、目立ちはしない。そのうちに日本に連れていってあげてもいいかもしれない。
「よろしくお願いします」
「それでは失礼します」
公務の第1日目を無事かどうかわからないが、とにかくこなした俺は、ローゼットさんとアスカ2号を連れていったんオストラン神殿に戻った。ブラウさんはまだ仕事があるようで、馬車で神殿に戻るということだった。
「ローゼットさん、それじゃあ」
「はい。失礼します」
ローゼットさんを神殿に残し、俺とアスカ2号は屋敷に戻った。
居間に入ると、リサ以外のみんなに迎えられた。リサは夕食の支度中ということだった。
時刻は4時近かったので、俺はそのまま風呂に入った。
夕食を食べながら、みんなに王さまの仕事について聞かれたので、
「今日の午前中は書類にハンコを押して、午後からは各国の大使のあいさつを受けた。それだけ」
「王さまじゃから、そんなものじゃろ。
どんと構えていればいいのじゃ、どんと」
「とはいえ、あんまり暇にしていても俺自身退屈だから、次回宮殿に顔を出すのは次の週末にしておいた」
「王さまの仕事が少なければ少ないほど、その国はいい国なのじゃ」
会社だろうと国だろうとトップがバタバタするようじゃロクなことになるわけないからな。アキナちゃんの言う通りかも知れないな。
その日早めにベッドに横になった俺は、この国をどうしていこうか漠然と考えた。
何であれ、国が裕福であることが一番大切だろう。先立つものがなければ何もできないからな。その上で、良い国とは何だろうと考えた。国民が明日のことを心配することなく、納得して生きていける。そういう国ならいい国といえるような気がしてきた。となるとやはり、殖産と治安と国防。
生まれを含めて運の善し悪しは本人ではどうしようもないが、努力するしないは本人次第だ。少なくとも誰もが努力できる国でありたいものだ。国にできるところはそこまでで、それからさきの結果は受け入れてもらうしかない。これには教育だな。
そんなことを取り留めもなく考えていたら知らず知らずのうちに眠りについていた。




