第33話 エンジン発電機顛末3、クラシック音楽
屋敷を購入し10年分の土地使用料も支払ったので、これで心置きなく家屋の改造ができる。
屋敷に帰った俺は、発電機をセットして居間に入り、子供たちとリサを呼んだ。
「おーい、今日もアニメを見るぞー」
みんなを呼んだところ、リサが、
「もうすぐ昼の食事ですがどうしましょう?」と、聞いてきた。
すっかり忘れていたが俺も腹が減っていたので、
「先に昼食で、アニメは片付けが終わってからにしよう」
「はい」
ということで、みんなで食堂に移動して昼食をとった。今日の昼食はかぼちゃのスープと焼いた厚切りハム。それに野菜サラダとパンだった。日本にいたころサラダなんか外で注文したこともなかったし、もちろん自炊で作ったこともなかった。なにげに健康な食生活を送っている気がする。
リサと子供たちで食事の片付けをしている間、俺は円盤鑑賞の準備をした。
これから鑑賞する円盤は、無難にディ○ニーアニメだ。といってもかなり古い作品でファン○ジアというタイトル。中身は音楽アニメなので俺が実況する場面はほとんど無いだろう。という読みだ。
準備万端整ったところで、子供たちとリサがやってきた。
「それでは、始まり、始まり」
リモコンをいじって再生開始。
重厚な音楽とあいまったアニメキャラの動きに子供たちもリサも終始口を半分開けて画面に見入っていた。音楽アニメなので今回はかなり音量を上げての鑑賞だ。居間の窓も開いているので周囲に音が漏れているだろうが騒音というほどでもないだろう。と、そのまま再生を続けた。
……。
再生が終了したところで、
「今日のはどうだった?」と、聞いたところ、
「ご主人さま、すっごく感動しました」と、エヴァ。
「もう何がなんだかわからないくらいすごかったです。納得しました」と、オリヴィア。
そして「こんなすごい動く絵と音楽を見聞きできたなんて幸せです。さすがご主人さま!」と、キリア。
最後にリサが「王族でもこんな素晴らしい動く絵と音楽を楽しめないでしょう。ご主人さまありがとうございます」
若干一名、未だにほうけていたが、みんな感動してくれたようでなによりである。
「今日はここまで。明日もあるから楽しみにしてろ」
「「はーい」」「「はい」」
アニメを見終わって、リサと子どもたちは夕食の準備を始めた。
俺は、エンジン発電機をいったん収納しておいて、どうやって発電機を雨風から防ごうかと考えていた。
『周囲を囲って屋根をつけるしかないよな。
そうだ、物置が表側にあったから物置の中に入れてやるか』
表に回って物置を確認したところ、中身は空だし床はなくそのまま土間だったのでちょうどいい。天井近くに明り取りの窓もあるので吸気は問題ない。排気口にパイプを繋げて小屋の外に排気を出すようにすれば良さそうだ。
今回大量の素材を手に入れているのでさっそく錬金工房でパイプを作ることにした。パイプの外径は先端で発電機の排気口の内径と同じ、パイプ本体の太さはそこから5割増ほどにしておいた。小屋の壁に丸い孔が空くように壁の一部をアイテムボックスに収納し、そこからパイプを通し、アイテムボックスから取り出した発電機の排気口にパイプの先端を突っ込んで固定した。
『エンジン始動!』
エンジンをかけたら当然のごとく振動するのだが、その振動がパイプに伝わりさらに小屋の壁に空けた孔にパイプがぶつかってえらい音を立て始めた。しまいには、パイプがエンジンの排気口から抜けてしまった。
俺はいったんエンジンを止めて、発電機とパイプをアイテムボックスに収納し、錬金工房でパイプの先端をやや膨らませてオスネジを切り、発電機の排気口にメスネジを切ってやった。さらに壁の孔とパイプの間の間隔を埋めてパイプを固定できるよう真ん中に孔が空いたゴムパッキンのようなものも作っておいた。
『これで大丈夫だろう』
発電機とパイプとゴムパッキンをアイテムボックスから取り出して、まずパイプにゴムパッキンをはめ、いったん壁の孔を通したパイプを発電機の排気口につなげてやった。最後にゴムパッキンを壁にしっかりハマるよう移動させて出来上がり。
『エンジン始動!』
今度は異音が発生することもパイプが妙な振動することもなく、ちゃんとエンジン発電機は動いている。
『小屋の中も排ガス臭くない。うまくいった。
思った以上にパイプを発電機に繋ぐことは簡単だったな。ならば、増設タンクを発電機のタンクにつなげるのも簡単な気がするぞ』
いったん発電機とパイプを収納し、錬金工房内で細工していった。
まずエンジン発電機の燃料タンクの注ぎ口を加工し、それに合うパイプと50リットル入りの足の付いた外付けタンクを錬金工房の中で作ってやった。今回のパイプは自動車部品の中にあったフレキシブルパイプを真似て錬成したものだ。外付けタンクには誰でも簡単に残量が分かるよう透明樹脂製の縦長窓を付けている。
再度アイテムボックスからそれらを取り出してセットして、外付けタンクの中にガソリンを注いでいく。ガソリンは10リットル入りの缶でアイテムボックスの中で錬成し、漏斗を使って外付けタンクに移してやった。こんなことなら最初からガソリン満杯のタンクを作っておけばよかった。
2回ほどガソリンをタンクに移して20リットル入れたところで『アイテムボックスからガソリンを直接タンクに出せる』ことを思い出し、簡単に外付けタンクを満杯にすることができた。
いちおううまくいったので、もう一つの発電機を取り出し、同じように排気管と外付けタンクを繋げた。2個目のタンクは最初からガソリン満杯で作っている。
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こちらは、3人の女子高生たち。その日の荒れ地での実地訓練の帰り道。
馬車に揺られながら三千院華は寝たふりをしていた。向かいの座席に座る山田圭子と田原一葉は三千院華を無視してぺちゃくちゃおしゃべりをしている。
そんな中、どこからともなく、どこかで聞いたことのあるクラシック音楽が三千院華に聞こえてきた。
彼女たちを乗せた馬車は、他の馬車が頻繁に行き来する大通りを避けて大きな通りから一本奥まった道を進んでいる。道の両側には立派な屋敷が立ち並んでおり、一帯はお屋敷街だ。おそらく音楽が聞こえてきたのは、その屋敷のうちのどれかだ。
『もしかして? そんなことないわよね』
音楽はそれから少し続いたがそのうち聞こえなくなった。




