第315話 ダンジョンマスター3、防衛省での会議
コアとダンジョン・アニマルの話をした翌日。
俺はいつものように華ちゃんと一緒に防衛省に跳んだ。
その日の会議で防衛省側からは、第1ダンジョンと第3ダンジョンも第1階層で繋がっていたという話があった。全32個のダンジョンが繋がっているとコアに聞いていたので、適当に「やはりそうだったんですね」と、言っておいた。
俺が先週の第1ダンジョンの探索について話そうとしたら、野辺次長から先に話を振ってきた。
「先日、第1ダンジョンを16階層から下の階層に向けて潜るとおっしゃっていましたが、いかがでしたか?」
俺は華ちゃんとすり合わせた通り、
「16階層の下り口から、17、18、19階層と順に進んでいきました。いずれも下り階段前にはそれなりのモンスターがいましたが、簡単に斃せました」
「一週間もかからず19階層まで!?」
「グリーンリーフはまだ18階層への下り口を見つけていないのに!」
「アルティメット・ウェポン、……」最後に田中事務官がポツリとひとこと。
「ちなみに、それなりのモンスターとは?」と、川村局長。
「えーと、17階が大猿、18階がバジリスク、19階が黒鉄のゴーレムでした」
「ほう」
「黒鉄のゴーレムを斃して19階層から20階層に階段を下りていったんですが、その階段は300段ほどありました」
「ダンジョンの階段は50段と聞いていましたが、300段あったということは第20階層は何か特別な階層だったということでしょうか?」
「はい。その300段を下りた先の20階層は太陽こそありませんでしたが明るい青空の広がる大空洞でした」
「なんと。
その大空洞の広さはどれくらいでしょうか?」
「見当もつきませんが、正面にあるはずの壁は遠くて全然見えませんでしたから、相当広いと思います。
その大空洞の床は石じゃなくって土の地面で、階段を下りた先はところどころ灌木の生えた草原でした。そしてずっと先には林も見えました。雨が降るかどうかはわかりませんが、草木が繁っていたところを見ると、ひょっとしたら雨が降るかもしれません」
コアに確認したわけではないが、雲はあったし天井が地上から450キロもあれば雨が降っても不思議じゃないものな。
「モンスターには出会いませんでしたが、代わりにカエル、ニワトリ、七面鳥、牛、豚といった動物はいました。いちおうサンプルとして持ち帰ってきたものをお渡ししますので、可食かどうかなど調べてください。そのうち、上の階層にも出るようになるんじゃないかな?」
野辺次長がサンプルを受け取るため連絡したようで、そのうち受け取りに係の人がやってくるだろう。
「こういった動物が深いところにいたということは、わたしたちが訪れたことが引き金になったかもしれません。これから先、浅いところでもこういった動物が湧くかもしれませんよ」
俺はシレッとダンジョン・アニマルを出現させるための下地としてラシイことを口にしておいた。
「ダンジョンって人に入ってもらいたがっていると思うんですよ。
人がダンジョンに対して、こうなってもらいたいと望んでいれば少しずつダンジョンが変化していくんじゃないかって」
さらに、ダンジョン改造のための下準備でひとこと付け加えておいた。俺のような口下手でも、ダンジョンマスターになった責任感というものが生まれたようで、ポンポンと都合のいいことが口をついて出てくる。
隣りに座る華ちゃんを横目で見ると、真面目な顔をしてはいるのだが、何となく目が笑っているような。
「なるほど。
第一人者のお言葉ですから、胸に刻んでおきましょう」
「ちなみに、今現在、冒険者の最も高いニーズってわかりますか? そのニーズが叶えられるかもしれません」
「おそらく、ダンジョン内での通信ではないでしょうか」
「なるほど。ダンジョン内でスマホが使えれば便利ですものね。階段間を結ぶ本道内だけでもスマホが使えればありがたいですものね」
「そうなんですが、なんとかケーブルを引いて基地局を設けたとしても、常時監視するわけにもいきませんので、いつスライムなどのモンスターに壊されるか分かりません。モンスターが本道に現れないのが確実なら、今すぐにでも工事にとりかかれるんですが」
「みんなが願えば、本道にはモンスターが寄り付かなくなるかもしれませんよ」
ダンジョン・アニマルの方は分析結果を待ってからになるので、先に本道へのモンスター立ち入り禁止をコアに指示してしまおう。
「ところで、その第20階層の探索はされるのですか?」
「何せ広大ですから、そのうちに」
「なるほど」
「わたしの方は、そんなところです。
おっと、忘れていましたが、美少女フィギュアできました。
こっちが、フィギュア美少女で、これは元の大きさに戻したメタル美少女です。ここでは動きませんが、戻した本人の命令に忠実に従います」
俺は、3センチほどのアニメ顔のフィギュア美少女と、30センチほどのメタル美少女をテーブルの上に置いて、川村局長の方にズズーっと押し出した。
「とうとうできましたか。これは素晴らしい」
D関連局の他の3人も身を乗り出して、フィギュア美少女と、メタル美少女を眺めていた。
「それでは、防衛省としても、カッコいい美少女フィギュアを発注しましょう。
でき上った時には、よろしくお願いします」
「任せてください。
ひとつ言い忘れていましたが、そのメタル美少女は、踊れと命令するとちゃんと踊ります」
「おおっ! ただ動き回るだけでなく踊れるとは」
「そのかわり、メタル美少女に戻した本人のリズム感とかを受け継ぐようで、ダンスが下手な人が戻すとかなりおかしなダンスを踊ります。逆にダンスが上手い人が戻せばダンスのうまいメタル美少女になると思います。プロモーションビデオを撮る時には、プロのダンサーに戻してもらえばいいかもしれません」
「なるほど。承知しました。
そうそう、ピラミッドのことなんですが」
「はい」
「実は、ピラミッドの出入り口のゆらぎの上に謎の模様が現れたというんです」
「謎の模様?」
「はい。その模様ですが、どう見てもアルファベットの『Z』に見えるんですよ。最初第1ピラミッドからの報告だったんですが、結局32個のピラミッド全てのゆらぎの上に『Z』模様が現れていました。
模様が出たのは、岩永さんたちが第1ダンジョンに潜って数日後です。
模様が現れただけで、他に変化はないようなんですが、まだまだダンジョンについては分からないことだらけですな」
「不思議なこともあるもんですね」
なんとなく、Z模様には心当たりがあるのだが、黙っておこう。
そこで、作業服を着た自衛官がビニールシートを乗せた台車を持って会議室に入ってきたので、ビニールシートを貸してもらい、アイテムボックスの中で1体ずつダンジョン・アニマルをビニールシートに入れて台車の上にだしてやった。
「それではわたしはポーションとフィギュアモンスターを卸してきます」
日本列島に匹敵する土地がダンジョンの中に広がっているということはかなりインパクトのある爆弾だし、その日本列島に匹敵する土地が32面もある。もうメチャクチャだものな。俺は予定通り大空洞の広さをわざとうやむやにしておいた。
駐車場の特設テントでポーションとフィギュアモンスターを卸した俺は、会議室に戻って華ちゃんを連れて屋敷に帰ろうと思ったのだが、屋敷に帰る前にスマホをみたら親父から電話があったようだ。




