第311話 イオナ7。アスカ2
勇猛果敢チームの高校生3人組と別れ、俺たちはワーク〇ンに取って返し、アスカ用の装備を整えた。アキナちゃんが自分もダンジョンスーツZが欲しいと言っていたので、買うだけ買ってやったが、どう見ても今の白い革鎧の方がカッコいいので、ダンジョンで着ることは諦めさせた。
会計を済ませて、屋敷に帰ろうと駐車場の方に歩いていたら、俺のスマホに珍しく電話がかかってきた。
「はい。岩永です」
『おっ! 善次郎、おったか。
さっき、東京からうちに速達がきたんじゃが、名まえは岩永イオナ宛じゃった』
「中身は?」
『勝手にゃー開けちょらん』
「そうか。なら、今から取りに行く」
『ああ』
「親父からで、実家に東京からイオナ宛に速達がきたそうだ」
「イオナ宛ということはイオナの絵のことじゃろーな」
「きっと、イオナちゃん賞をとったんですよ」
「そうだとありがたいんだけどな。
ちょっといって、速達をとってこようと思う。みんなも一緒にいこう」
「「はい」」
みんなが俺の手を取ったところで、周りを見渡し、妙な視線のないことを確認して実家の玄関の土間に俺たちは転移した。
土間には、親父が待っていてくれた。
「うおっ! 出てくると思うちょったけど、いきなり宙から現れーけん本当にびっくりすーな。
3人連れてきたんじゃな。ようこそ。えーと、華ちゃんに、キリアちゃんにアキナちゃん」
親父はちゃんと名まえを憶えていた。俺なんかよりよほど親父の方が覚えが良さそうだ。
親父から渡された封筒を開けると、1枚の便箋と、はがき大の厚手の見開きの紙が入っていた。
便箋を開いて中を読むと、
「えーと、何々?
うおっ!『楽園』が総理大臣賞。『若さ』が文部科学大臣賞を取った!」
「イオナちゃんの絵はすごいと思っていたけれど、最初のコンクールでいきなりなんて、すごい!」と、華ちゃん。
「総理大臣賞と文部科学大臣賞というのはなんなのじゃ?」
「総理大臣賞が一等賞で文部科学大臣賞が2等賞のはずだ」
「なな、なんと!」
「すごーい! さすがはイオナ」
「えーと、こっちの厚紙は、
授賞式と記念パーティの招待状だ。
時間と場所は、……。授賞式は明後日の11時から赤坂のXXXホテル、パーティーはその後引き続いて12時30分からになってる」
「イオナ一人で出席させて大丈夫でしょうか?」
「確かに。周りはおじさんおばさんばかりだろうし、少なくとも連れていかないといけないしな。
保護者が同伴してもいいか聞いてみるか」
「そうですね」
俺は便せんに書いてあった事務局の電話番号に電話してみた。
「えーと、今回の美術コンクールの西洋画部門で賞を取った岩永イオナの保護者のものです」
『えっ!? 保護者というと、岩永イオナさんは未成年の方だったんですか?』
「はい。まだ13歳です」
『まさか!? いえ、失礼しました』
「それで、授賞式と記念パーティーの案内が届いたんですが、イオナの保護者は式に同伴してもよろしいでしょうか?」
『なるほど、これまで未成年の方が受賞されたという前例はありませんでしたので、驚きましたが、2名程度でしたら式に同伴されても構いませんし、パーティーも立食なので構いません』
「分かりました。それではそのように。失礼します」
「2人程度なら同伴してもいいそうだ。
俺と華ちゃんで顔をだすか」
「はい」
「じゃあ、イオナに早く知らせたいから俺たちは向こうに帰る。
親父、ありがとうな」
「ああ。イオナちゃんにジジイがおめでとう言ーちょったと伝えてごしぇ」
「ちゃんと、伝えておく」
俺たちは俺の実家から屋敷の居間に戻った。
居間にイオナはいなかったがオリヴィアがピアノを弾いていた。
イオナがどこにいるか聞いこうと思ったが、ピアノを弾く手を止めたくなかったので、とりあえず絵画部屋を覗いたら、イオナがどこかからの頼まれ仕事の肖像画を描いていた。
「イオナ、例のコンクールの結果が分かったぞ。
総理大臣賞と文部科学大臣賞を取った。おそらく西洋画部門で1位、2位のハズだ」
「ほんとですか?」
「ああ、もちろんホントだ。明後日授賞式とパーティーがあるからな」
「はい!」
「知らせは、親父の家にきてたから、俺の親父もイオナの受賞を喜んで、おめでとうと言ってた」
「おじいさんも喜んでくれたんだ」
「それはそうだ。イオナは親父の孫なんだからな」
「はい!」
俺がイオナと話をしていたら、エヴァを先頭にみんなが絵画部屋に入ってきた。
「「イオナちゃん、おめでとう」」
みんなに祝福されて、イオナは照れていたようだが、
「みんなありがとう」
「これも、お父さんのおかげです。お父さんありがとう」
「うん。でも、やっぱりイオナが頑張ったからだからな」
「はい」
イオナの絵がある程度の数がたまったら、銀座辺りで画廊を借りて個展を開いてもいいかもしれない。夢が膨らむな。
エヴァの事業は快調だし、キリアはとうとうダンジョンを制覇した。日本のダンジョンだし宣伝するつもりはないから伝説にはならないけどな。
この分だとオリヴィアもコンクールでいい成績を残しそうだ。それにこの俺自身親父とも和解できたし、なんだか、俺は恵まれ過ぎているような気がする。
それもこれも、俺がこの世界に召喚されたことが始まりだものな。それを考えれば、神殿の大神官のおかげ、さらに原因をたどれば、リッチがアキナちゃんを石にしたところまでさかのぼれる。
うーん。世の中何がどうつながってくるのか分からないものだ。
その後、後回しになっていたが今日買ったアスカ用の装備にアスカを着替えさせることにした。
俺がアスカを着替えさせるわけにもいかないので、アスカとアスカの装備を脱衣場に置いて後は華ちゃんとキリア、それにアキナちゃんに任せた。
「じゃあ、後は頼む。居間にいるからできあがったら呼んでくれ」
居間の座卓は11月からコタツ布団をかけてコタツにしており、俺はその中に入って待つことにした。5分ほどで、華ちゃんたちがアスカを連れて戻ってきた。
「岩永さん、アスカですが、この通りダンジョンの外でも活動できるようです。最初にプラグスーツを脱がせようと思ったらかなり重たかったので、『どうにかならないかしら、自分で着替えてくれれば助かるんだけど』って言ったら自分で服を脱いで、それから新しい服を着てくれました」
確かにアスカは自分の足で歩いている。白のプラグスーツに比べると幾分やぼったいダンジョンスーツ姿のアスカだが、実写版なのでかえってこっちの方が人間味があって、らしく見える。
「超高性能美少女ゴーレムって、体の強さだけじゃなかったんだな。しかも、状況に応じて俺以外の華ちゃんの言葉に従った。これは嬉しい誤算だ。
とはいえ、なにか食べられるわけでもないから、街中をあまり連れ歩くこともないかな。
美少女がまた増えたって言われるだけだし」
「この屋敷には8人も美女、美少女がおるのじゃ。いまさら一人くらい増えようがどうってことはないのじゃ。
それより、ゼンちゃん。わらわも驚いたのじゃが、アスカの中の作りは人と全く同じじゃった!」
何か分からないが、アキナちゃんは何かを確かめたようだ。
「お父さん、ほんとです。アスカのあそこにホクロまでありました」と、キリアがいらぬ追加情報。あそこがどこだかわからないが、ちょっとだけ想像してしまうじゃないか。ホクロなんぞ普通付けないが、コアのサービスなのか? いやいや、深く考えちゃだめだ。
華ちゃんを見ると顔を赤らめている。
これ以上続けるとマズそうなので、
「とりあえず、アスカはこのまましまっておくから」
そう言って俺はアスカをアイテムボックスにしまっておいた。




