第305話 神の裁定(ディバイン・インターヴェンション)
物量作戦でドラゴンを斃すことができたが、ピョンちゃんの気配がどこにもない。ピョンちゃんはどこにいったのかいなくなってしまった。
「ピョンちゃーん、ピョンちゃーん」
華ちゃんが、ピョンちゃんを呼んでもどこからも反応がない。俺たちもピョンちゃんを呼んでみたが、反応はなかった。
ドラゴンを囲んでいたメタルモンスターたちをフィギュアに戻してアイテムボックスに回収し、ピョンちゃんがどこかにいないかと思って探したら、ドラゴンの右手にドラゴンの傷とは違う赤いものが見えた。もしやと思って近づいてみたところ、ドラゴンに掴まれて潰れてしまったピョンちゃんの死骸だった。
「ピョンちゃーん!」
華ちゃんが大声でピョンちゃんを呼んだが、もちろんピョンちゃんが蘇るわけではなかった。
「華ちゃん、諦めよう」
ピョンちゃんの死骸を回収しようとドラゴンの右手の指を引っ張ってみたがびくともせず、開きそうもなかったので、いったんピョンちゃんの死骸をアイテムボックスに入れておこうとしたのだが、ピョンちゃんは収納できなかった。
「華ちゃん、ピョンちゃんを収納できない」
「ということは、ピョンちゃんは生きている?」
「その可能性はある。とにかくドラゴンの指から出さないと。
そうか、逆にドラゴンを収納してしまえばいいんだ」
傷だらけになって横たわっていたドラゴンの胴体を収納したら、ピョンちゃんの体が床に落っこちた。完全につぶれてしまっている。これで本当に生きているのだろうか?
死んでさえいなければ、エリクシールをかけてやれば元通りになるはずだ。
そう思った俺は、キリアとアキナちゃんが心配そうに見守る中、アイテムボックスからエリクシールを取り出して、蓋を開け、ピョンちゃんの体の上に垂らしてやった。
光の雫がピョンちゃんの体を濡らしたが、何も変化はなかった。
収納できなかったということは生きているということだと思ったのだが、こういった高位のモンスターは死骸をアイテムボックスに収納できないのか? いやいや、ドラゴンの胴体は収納できたのだから、そういうことでもなさそうだ。
「おかしいな」
再度、ピョンちゃんの死骸をアイテムボックスに収納しようと試したが、やはり収納できない。
ピョンちゃんの死骸を放っておくわけにはいかないし、どうすればいいんだ?
「岩永さん、ピョンちゃんの体が動いてる!」
華ちゃんの声でわれに返ってピョンちゃんを見たら、動いているというか、死骸の中で何かがうごめいている感じだ。
そのうちピョンちゃんの腹の辺りが膨らんできた。
何かが腹から出てくるのか? 以前見た映画みたいに妙なものが飛び出してきたら大変なので俺は身構えながら様子を見ていたら、ピョンちゃんの腹を破って、真っ白な鳥の頭が現れた。
「あっ! 最初に楽園で見た時の楽園オウムのピョンちゃんだ!」
「ピョンちゃん、ピョンちゃん、良かった」
ピヨン、ピヨン。
最初見た時と同じやや高い鳴き声を上げてピョンちゃんが飛び立ち、そのまま華ちゃんの右肩の上に乗った。
鳳凰は名まえの通り不死鳥だったようだ。
再度俺はピョンちゃんだった赤い死骸を収納しようとしたら今度は収納できた。
ピョンちゃんは、生まれ変わって楽園オウムに戻ってしまったが華ちゃんのことを覚えているようなので特に問題はないだろう。よかったよかった。
これでこっちは一安心だ。
最後に残ったのはドラゴンの頭で、キリアとアキナちゃんがドラゴンの顔に近よってしげしげと眺めていた。
よく見ると、ドラゴンの額からは2本の角のような太めのトゲが生え、その前後にもトゲが生えている。
「二人とも、ドラゴンの頭を収納するからな」
「はい」「ドラゴンの頭を神殿に飾ってやりたいのう」
「腐らないようならいいんじゃないか。じゃあ」
そう言って、収納しようとしたら、こいつも収納できなかった。
まさかこいつも復活するんじゃないだろうな?
「こいつも収納できなかった。まだ生きているかもしれない」
俺はいったん納めていた如意棒をアイテムボックスから取り出した。
キリアも鞘にしまっていたフレイムタンを引き抜き、アキナちゃんはドラゴンの頭から距離を取った。華ちゃんはピョンちゃんと会話中だ。
俺は、そこら辺に散らばった石柱の破片が邪魔なので収納し、正面に回ってドラゴンの頭を如意棒で軽く小突いてみたがもちろん反応はない。どう見ても生きているとは思えない。
キリアはドラゴンの頭の横に立って、フレイムタンでドラゴンの角の付け根辺りを突いてみたりしていた。
「ツン、ツン。あっ!」
いきなりキリアが大声を上げた。
「ドラゴンの目が!」
ドラゴンの両目が見開かれ、正面に立つ俺を睨んでいた。俺は如意棒をドラゴンに打ち付けようと振りかぶったとき、ドラゴンの額から、正面に立つ俺に向けて1本のトゲがまっすぐに伸びてきた。トゲごとドラゴンの頭に如意棒を打ち付けるしかない。加速した時間の中でトゲが俺の額に向かって伸びてくる。
ヤヴァい。如意棒が間に合わない。
そこで、俺の意識は途切れた。
善次郎の如意棒が、額に突き刺さったトゲごとドラゴンの頭にめり込み、同時にキリアのフレイムタンがドラゴンのこめかみに突き刺さり、ドラゴンは両目を閉じた。
善次郎は如意棒から手を離し、そのまま仰向けに床に倒れてしまった。
それらと同時に、部屋の真ん中の床から台座がせり上がってきた。
「お父さん!」
キリアが大声を出して、ドラゴンのこめかみに突き刺したままフレイムタンから手を離して、ドラゴンの血で汚れた床に仰向けになって倒れた善次郎に駆け寄った。
「岩永さん!」
振り向いた華ちゃんが、仰向けになって倒れた善次郎を見て悲鳴に近い大声を上げた。
善次郎の眉間には小さな孔が空いてわずかに血が流れ出ていた。
華ちゃんは急いでヒールを唱えたが善次郎の体はまったく反応しなかった。
キリアと華ちゃんが顔を蒼白にしてうろたえる中、アキナちゃんが冷静な声で、
「キリア。ゼンちゃんのまぶたを閉じるのじゃ」
キリアは訳も分からず、アキナちゃんの言う通り、ゼンジロウのまぶたを閉じてやった。
アキナちゃんが両手から手袋を取り、その手を広げて、ゼンジロウの体に向け、
「わらわがまこと神の生まれ変わりであることを証明しよう。
神の介入!」
アキナちゃんの体が山吹色のオーラの渦に包まれた。アキナちゃんの祝福の山吹色のオーラなど比べ物にならない。
それと同時に、善次郎の体が七色の光の帯で包まれた。
先にアキナちゃんのオーラがおさまり、それから、善次郎の体を包む光もおさまった。そして、善次郎の閉じていた両目がゆっくり開いた。
「善次郎さーん!」
『うわっ!』
俺は華ちゃんの声に驚いて目が覚めた。
さっきまで意識が途切れていた。何が起こったんだ?
あっ! 思い出した。俺ってもしかして死んでたんじゃ? でも今は生きている。どこも痛いところもないし、気絶していただけなのか?
「ふう」アキナちゃんが、吐息を漏らした。
アキナちゃんの顔を下から見上げた俺は、少し違和感を覚えた。アキナちゃんの顔つきが変わっているような気がする。
上半身を起こして、アキナちゃんの顔を正面から見たが、やはり感じが変わっているような気がする。
「アキナちゃん、どこがどうとかは言えないけれど今までと見た感じ変わってる」
「ゼンちゃん、さっきまで死んでおったゼンちゃんをわらわが神の介入で生き返らせたのじゃ。
人の身で神の介入を行なうと、わらわは5年分、歳をとってしまうのじゃ。それで顔かたちが多少変わったのじゃろう。それくらいでゼンちゃんが生き返ったのじゃから安い物じゃ」
「えっ! いきなり目の前が暗くなってしまって、気付いたら寝転がっていて、華ちゃんの声で起きたんだけど、俺はやっぱり死んでたのか。アキナちゃん、ありがとう」
「アキナちゃん、ありがとう」と、目を潤ませて華ちゃん。
「うん。ゼンちゃんが無事生き返ってわらわも嬉しいのじゃ」
5年分歳をとったというアキナちゃんだが、確かに小学生には見えなくなったものの、中学生くらいにしか見えなかった。
アキナちゃんの奇跡『神の介入』はディバイン・インターヴェンションの直訳です。マイトアンドマジックでディバイン・インターヴェンションという魔法があったので使ってみました。




