第298話 ダンジョン・コア5、砂時計
ピョンちゃんの後を追う形で第19階層を移動すること1時間。
俺たちは比較的簡単に第20階層へ続く階段部屋にたどり着いた。
階段の前には例のごとく大型のモンスター。今回のモンスターは、体高3メートルほどのゴーレムゴーレムしたゴーレムだった。俺のメタルゴーレムと違うところは、目の前のゴーレムは黒さびで防錆処理された鋼鉄製に見える。文字通り黒鉄のゴーレムだ。そういう意味ではカッコいい。
敵として現れたゴーレムは初めてだったが、ゴーレムなら収納できるのかも? と、思って収納を試みたが収納できなかった。ならば、
「ここは、メタルゴーレムで怪獣大決戦してみないか?」
「普通に斃しませんか?」と、またしても華ちゃんにダメだしされた。華ちゃんには勝てないので頷くと、すぐに華ちゃんが重力魔法を唱えた。
「グラヴィティー!」
これだけで、ゴーレムは床に両手と膝をついた。ゴーレムはしばらくそうしていたが、力が尽きたのかばたりと床にうつ伏せになって張り付いてしまった。
華ちゃんがうつ伏せになったゴーレムにファイヤーアローを何発か撃ちこんだところ、ファイヤーアローが当たったところは赤くなってある程度抉れるものの、吹き飛ぶわけではなかった。なので、
「それじゃあ、俺が」
そう言って、異常のないことを確認済みの石室の中に入っていき、如意棒を振り上げてゴーレムの後頭部に叩きつけた。ゴーレムの頭部は砕けはしなかったが、俺の如意棒が大きくめり込み、頭の形が妙な具合に変形してしまった。
その一撃で止めをさしたのかどうか分からなかったが、収納を試したら収納できたので、ゴーレムは死んでいたようだ。
ゴーレムが片付いたあと、階段の前にまた宝箱があった。罠もないようだったが、鍵穴もなかった。
「ノックしてみます」
華ちゃんのノックの魔法で今度の宝箱の蓋も簡単に開いた。
宝箱の中に入っていたのは、
「砂時計だ」
ガラス製のかなり大きな砂時計が1つ、宝箱の中に入っていた。
前回の角笛に呪いがかかっていたようなので、今回も念のためエリクシールを1滴垂らしてみたが、今回はなんの変化もなかったので呪われてはいなかったようだ。
取り出した砂時計のくびれの部分にはこれもガラス製のコックがついていた。コックをよく見ると中に上下に貫通する孔が空いている。コックをねじると砂が落ち始めるはずだ。砂時計を支えている枠は幾何学模様が彫り込まれた金属製でかなり凝った作りだ。いずれにせよ魔道具なのだろう。
華ちゃんに鑑定してもらったところ、やっぱり『砂時計』で、それ以上のことは分からなかった。
「ただの砂時計じゃなくて魔道具と思うが、何だと思う?」
「何か時間に関係する魔道具なんでしょうが、想像つきません」
華ちゃんでも難しいか。
よく時間を止める能力云々がフィクションの世界で語られるが、自分の時間だけ普通に流れ、自分の周囲の時間が止まれば、周囲は完全に停止しているので、空気を吸うこともできない。もちろん光も移動できないので、何も見えない暗黒の世界だ。自分の体内で発生する鼓動音とか腹の音だけは体内を通じて聞こえるかもしれないがそれだけだ。さらに言えば、体温を外に逃がすこともできない蒸し風呂の中だ。自爆スキルとしても悲惨この上ないスキルである。ということで、このアイテムが呪いのアイテムでない以上、周囲の時間を止める魔道具ではないはずだ。
「使って試すしかないな」
「大丈夫ですか?」
「呪いのアイテムじゃなかったから、まさか時限爆弾ということもないだろう」
時限爆弾とは思えないが、俺はみんなから少し離れて、砂の入っている瓶を下にしてからコックを回して、
「いくぞー」
そこで俺は砂時計をひっくり返した。
細かな砂が下に落ちていく。砂時計は本来平らな場所に置く物なので、手にした砂時計を床の上に置こうと手を下に伸ばしながら体を屈めようとしたら、水の中での動き以上に体が抵抗を受けた。華ちゃんたちの方を見上げるだけでも抵抗があった。
あー、これって、俺自身が超高速で動き回っているために空気の抵抗を感じているんだ。体も知覚も超高速化に耐えられるよう強化されているのだろう。
俺は砂がゆっくり落ちる砂時計を持ったまま華ちゃんの正面まで歩いていった。不思議なことだが華ちゃんの頭の上に止まっているピョンちゃんは普通に動けているように見えた。
おそらく、コックを閉じればこの状態が終わると思ってコックを少し回し、砂の落ちるのを止めたら、思った通り空気抵抗は無くなった。
「うわっ! 岩永さん、さっき部屋の真ん中で砂時計を触ってましたよね?」
「うん。時間が止まるわけじゃないんだけど、砂時計の砂が落ちているあいだ超高速に動くことができるようだ」
「それで、一瞬でここに」
「体感的にはゆっくりだったんだけど、俺以外から見れば一瞬なんだろうな。
それはいいんだけど、この大きな砂時計を持ったままだと、如意棒は使えないし、俺やキリアだと使いづらいな。
華ちゃんにはアイテムボックスもあるから、華ちゃんが使ってみる?」
「じゃあ、試してみます」
華ちゃんに砂時計を渡してコックの捻り方を教えておいた。その際、下に落ちていたわずかな砂は元に戻しておいた。
「じゃあ、砂時計を使ってそこの壁に向かってファイヤーアローを撃ってみます」
華ちゃんが砂時計を持って部屋の真ん中に立ち、コック辺りをいじったと思ったら、
ガッ! という大きな音がして、向こう側の壁に大穴が空いていた。
「華ちゃん。全然見えなくて、気付いたら壁に大穴が空いていた」
「凄いのじゃ!」
「びっくりしたー!」
「これはやっぱり華ちゃんが持っていた方がいいな」
「それじゃあ、わたしが持っておきます」




