第291話 マンション購入2
マンションを買うにあたって華ちゃんとはるかさんに相談したところ、当たり前だがどういった物件があるのかまずは調べてから、ということになった。
翌朝。
「それじゃあ行ってくる」
華ちゃんとはるかさんを連れて、まずは俺の街のド〇ールに跳んだ。
コーヒーをトレーに乗せた俺たちは、店の奥に移動してスマホでマンションの出物を探したところ、中古だが、よさげな物件が俺のアパートの近くにあった。築15年、5階建ての最上階で南東の角部屋。4LDK+S。専有面積は110平米。価格は9000万ちょうどだった。庶民感覚ではかなり高価な買い物なのだろうし、以前の俺なら、こんなものを買うという発想すらなかったろう。だがしかーし、今の俺にとっては気になるような価格ではない。
俺のアパートを扱っている不動産屋もその物件を扱っていたので、ちょうどいい。一般的に大きな買い物をすればサービスも良くなるので、俺のアパートの引き渡しについて便宜を図ってもらえるはずだ。
その不動産屋は俺たちのいるドト〇ルから目と鼻の先なのだが、営業時間は10時からだったので、少しドト〇ルで粘ってから、不動産屋におもむいた。
「いらっしゃいませ」
「昨日アパートを退去すると電話した岩永です」
「はいはい、岩永さんですね。それで何かありましたか?」
「アパートの方は予定通り退去するんですが、中古マンションを買おうと思ってるんですよ。
候補はこれなんですけどね」
俺はスマホに目当ての物件のページを出して、不動産屋のおっさんに見せた。
「これですか」
おっさんが台帳のようなものをめくって、
「これですね。この物件は即日入居可能です。
いちおう中を確認してみますか?」
「はい」
「それじゃあ、車を回してきますから、少々お待ちください」
おっさんは、マンションのキーらしきものをキーボックスの中から選び出して店を出ていった。
3分ほどで、店の前に車が止まったので、俺たちは3人並んで後部座席に乗り込んだら、5分もかからず物件の駐車場に不動産屋の車が止まった。
車を降りた俺たちは、おっさんの後について、マンションの表側に回って玄関ホールに入った。おっさんがキーでオートロックを解除してその先に進み、エレベーターで最上階に上った。
エレベータールームを出ると、近くに小さな門扉があり、その先は狭いながらもテラスになっていて、門扉の斜め前に玄関の扉があった。おっさんが慣れた手つきで扉の鍵を開けて玄関に入った。
玄関の上がり口はフローリングの廊下になっていて、スリッパが何個か置いてあった。
廊下に上がってみんなでスリッパに履き替えた。廊下の壁には何個かドアが並んでいた。
「こちらのドアの先が洗面所で、中は洗濯機置き場と洗面台です。で、そのドアの先が風呂場です。風呂場には乾燥機が付いています」
うちの風呂場からすればもちろん小さなユニットバスで一度に二人入るのがやっとの感じだが、マンションならこんなものだろう。もはや言っても仕方がないが、俺のアパートの風呂と比べれば、同じユニットバスでも、それこそ雲泥の差がある。
それから、各部屋の中を見てまわった。台所ではガスレンジと、オーブンを兼ねた電子レンジが作り付けでシステムキッチンに組み込まれていた。なかなかいい物件じゃないか?
中古物件なのだが、リフォーム済みなので、どこもかしこもピカピカだった。
中古物件を安く買って、自分の好みにリフォームしたいという話を聞くこともあるが、俺みたいなものぐさには、こっちの方がありがたい。
部屋を回り終えたところ、照明だけは全ての部屋に取り付けられていた。
照明はいいのだが、南東の角部屋なうえ、前に高い建物が何もない関係で、居間などはとにかく明るい。早々にカーテンを付ける必要がありそうだ。
「どうだい?」
俺だけ満足していてもマズいので、お二人の意見を聞くことにした。
「明るくていいですね」
「ここなら、スーパーにも近いし、便利ですものね」
どちらも否定的な意見が出なかったということは、OKがでたということなのだろう。よし、この物件を買おう。
「じゃあ、コレ買います」
「へっ? 今お買い上げとおっしゃった?」
「はい。手続き進めてください。
明日、店に顔を出せば正式に契約できるのかな? 即金で全額振り込めるから」
「そ、即金で全額! はい。もちろん契約可能です。契約には岩永さまの住民票が必要ですのでお持ちください」
「了解しました」
俺たちは特に駅前まで戻る必要はないので、マンションの出入り口の前で不動産屋のおっさんとは別れた。
「さて、用事はいちおう終わったから帰るか? そういえば、住民票はコンビニでも取れたから先に取っておくか」
すぐ近くにコンビニがあったので、そこのマルチコピー機にマイナンバーカードを置いて操作して住民票を取っておいた。
「こんなところか。初めてコンビニで住民票取ったけど便利だな。さて、帰るか」
「岩永さん、カーテンだけは早めに取り付けた方が良くないですか?」
「それもそうだな。
いつものスーパーの上の階にそういった窓口があったはずだからいってみるか?」
「スーパーより、あのホームセンターの方が物が揃っていませんか? それにエアコンも取り付けないと」と、華ちゃん。
確かに。
あのホームセンターは家具も扱っていれば、カーペットやコタツ、額まで取り扱っていたものな。もちろん電気製品も扱っているし、エアコンも揃って工事も頼める。
「じゃあ、そっちに行ってみよう」
ホームセンターの手前に3人で現れ、そのまま店の中に入っていった。
カーテン売り場の場所を店の人に聞いたらエスカレーターで2階に上がってすぐ左手にあると言われた。
言われた通り2階に上がったら、当たり前だがいろいろなカーテンが並んでいた。
俺が見てもどれがどれだか、何が何だかわからないので、華ちゃんとはるかさんにカーテンを選んでもらうことにした。結局、外側がピンクの花柄の厚手のカーテンで、内側が白い無地のレースのカーテンを二人が選んでくれた。
店の人に、明日の昼過ぎ、マンションに採寸に来てもらうよう頼んで、それから1階の電気製品売り場に回ってエアコンと冷蔵庫を注文しておいた。カーテンの採寸が明日の午後なので、明日の午後にエアコンの取付工事と冷蔵庫の搬入を頼みたかったが、明日の午後はエアコン工事が一杯だったので、その次の週の週明けの午後に冷蔵庫の搬入とエアコンの取り付け工事を頼んでおいた。
翌日、防衛省での会議で、住所が変わることを知らせておいた。いちおう俺と華ちゃんは防衛省の職員だからな。会議のあとは不動産屋にいって正式に契約し、キーと諸々の説明書を貰った。登記関係の書類は後日送られてくるそうなので、送り先は親父の家にしておいた。
代金の払い込みはもちろん即日だ。アパートの退去時の立ち合いについては不動産屋が良きに取り計らってくれることになったので手間が一つ省けた。今回の成約で不動産屋はうん百万の儲けがあったはずなので、それくらいのサービスは当然あっていいだろう。
マンションの管理費などの費用は管理会社の口座に引き落とされるよう不動産屋で書類を書いてくれたので、俺の銀行口座の口座番号を書いてハンコを押しておいた。
その後、駅横にある区役所の出先の窓口にいって、俺とリサ以下5名の住民票の住所を新しい住所に変更しておいた。
住民票関係の手続きが終わって、俺は華ちゃんと一緒に新たなるマイホームに転移した。そこから電話してその日のうちにガス、水道、電気の契約を終えている。
マイホームで華ちゃんと二人で簡単にハンバーガーとポテトを食べて、しばらく休憩していたら、ホームセンターの人がカーテンの採寸に12時過ぎにきてくれた。
ホームセンターの人はてきぱきと全部の窓の寸法を測ってくれ、その場で見積もりを書いてくれた。南側、東側、北側の3方向に窓が付いている関係で、カーテンの見積価格は端数を切り捨て合わせて60万だった。
カーテンだけで60万か。
俺の安アパートに付けていた薄いカーテンは窓一つ分で2、3千円だったような。だからどうなるわけでもないので、もちろん、その値段で俺はカーテンを発注した。
そういえば、カーテンつけたままで外すのを忘れてた。不動産屋が適当に処分してくれるだろう。
エアコンの取り付けと冷蔵庫の搬入が翌週の午後なので、同じくその日の午後に届けてもらい支払いはその時ということにした。




