第275話 ゴーレム馬2、白鳥の騎士
4月に入って、コタツはコタツ布団を取って座卓になっている。靴を脱いで座っているのが気持ちいい。座椅子があってもいいかと思ったが、少し邪魔なので、座椅子は用意していない。熱海の温泉旅館にいったらお楽しみということにしよう。
ピョンちゃんは、居間から玄関ホールに移動している。玄関ホールは天井が高いので天井から2メートル50センチほどの2本の棒を下に下ろして、その間に横木を取り付けてピョンちゃん用の止まり木にしてやった。横木の高さが肩くらいの位置になる。ピョンちゃんの尾羽は結構長いので、横木に止まっている方が楽なようだ。横木の下にカゴを置いて楽園イチゴと楽園リンゴを入れてやっている。鳳凰に進化する前はよく食べ散らかしていたが、進化してからは食べ散らかすこともなくきれいに食べている。
それはそうと、ゴーレム馬を開発した俺は、まずはエヴァに報告することにした。
居間に転移で現れた俺は、ちょうど居間に下りてきたエヴァに、
「エヴァ、作業場への従業員の足を作ってやったぞ!」
「できたんだ」
「なんとかな。
入り口から10階層まで約20キロを1時間くらいでいけるようゴーレム馬を作ったんだ。
人は馬に乗っているだけで歩かなくていいから仕事前から疲れるようなことはないはずだ」
「ゴーレム馬?」
「そう、ゴーレム馬。
ゴーレム馬に跨って10階層まで駆けていけばダンジョンの入り口から1時間くらいで到着すると思う。
さっそく試してみないか?」
「はい!」
「ヘルメットだけ被って、二人でいってみよう」
エヴァはすぐに2階に上がっていき、自分のヘルメットを被って下りてきた。
俺はエヴァを連れて、北のダンジョンの入り口の空洞に。
防具はヘルメットだけの舐めた格好の俺たちを見て他の冒険者たちが奇異な目をむけてきたが、絡んでくるような連中はいなかった。
「それじゃあ、ゴーレム馬を出すからな」
まずは俺用のゴーレム馬をアイテムボックスから目の前に出し、それより少し小ぶりにしたゴーレム馬をエヴァの前に出してやった。鐙はあった方がいいと思い、小改造として胴体の下の辺りに足置き用の出っ張りを左右にくっつけたら、ますますラシクなってしまった。機能性は見た目に優先するのでこれはこれでいい。
見た目は相当残念なのだが、そこは目を瞑るしかない。俺が目を瞑ろうが、そんなことは関係なく周囲から奇異の目を向けられている。
何であれ、やることは変わらない。
俺は、周囲を無視してエヴァ用のゴーレム白馬に向かって、
「そこのエヴァの命令を聞け」と、命令しておいた。これがフィギュア化から戻したメタルモンスターなら戻した本人の命令を聞くのだが、ゴーレムの場合は作った者の命令しか聞かないための方便だ。
「エヴァ、そのゴーレム白馬に跨って乗るんだが、まずは『伏せ!』と言ってしゃがませてからだ」
エヴァは、馬っぽくないゴーレム白馬を見て何か言うかと思ったようだが、ゴーレム白馬の形状について何も言わず素直に、目の前のゴーレム白馬に向かって命令した。
「伏せ!」
エヴァの命令を聞いて白馬が伏せた。
「そうだ。
そしたら胴体に跨って頭の横から左右に出ている横棒を両手で掴む。足は足置きの上な」
エヴァが白馬に跨って、頭の横棒をしっかりつかみ、足置きの上に足を乗せた。自分ではゴーレム白馬に乗った姿を客観的に認識できないのだが、こうやってゴーレム白馬に乗ってエヴァを横から見ると、確かにその姿はナニカを連想させる。だからと言って、それをエヴァに言う訳にはいかない。俺は極力真面目な顔をして、
「よし。
そしたら、今度は『立て!』」
「立て!」
「うわー、高い」
「両手でしっかり横棒を握っていれば怖くないから。それと、あまり力を入れる必要はないけど、太ももで馬の胴体を挟む感じだ。
そう。それでいい。
それじゃあ、俺も『伏せ!』」
俺も白馬に跨って横棒を掴み、足置きの上に足を乗せて、
「『立て!』
俺が前になるから、エヴァは俺について来てくれ。
『前のゴーレム馬についていけ』とでも命令すればいいだろう。
まずは軽く歩いていこう。
『歩け!』」
俺のゴーレム白馬が本道と思われる洞窟に向かって歩き出し、その後をエヴァの乗るゴーレム白馬が続いた。
俺たちを遠目で見ていた冒険者たちもやっと自分たちの目的を思い出したのか、動き始めた。
しばらく進んでいたら、前方からリュックを何個かひっかけたイワナガ運送の銀色のメタルゴーレムがやって来た。ゴーレムの前後にはゴーレムに荷物を預けたらしい4人組が歩いていた。その連中も俺たちの姿を見て驚いていたが、一応彼らはお客さまなので軽く会釈して通り過ぎた。
そろそろ駆け始めようと思い、振り返って後ろをついて来るエヴァに、
「エヴァ、歩くのはだいぶ慣れたか?」
「はい。もう慣れました」
「よし、それじゃあ、少しずつスピードを上げるからな。
ついていけって命令済みだから何も言わなくてもエヴァのゴーレム馬は俺のゴーレム馬についてくると思うからそのままでいいはずだ。横棒だけはしっかり握っておけよ」
「はい」
洞窟の路面は凸凹なのだが、ゴーレム馬は苦にならないようでどんどんスピードが上がってだいたい時速20キロくらいかなというところまでスピードが上がった。意外とゴーレム馬は揺れが少なく、乗っていても疲れずに済みそうだ。
向こうからくる冒険者やイワナガ運送のゴーレムとすれ違うのは簡単だが、前をいく冒険者を追い抜く時は少し緊張した。緊張したと言ってもゴーレム馬が勝手に追い抜くので、ペーパードライバーの俺から見て、自動車に比べればよほど簡単に追い抜くことができた。
洞窟の中で頬に風を感じて非常に爽快な気分を味わいつつ、俺は白鳥型ゴーレム白馬を走らせていた。
俺の姿を傍から見れば、さながら『白鳥の騎士』ではないだろうか。『白鳥の騎士、岩永善次郎』いい響きだ。となると、俺のこの愛馬にも名まえが欲しくなるな。ロシナンテでは駄馬になってしまうし、後ろから俺についてくるエヴァがサンチョになってしまう。となると、シルバーか? いや、シルバーは某web作家が馬の名まえに使っていたので、怪傑〇ロのトルネードでいいか?
そうやって、洞窟の中をしばらく駆けていたら、5分ほどで第2階層への階段のある空洞が前方に見えてきた。
「階段はスピードを落としてゆっくり下りるからな」
ゴーレム馬のスピードを歩く速さくらいまで少しずつ落として階段に乗り出した。
高いところから階段をのぞき込むと少し緊張したが、ゴーレム馬は階段を踏み外すこともなくちゃんと階段を下りていき第2階層の空洞に到着した。
それからも順調にゴーレム白馬は駆けていき、第5階層の作業場を通り過ぎる時は手を振ったくらいで、そこからはそれを繰り返し、ダンジョンの入り口から第10階層の大空洞まで60分弱で到着できた。
「お父さん、これなら大丈夫ですね。わたしでも楽に乗れてほとんど疲れませんでした。
作業場から第1階層に帰る時は作業場に置いていたゴーレム馬に乗って帰るだけですが、そこに置いておかなくちゃいけないし、第1階層から作業場に向かう時用にも第1階層にゴーレム馬を置いておかなくちゃいけないけど、ゴーレム馬を置きっぱなしで大丈夫でしょうか?」
「ゴーレム馬は作った俺の命令しか実際は聞かないから、イワナガ運送の作業員の命令だけ聞くように俺が命令しておくよ。そうすれば、ゴーレム同様に作業員以外が乗っても動くことはないだろうし、盗むこともできないだろうから大丈夫なはずだ」
「それなら安心です。
宿舎が完成したら人を集めないといけませんね」
「今は20人用だけど、すぐに増築しそうだけどな」
「そうですね。どんどん仕事が増えていけばいいなー」
「きっとそうなるよ。アキナちゃんが『エヴァの夢はきっと叶う』って言ってたろ?」
「はい!」