第265話 エヴァ、起業家への道4
エヴァの起業したイワナガ運送は週1日を定休日としていて、その定休日を利用し、8時から16時の1番、16時から24時の2番、24時から8時までの3番が一つずつずれて入れ替わるよう考えている。
この1週間、実働6日間の利用者数は延べ3600人。運んだ総量は11万5千200キロ、顧客一人当たりの運搬量は32キロ。売り上げは銅貨換算57600枚、金貨57枚と銀貨6枚になったようだ。こういった計算は全てエヴァが行なっている。
これに対し、支払った賃金は、6人に対して、当初1人当たり銀貨1枚だったが、思った以上に仕事が大変だったのと、事業が好調だったため、1人当たり銀貨2枚を夜間・深夜手当込みで支払い、延べ36人×銀貨2枚で、金貨7枚と銀貨2枚となり、収益は金貨57枚と銀貨7枚-金貨7枚と銀貨2枚=金貨50枚と銀貨5枚となった。
ほとんどが銅貨なので、街の両替屋で金貨に両替したようだ。
そして、俺が手伝わずに済むようエヴァが売り上げを運ぶ運び人を2名雇ったので、次の週からは2日に1度、屋敷まで売り上げが運ばれてくることになる。この二人には1回の運搬で一人当たり、銀貨1枚が支払われる。
エヴァには売り上げの勘定やお金の管理、保管などもあるので、2階の一部屋をエヴァの事務室にしてやった。机などは自分で揃えるからと言って、翌日には机や椅子が業者から運ばれてきた。
3週目に入ると、冒険者から休まず営業して欲しいとの要望が作業場の作業員たちに寄せられるようになったようだ。
そうはいっても、休まず働くには限度があるので、エヴァはもう2人作業場担当を雇い4チーム制にした。
1 2 3 4 5 6 7 8 9101112(日目)
Aチーム 1 1 1 ヤ 3 3 3 ヤ 2 2 2 ヤ
Bチーム 2 2 ヤ 1 1 1 ヤ 3 3 3 ヤ 2
Cチーム 3 ヤ 2 2 2 ヤ 1 1 1 ヤ 3 3
Dチーム ヤ 3 3 3 ヤ 2 2 2 ヤ 1 1 1
就業時間:(ダンジョン内移動2時間強含まず)
1番:08時~16時
2番:16時~24時
3番:00時~08時
企業側から見た場合、週7日、1番、2番、3番各2名=延べ42人=銀貨84枚。週6日勤務の銀貨72枚と比べ単純に銀貨12枚費用が増える形になっている。
これを8人で割ると、一人頭、銀貨10枚と銅貨50枚となり、6人の時の銀貨12枚より収入が減ることになるが、問題はなかったようだ。
人件費を引いた収益として、週金貨60枚から65枚という感じに落ち着きそうだ。
1カ月4週とすると、金貨250枚を稼ぐことになる。エライこっちゃ。
今回エヴァは日給制で事業をスタートしたが、やはり4直3交代は負担もかかるようなので、その意味も兼ねて月給制にすることを考えているようだ。
月30日間×6人=延べ180人。1カ月の支払い賃金は銀貨360枚。
エヴァはこれを見直し、イワナガ運送側の1カ月の支払い賃金を銀貨400枚とし、従業員8人で割って月給を銀貨50枚とすることにした。また、別途に雇っていた売り上げを運ぶ運び人2名も同じく銀貨50枚の月給制にし、毎日作業場からうちの屋敷に売り上げを運ぶようにした。
「お父さん、北のダンジョンの近くにイワナガ運送のみんなが住める宿舎を作りたいんです」
「なるほど。いい考えじゃないか。従業員の福利厚生は大切だものな。今はみんな合わせて10人だから、大きな宿舎は必要ないかもしれないが、エヴァは運送に限らず、仕事をもっともっと大きくしていきたいんだろ?」
「はい!」
「だったら、大き目の方がいいよな。
よし、それじゃあ商業ギルドにいって土地を当たってみよう。土地の目途が立てば後は建築屋だ。隣りで学校を建ててるマーロン建築のマーロンさんに頼んでもいいしな」
俺はエヴァを連れてさっそく商業ギルドに跳んだ。
窓口で用件を言ったら、応接室に通され、いつもの担当女性が台帳を持って現れた。
「ゼンジロウさま、バレンダンジョン近くに土地をお求めだとか?」
「今日はわたしの話ではなく、娘のエヴァ・イワナガの用事でついてきました」
「これはこれは。わたくし商業ギルドでゼンジロウさまを担当させていただいております、ドロシーと申します。エヴァさんと言えば、今バレンダンジョンで冒険者相手の事業を始められたあのエヴァさんですか? たしかイワナガ運送でしたか」
「はい。そのエヴァです。よろしくお願いします」
さすがは、商業ギルドだ。耳が早い。
「はい。イワナガ運送にも関係しているんですが、今雇っている人たちの宿舎を建てたいのであの辺りに土地を探しています」
「それは良いお話ですね。ダンジョン周辺には出物はありませんが、500メートルも離れればいくらでも土地は手に入ります。当ギルドが所有する土地ですと、50メートル四方1区画税込みで金貨50枚から60枚となります」
「あれ? 土地は使用権だけとかこの前聞いたけど?」
「それはバレン市内の土地だけです。
バレンダンジョン周辺は自由に売買できます」
「そうでしたか」
「はい。
それで、これがバレンダンジョン周辺の大まかな地図になります。当ギルドで所有している土地は白抜きの部分になります」
ドロシーさんが台帳を開いて地図を見せてくれた。白抜きされた部分は道に沿って区画割がされていて、ダンジョンの周囲には白抜き部分はなかったが、その南側、バレン方向の半分程度が白抜きになって区画の線が描かれていた。白抜き部分は、好きなところを選べそうだ。
「現地にいって確認してみましょう。
馬車を回しますので、玄関ホールの前でお待ちください」
知らない場所でもないので、転移でダンジョン前まで跳んでいった方が手っ取り早いが、久しぶりに馬車に乗ってみたくなったので、エヴァを連れて玄関前に回った。
あまり待たされず、馬車に乗り込んだ。ドロシーさんの向かいに俺とエヴァが並んで座っている形だ。
馬車に揺られながら、
「エヴァさま、将来、市街に店を構えるようなことがあれば、ぜひ商業ギルドにご加盟ください。ゼンジロウさまは商業ギルドに出資されていますので、年会費無料で加盟できます」
「その時はよろしくお願いします」とエヴァが無難に答えたが、すぐにその時はやってくるような気がする。
市街を抜けた馬車はしばらく街道を北上して、それから、バレンダンジョン方向に曲がっていった。この道をまっすぐ進めば冒険者ギルドの支部がありその先にバレンダンジョンがあるのだが、途中で馬車は曲って街並みから少し離れたところに止まった。
「この辺り一帯がギルドで所有している土地になります。
区画の目印になるよう4隅に杭が打ち込まれていますので、確認してください」
馬車を下りた俺たちは、辺りを見渡したのだが、街はずれということで、少し離れたところにバレンダンジョンを囲むように建物が建ち並び、俺たちの立っている周辺には何もなく枯れ草が広がっているだけだった。ギルドの土地の先は畑が広がっているようだった。
「なるべくダンジョンに近いところをお願いします」と、エヴァが言ったので、ドロシーさんが持参していた台帳を見ながら、
「そこに見えてる杭の場所ですね。その区画の価格は金貨60枚になります」
「この土地でお願します」
「それでは、ギルドに戻り手続きしましょう」
お金はエヴァから俺がある程度あずかっていたので、商業ギルドに戻って代金を支払い、領収書と権利書のようなものを貰った。これであの土地はエヴァのものになった。




