第251話 とんかつ屋
スカイツリー見学を終えた俺たちは、地上に下りて、街並みを見ながら浅草方面に歩いていった。結構距離があったが、俺たち一心同体はもちろん、残りの子どもたち、リサやはるかさんも含めみんな健脚だったのでそれほど苦にならず隅田川を渡る手前で、妙なものが上に乗っかているビルがあった。俺もよく知るビール会社のビルだ。
「なんじゃ? あれはー!」
「「う○ちだー!」」
子どもたちが大笑いしていたが、大人は黙ってスルーした。
子どもたちの年齢は12歳から15歳なのだが、精神年齢はそれよりずっと低いような気がする。
ただ、子どもたちが大声で話している言葉はニューワールドの言葉だったので、一緒に歩いている大人たちには被害が及んでいない。ハズ。
川を渡ってしばらく歩くともう浅草の仲見世で、そこは結構外国人を含め人が多かった。
子どもたちが迷子になっては大変なので、いつぞや作った添乗員の日本国旗を掲げようかと思ったが、ほんの少し目立つかもしれないと遠慮してしまった。その代わり、華ちゃんを先頭にアキナちゃん、子どもたち4人、リサとはるかさん、そして俺の順で隊列をしっかり保って進むことにした。
仲見世を歩きながら、道端に並んだ店の窓口でせんべいやら雷おこしを買って食べながら雷門を眺めたりしていたのだが、ここで俺はすごいことを閃いてしまった。
この人ごみの中で、華ちゃんがデテクトライフを唱えたらどうなるだろう? まかり間違えればパニックが起こってしまう。まかり間違えなくても大騒動だ。何せ半日みんな揃って緑に点滅するんだもんな。
こんなバカなことを考えているということは、疲れが溜まっているのかもしれない。
このところ自分の歳を感じることがよくある。日光が頭皮に直接当たるとか。
錬金術師レベルマックスの俺なら年齢くらい余裕でドーピングでごまかせる。ということで、予防的にスタミナポーションを1本いっといた。みんなにも、スタミナポーションいらんかね? と、聞いてみたが、ニーズはなかった。さらに自分の歳を感じてしまった。
それでもドーピングでシャッキリした俺は、
「そろそろ、昼にするか?
何食べたい?」
みんなに食べたいものを聞いたところ、
「わらわは、ケーキじゃな」
などという輩は無視して、
「とんかつはまだみんな食べていないだろうから、とんかつにするか?」
「いいですね」
「華ちゃん、はるかさん、いい店知ってる?」
「この近くで探してみましょう」そう言ってはるかさんがスマホで探してくれた。
「ここからそれほど遠くないところに、良さそうな店がありました」
「じゃあそこにするか。
時間が時間だけど、混んでなきゃいいな。
いってみて混んでるようなら別のところを探そう」
「はい」
そういうことで、今度ははるかさんを先頭とした隊形で俺たちは移動を開始した。
5、6分で店の前に俺たちは到着した。
中に入ると、間口は狭いが奥行きがあり、9人の俺たち用に取ってつけたように二人席が5つ並んで空いていた。
「ラッキーだったなー」
なぜか、アキナちゃんがニヨニヨ笑いからしたり顔に戻って、
「じゃろ」。だった。なんだ?
店の人にことわって、席をくっつけ、メニューを見ながら注文していった。
子どもたちと俺はロースかつ定食。華ちゃん以下3名は、エビフライ定食だった。それにみんな適当に飲み物を頼んでおいた。
どう見ても外国人のリサたちが流ちょうに注文するものだから、注文を聞いた店の人も驚いたようで、
「みなさん、日本語お上手ですが、どちらから?」
どちらからと聞かれて、答えるわけにもいかないので、俺が代表して、
「みんなわたしの家でホームステイして日本語の勉強してるんです」
「日本語の先生をされているんですか?」
「そんなものです」
「がんばってくださいね」
そう言い残して注文を書いた伝票を持って暖簾の奥に戻っていった。
それから10分ほどで、注文した定食がみんなにいき渡った。
おしぼりで手を拭いたところで、
「「いただきます」」
みんな揃っての『いただきます』で、他のお客が少し驚いたようだが、子どもたちの顔を見て「行儀の良い子どもたちだねー」「日本語お上手ね」「かわい子」などと言ってくれた。
「ソースをかけた方がいいぞ。ソースは直接かけてもいいし、付いてる小皿にとってそれにくっつけて食べてもいいからな」
俺は、ソースを直接細切りのキャベツにかけて、そのあと、小皿にソースを入れた。まずはロースかつの真ん中から一切れ箸でつまんで小皿のソースにちょっとだけ浸け、口に運んだ。
衣はサクサク。肉は厚い上に熱いのだが、衣と一緒に食べたらちょうどよかった。
三口でサクサクの一切れを食べ終わり、ソースをかけたキャベツを多目にとって口に入れた。細切りキャベツに水気がありシャキシャキしている。とんかつについているからこそのキャベツだよな。
またロースかつを一切れつまみ、ソースに浸けて一口口に入れ、すぐにご飯を一口口に入れ一緒に食べてやった。いいねー。ごはんと一緒に食べておいしいと感じる。幸せだ。幸せオーラでまた俺の脳みそのしわが減ったかもしれないが、これなら仕方ない。
みそ汁はなめこの味噌汁だったが、入っているなめこの数はそれほど多くないので、かえって飲みやすい。数少ない貴重ななめこを箸でつまめると何だか勝ったような気になる。
子どもたちも無言で食べている。夏にいった熱海の温泉旅館の時みたいだ。
華ちゃんたちの食べているエビも大きくておいしそうだ。とは言え俺の目の前のロースかつも全部食べればかなりの量があるので腹いっぱいになると思う。子どもたちはいつもの通りお残ししないだろうから、またパンパンだな。
飲み物は注文したもののほとんどだれも手を付けていない。お残しはあまりよくないが、飲み物は仕方ないだろう。
食べる前にコピーしておけばよかったのだが、コピーし忘れたので、途中で店の人を呼び、テイクアウトでロースかつとエビフライを人数分頼んでおいた。
テイクアウトの包みを受け取り、勘定を済ませ店を出て、みんなにヒールポーションを配ったら、みんな何も言わずに飲んでしまった。思った以上に腹が膨らんでいたようだ。




