第244話 美少女フィギュア1、定例会議
週が明け、俺と華ちゃんは例のごとく防衛省に跳んだ。
その日防衛省側からは、今3つある一般冒険者チームのうちのグリーンリーフではない2チームのうちレッドウルヴズのクロスボウ使いと刀使いにそれぞれ探検のスキルと盗賊のスキルブックを渡し、ブルーダイヤモンズの洋弓使いと刀使いに同じく探検のスキルと盗賊のスキルブックを渡し使用させたそうだ。順当だな。
グリーンリーフは再度第1ピラミッド=ダンジョンの第15階層に進出して探索を再開したが、俺たちのダンジョン同様罠も多く探索は難航しているという話だった。
川村局長の話の後、俺はニューワールドでのダンジョン探索の進展を話しておいた。もちろん営業につなげるためである。
「前回の会議で宝物庫の話があったものですから、先週宝物庫を探してダンジョンの中を探索したんですが、宝物庫は見つかりませんでした。
その代り、面白いものを2つ見つけました。
一つは、モンスターの死骸を上に置くとフィギュアに変えてしまう魔法陣。もう一つは、石の塊のようなものを置くとゴーレムに変えてしまう魔法陣です」
「フィギュアとゴーレムとは?」と、川村局長。
「はい。
まず、フィギュアですが、モンスターの死骸がフィギュア化すると大きさが30分の1から40分の1に縮まって持ち運びも容易な銀色のフィギュアになります。
そのフィギュアをダンジョンの床に投げてやると、元の大きさのモンスターに戻るんですが、その時、元はどうであれ銀色のメタリック塗装されたように見える命令に忠実なモンスターになります。しかも元のモンスターと比べ格段に強くなっています。
残念なことに、ダンジョンの外では元に戻ってくれないんですがね。
ゴーレムですが、これは岩から命令に忠実なゴーレムができ上ります。試したのは岩だけですが、おそらく生き物以外ならなんでもゴーレムになると思います。それで、このゴーレムもさっきのフィギュアに変える魔法陣でフィギュアに変えることができました」
「ということは、持ち運びが便利なうえ、元の大きさに戻った時はメタリックでかつ強力なゴーレムということですか?」
「そういうことです。
ダンジョンの中じゃないので元に戻って動き回るところをお見せできませんが、これがフィギュア化した大蜘蛛、それで、これがフィギュア化したゴーレムです」
俺はそう言ってテーブルの上に大蜘蛛のフィギュアとゴーレム3型のフィギュアを乗せて、二つ揃えて川村局長の前にズズズーっと押し出した。
背丈が3メートルのゴーレム1型だと大きすぎるし、人間並みの大きさの2型だと荷物の運搬量が限られるので、今回サンプルとして提示したゴーレム3型は1型と2型の中間の大きさの背丈が2メートル50ほどのゴーレムだ。
「ほう。どちらも金属製に見えるんですね。大蜘蛛は精巧だなー」
「手持ちのモンスターで大蜘蛛のフィギュアが一番優秀だったもので。
そのうちケイブ・ウルフの良い出物があれば、フィギュアにしてみますよ。期待してください」
「岩永さんが、われわれにこういったものをお見せになったということは?」
大蜘蛛のフィギュアとゴーレム3型のフィギュアをそれぞれ2体ずつ錬金工房で作り出し、テーブルの上に置いて、それを両手で川村局長の前にズズズーっと押し出した。
「はい。この6体フィギュアは差し上げますので、グリーンリーフほか2チームに持たせて試用してください。これが、使用法です」
俺は、フィギュアモンスターの使用法を手書きで書いたメモを差し出しておいた。
「使用実績がいいようなら、お安くご提供します。
大蜘蛛の用途は前衛のアタッカー、ゴーレムはもちろん強力ですが荷物の運搬も可能と思います」
「なるほど。
価格の方はいかほどをお考えでしょうか?」
「大蜘蛛は1個100万円。ゴーレムは1個200万円を考えていますが、高すぎますか?」
「試用させていただいてからのことですが、もう数カ月もすれば、ダンジョンが一般開放され本当の意味での一般冒険者がダンジョンに入っていくわけですから、こういったアイテムは貴重です。一般に普及させるためにはもう少し価格を下げていただけたらと思います」
「局長、防衛省で買い取って、ダンジョン入場時に冒険者に貸し出す形にすれば何とかなりませんか?」と、野辺次長が指摘した。
「そうすれば貸出時に借り手がどこの誰か分かるわけだからその方がいいか。
岩永さん、こちらで前向きに検討させていただきます」
「了解しました。
まだ試してみていないので確定版ではないんですが、ゴーレムを作る魔法陣の上に、いわゆる美少女フィギュアを乗せておけば美少女ゴーレムが作れると思うんですよ。
ダンジョンの中限定とはいえ、美少女ゴーレムが動き回ればロマンじゃないですか? 自衛隊の広報活動的にも?」
「ほう。それはそれは」
「ポーションを卸したら、秋葉原に寄ってフィギュアを仕入れて、帰ってテストしてみます。
うまくいったら、市販のフィギュアでは著作権などの問題もありますから自衛隊キャラでフィギュアを作ってもらってそいつをゴーレム化しませんか?」
「ぜひお願いします」
会議の後ポーションを卸して、秋葉原に直接跳べなかったので俺たちはいったん東京駅に跳んだ。
駅の中を歩いていたら先週株の注文をしていたことを思い出したので、スマホで株の残高を見たら、カドカワの株はちゃんと買えていた。今の評価額は95億で、5億円損していたがどうってことない。公募増資の方の株はまだみたいだった。こっちは放っておけばそのうち20億円分買えるんだろう。
切符を買ってホームに上がったら丁度やってきた京浜東北線に乗り込んで秋葉原に降り立った。
大通りに出て人の流れに乗り歩道を歩いていたらそれらしいポスターを貼った店があった。中に入って一通り見て回ったが、子どもたちにお土産になるようなフィギュアは見当たらなかった。
ゴーレムにするのは完成品の美少女フィギュアなら何でもよかったのだが、せっかくなのでそれなりのフィギュアを2体買った。意外というかそれなりというのか分からないが、結構な値段だった。ただ、2体とも台座にくっ付いていたのでそこが心配だ。台座付きのゴーレムではさすがにしらけるからな。
フィギュアはどれも大きな箱に入っていたので1箱は華ちゃんに持ってもらい、俺が1箱持っている。
「岩永さん、フィギュアを選ぶ目が真剣でしたね」と、華ちゃん。
「せっかくだから、なるべくうつるフィギュアを選ばないとな。
華ちゃんこそ、女の子でこういった店に入ることに抵抗なかった?」
「抵抗はありませんでしたが、お客の男性がじろじろわたしのことを見るのでちょっと嫌でした」
「華ちゃんはリアル美少女だから、じろじろ見られるのは税金と思うしかないよ」
「そんな」
「そういった目に晒されるのが嫌なのは理解できるが、美少女を己の目に焼き付けておきたいというのは、男の性だ。大目に見てやってくれ」
「岩永さんがそう言うなら」
「華ちゃん、すまないね。
さて、今日は屋敷で食事すると言ってきたから、そろそろ帰るか。
華ちゃん、どこかいきたいところがあれば、寄ってもいいけど」
「特にないですから、帰りましょう」
華ちゃんと店から出ていこうとしたところで、背後にじっとりとした視線を感じた。振り返ると、複数の客が俺を睨んでいた。これも男の性なのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
善次郎たちが帰ったあと、会議室に残ったD関連局の4人はテーブルの上に並べられたフィギュアを見ながら、
「このメタルゴーレムとメタル大蜘蛛の件だが、本当に一般に出していいものかな?」と、川村局長。
「動力など何もないはずなのに、いわばロボットが動いているわけですから、科学者は驚くでしょうね」と、野辺次長。
「いずれ、われわれのダンジョンでもモンスターとしてゴーレムといったものが現れるかも知れないから、その時まで伏せた方がいいんじゃないか?」
「局長、ダンジョン内での成果の持ち帰りが冒険者活動のネックになるんじゃないでしょうか。メタルゴーレムはそういった意味で最適ですし、メタル大蜘蛛も冒険者の犠牲を極力抑えるという意味では最適では?」
「そうだったな。やはり早い時点で導入か。しかし、やたらと貸し出すわけにはいかないから、貸し出す相手を選ばないとな」
「それはそうですね。メリットを最大限に生かしてもらう意味でもそれしかないでしょう。
ある程度レンタル料が高ければ、料金に見合う成果を上げる自信のある冒険者チームが自然借りるんじゃないですか?」
「それもそうか」




