第229話 ピョンちゃん4、祝福
午後からも出遭うモンスターは上位種が続いた。
モンスターを斃すたびにピョンちゃんの羽の色が濃くなっていき、こんどは紫っぽくなってきた。
「華ちゃん、ピョンちゃんだけど、少しずつ進化してたんじゃないか? 青かったピョンちゃんがこんな羽の色になった以上、楽園オウムからなにか別の鳥になってるかもしれないぞ」
「鑑定してみましょう。
鑑定。楽園瑠璃オウム。
名まえが変わっていました」
「見たまんまだけど、これは上位種に進化したって考えていいんじゃないか」
「そうですね」
「ご主人さま、進化って何なんですか?」
キリアが俺に尋ねてきたのだが、なかなか難しい質問だ。モンスターの進化はいわゆる進化論的進化ではないので、適当に答えておいた。
「はっきりとした理由はもちろんわからないが、モンスターと戦い、モンスターを斃していくと、少しずつ強くなっていくんだ。そして気付けばすごく強くなって、元とは違ったものになるんだ。そういったことを進化というんだ」
「ご主人さま、そうしたら、わたしたちも進化するんですか?」
「進化しないとは言い切れないが、おそらく進化しないんじゃないか」
「よかったー」
今キリアがどういった理由で進化しない方がいいと思ったのかは分からないが、大抵の人間も進化したいとは思わないのではないだろうか。特に見た目が変わるとなるとなおさらだろう。
モンスターなり動物は、人とは違いそういったことを考える知能もなければ考える余裕もないのかもしれないが、どうなんだろう?
それはそれとして、ピョンちゃんの進化は事実だ。これでピョンちゃんの進化が打ち止めなのかどうかだ。
これから先、また羽の色が変わってきたら、ワンチャンあるということだろう。最初真っ白だった羽が少しずつ青くなってそれから青紫色になったわけだから、次はなんだろうな。紫気が出てきたということは、だんだんと青紫から紫、そのあと赤味が強くなっていき、赤紫、最終的には真っ赤になるかもな。真っ赤なオウムか。ちょっとカッコいいかもしれない。
「ピョンちゃんがまだ進化するとして、今度は真っ赤になるんじゃないか。
今回ピョンちゃんは楽園瑠璃オウムだったから、こんどは、楽園紅玉オウムかな」
「ゼンちゃん。わらわの知っている真っ赤な鳥というと、伝説の鳳凰だけじゃが、まさか、ピョンちゃんが鳳凰には成るまいな」
アキナちゃんの今の言葉だが、ひょっとして真実を突いているかも? と思ってしまった。何せ普通のダンジョンだとそこの最深部と思われている楽園の真ん中にいたこと自体普通じゃないものな。
「うーん。可能性はあると思うぞ」
もしそうならそれに越したことはないが、最終形態と思われる鳳凰に進化するためには、これから先とんでもない数のモンスターを斃さなければならないはずだ。期待しつつも地道に進んでいこう。
「ピョンちゃん、あなた、そのうち鳳凰に成っちゃうの?」と、華ちゃんが直球勝負にでた。
そしたら、ピョンちゃんは、ピヨン、ピヨン鳴いて頭を縦に揺らしていた。
「ピョンちゃんが言うには、鳳凰に成っちゃうようです」
ピョンちゃんは俺たちの言葉をかなりの部分理解しているのは確かだから、今の自己申告も本心なのかもしれない。
こうなったらピョンちゃんを促成栽培で進化させたいが、なにかドカーンとでっかいモンスターを斃して効率よくいきたいものだ。その点で言えば、魔神の眷属や魔神そのものが効率的だったはずなのだが魔神の眷属の時は危険だと思ってピョンちゃんを連れていなかったし、魔神本体は俺が思い付きで太陽に放り込んだから、もったいないことをしたんだよな。
石造りの人工的ダンジョン内の場合、通路ならそれなりの長さはあるが、幅は限られるし当たり前だが天井もある。部屋となると、大抵の部屋は10メートル四方だ。そのせいだろうと思うが、ケイブ・ウルフ系統を含めて大型のモンスターが出てこない。そもそもバジリスクくらいの大きさになってしまうと部屋に入りきらない。
俺たちはそれでも地道に探索を続けて、未探索領域を潰していっているのだが、第1階層はどこまでも広がっている。
「今日はこの先を確認してお終いにしよう。
それじゃあ、開けるぞ」
俺は、華ちゃんのデテクトアノマリーで異常のないことを確認した扉に手をかけてゆっくり扉を開いた。
扉の先は10メートル四方の部屋を予想していたのだが、そこは、遭難していた勇者を見つけた部屋と同じように50メートル四方の広さがあった。違いは、あの部屋にはプールがあったが、この部屋にはプールがないことくらいだ。
華ちゃんが手順通り部屋の中に向かってデテクトアノマリーとデテクトライフをかけたところ、部屋の外からざっと見た感じ赤い点滅も緑の点滅もなかった。
俺が先頭になって部屋の中に入っていこうとしたところで、華ちゃんの肩の上に止まるピョンちゃんが体を揺らしてピヨン、ピヨン鳴き始めた。それも、いつも以上に大きな声だ。
華ちゃんがピョンちゃんをなだめるのだがピョンちゃんはますます大きな声で鳴きだした。
「何か分からないが危険なのかもしれない。俺が一人で中に入って様子を見てみるから、華ちゃんたちはそこで待っていてくれ」
「ゼンちゃん、その前にわらわが祝福を授けておこう」
アキナちゃんがそう言ったとたん、俺の体が薄く山吹色のオーラに包まれた。前回同様、体が少し温かく、少し軽くなったような感じがした。
俺は、如意棒を構え、ゆっくりと大部屋の中に入っていった。天井を見上げると、相当高い。部屋の一辺と同じくくらいの高さがあるので50メートル、いや、もっとあるかもしれない。
俺が周囲を警戒しながら部屋の真ん中に進んでいったら、部屋の真ん中からあの台座がゆっくりせり上がってきた。これまでの台座はタダの台だったが、この台座の上には何か文字のようなものが書かれていた。ここで大金貨を置けば何か変化が起こると思うが、台座の上に描かれた文字が気になる。
ここまでは危険ではなかったので、アキナちゃんなら前回のように文字が読めるかも知れないので部屋の外に待機していた3人を呼んだ。ピョンちゃんは諦めたのか、今はおとなしくしている。
「アキナちゃん。台座の上に書いてある文字が読めないか?」
「これも声に出すことはできないが意味は『試練の間』じゃな」
「『試練の間』か。おそらくこれまでと同じようにこの台座の上に大金貨を置けば何かが起こると思う。その何かに備えろという意味だと思う」
「ということは、強敵が現れる?」
「おそらくな。
アキナちゃん、華ちゃんとキリアにも祝福してくれるか」
「それじゃあ、二人に祝福!」
華ちゃんとキリアが同時に薄く山吹色のオーラに包まれた。
「ピョンちゃんはいったん楽園に置いてくるか?」
俺がそう口にしたら、ピョンちゃんはまたピヨン、ピヨン鳴き始めた。
「いやがってます」と、華ちゃんが通訳してくれた。
「じゃあ、アキナちゃん、ピョンちゃんにも祝福しておいてくれるか」
「そうじゃな。では、ピョンちゃん。わらわの祝福を受けて強くなるのじゃ、祝福!」
アキナちゃんがピョンちゃんを祝福したとたん、ピョンちゃんの周りで山吹色のオーラが渦を巻き始めた。
「なんじゃー!?」




