第222話 グリーンリーフ4、記者会見
日本各地にダンジョンが出現して以来、諸外国から日本政府に対して研究のため調査団を派遣したいとの打診が続いていたが、これまで日本政府は全ての打診を断っていた。
昨年末、ダンジョンの一般開放後は外国人も今後発行される予定のダンジョン入場資格証明書、正式名称ダンジョン免許証を取得すれば一般冒険者としてダンジョンの探索は自由であると日本政府から各国に通達している。合わせてダンジョン免許証の資格試験では実技試験と筆記試験を予定しており、当分の間実技試験、筆記試験双方日本語のみで行なうとも通達している。
正月三が日が過ぎ、官庁の仕事始めの今日。
午前9時から防衛省が民間人冒険者として選抜した冒険者チームグリーンリーフの記者会見が行われる防衛省の記者会見室に、大勢の報道関係者が詰めかけていた。
記者会見に招かれたのは国内の報道関係者だけで、海外の報道関係者は招かれていない。
8時59分。防衛省側の司会者がマイクを持った。すでに、ビデオカメラでの撮影は始まっている。
「それでは、グリーンリーフの3名が入室します」
時間ピッタリにグリーンリーフの3人が記者会見室の前方の扉から入室し、フラッシュがたかれる中、会見用テーブルの後ろの席に着いた。席順は左から斎藤一郎、リーダーの田原一葉、鈴木茜の順である。
外部の報道関係者に交じって防衛省のカメラマン、ビデオカメラマンも撮影している。
3人が席に着き一礼したところで、司会者が、田原一葉、斎藤一郎、鈴木茜の順に紹介を始めた。
「まずは、グリーンリーフのリーダー、田原一葉さんです」
ここで、一葉が報道陣に向かって一礼した。
「17歳。体重、身長、スリーサイズなど防衛省では把握しておりますが、発表は致しませんのであらかじめご了承ねがいます」
司会者のジョークだったのかもしれないが、これは不発だったようだ。
「使用武器は両刃の剣です」
それでも、司会者は気を取り直して続けて、
「そして、斎藤一郎さん。17歳。武器は杖を使用しています。
最後は鈴木茜さん。17歳。彼女も杖を使用しています」
二人は紹介順に礼をしている。
「動画で一葉さんの剣さばきをご覧になった方も多いと思いますが、一葉さんの特技は剣だけではなく、周囲の状況から直ちに異常を察知する能力を有していることが確認されており、その結果数々の特殊な物品がダンジョン内で発見されています」
ここで、記者会見場がどよめいた。ダンジョン内で物品の発見についての正式な発表はこれまで一切なかったからである。そのせいか一葉の異常察知能力はかすんでしまったようだ。
どよめきの中、記者会見場の扉が開き、白い手袋をして、両手で木の棒を捧げ持った制服自衛官が入室した。
「これは、ダンジョン内で発見された特殊物品の一つ、大型の杖になります。
名称は、今のところありません」
「これまで、公表した動画では、この杖を『使用』した部分はカットいたしましたが、本日、皆さまに公開いたします」
司会者のその言葉で、花崗岩の塊が台車に乗って報道陣の前に運び込まれた。同時に一郎が席から立ち上がり、会見用テーブルの前に回って杖を受け取り、それから会見室の壁に向かって数メートル下がった。
花崗岩の塊と一郎の距離は10メートルほど。部屋の中なので、それなりに距離があるように見える。
「これより、斎藤一郎さんが、杖を使い的となる花崗岩の塊を破壊します」
司会者が、そう言って、花崗岩の乗る台車から少し距離を置いたところで、一郎が杖をかざし、無言でファイヤーアローを花崗岩に放った。
一郎の持った杖の先から白い光の条が花崗岩に向けて放たれ、バシッ! という音と一緒に破片が飛び散り、花崗岩そのものは砕けて崩れてしまった。
花崗岩の破片は報道陣まで飛んでいったのだが、記者会見場は静まり返っていた。
そのうち、フラッシュがたかれ、会場は騒然とし始めた。ついに魔法らしきものが公式に発表されたからである。
今回の場合、杖が魔法の主体と受け取られるような演出だったことと、司会者が詳しい説明を行なっていないため、一郎が魔法の主体であるとは思われなかったようだ。
すぐに花崗岩の残骸は片付けられ、一郎は、杖を運んできた自衛官に返して席に戻った。一郎から杖を受け取った自衛官はそのまま退室していった。
「このほかにも多数の特殊物品がグリーンリーフによって発見されていますが、多くはその用途が不明であるため現在調査を行なっている状況です」
本来ならここで、鈴木茜がなにがしかのパフォーマンスを披露するべきなのだが、何せ、記者会見場で祈りを発動させるわけにもいかないため、司会者は茜のことをワザとスルーしている。
実際は、記者会見場に入る前に茜は自分たち3人に対して心が落ち着くよう祈っている。その効果で、グリーンリーフの3人は大勢の報道関係者を前にしても落ち着いていられる。
「それでは、みなさんからの質問を受け付けますので、どうぞ。
それでは、そちらの方」
多くの報道関係者たちが手を挙げる中で、一人の記者らしき女性が指名された。
「TK新聞の茂地月です」
「どうぞ」。司会者は何も考えずに指名してしまって、少し後悔したのだが、TK新聞の茂地月に質問を許した。
「グリーンリーフのリーダーの田原さんにおうかがいします。
〇×教会と政府与党との関係についていかがお考えでしょうか?」
この質問に記者会見場に詰めかけていたそのほかのメディアの者たちから、
「やっぱり出たよー」「もう勘弁してくれよー」「記者会見の邪魔するなよー」などと不満の声が上がり、そのあと一斉に、「出ていけ!」コールが上がってしまった。
司会者は苦笑しながら、
「ダンジョンやグリーンリーフの活動に、あまり関係のない質問はお控えください」と、やんわりTK新聞の名物記者をたしなめた。
「それでは、次の方」
……。
最初の質問こそ司会者の悪い予感通りズレたものだったが、それ以降の質問はいたって普通の質問だったため、質問されたグリーンリーフの3人がそれぞれ答えた。3人では答えられないような質問に対しては司会者が答えることもあれば、はぐらかすこともあったが、おおむね良好に記者による質疑応答が進んでいった。
最後に司会者から今後のダンジョンの一般開放に向けてのスケジュールが発表され記者会見は終了した。
こうして、政府により、個人による魔法の存在をぼかしたうえで魔道具の存在が正式に発表されたことにより、ダンジョンに対する国民の関心がさらに高まると同時にグリーンリーフの3人の人気もますます高まった。
日本国内での魔法・魔道具への反応はある意味予想通りだったが、記者会見の模様はネット配信されており、海外にも同じような反応を呼び起こした。




