第213話 年末3
やむなく裏技を発動してしまった。
裏技発動時、華ちゃん、キリアはもちろん気付いたが、はるかさんもカーペットが一瞬だけ消えたことに気づいたようだ。だからと言って誰も何も言わなかった。これで共犯成立だな。
店側に何の被害もないわけだから、問題ないと思うが、これがソフトの場合なら完全に違法コピーだ。コピーを商品として売り出してしまえば、俺のコピーも完全にアウトだろうが、自家消費する分には問題なかろう。今後法律で俺のコピーが明確に禁止されたとしても、法律が施行される以前の行為は法に問えないというのがわが国というか、法治国家の原則なので、大手を振って大セーフなのだ。
さーて、カーペットも手に入れたことだし、次は奥の方に置いてあるというコタツだ。
コタツ売り場に行くと8人座れるコタツは、8人から10人用の長四角のコタツだけが一種類置いてあった。もちろんこの大きさのものは持ち歩けないので、裏技を発動した。
その後、このコタツ用のコタツ布団と布団カバー、それにコタツ用敷き布団はコピーではなくちゃんと購入することにして、俺がビニール袋に入ったコタツ布団と布団カバー。華ちゃんがコタツ用敷き布団をそれぞれ持ってレジまでいって精算した。
「よーし、これで正月はバッチリだ。
次はお待ちかねの本屋だな」
人のほとんどいないホームセンターの階段に回って、俺たちは隣街の本屋の近くの横道に跳んだ。
「ほんに、転移は便利よのう(注1)」
毎回、アキナちゃんがそう言うが、実生活においてこれほど便利なスキルはないんじゃないか? 錬金工房は便利を通り越しているので比較の対象外だ。
本屋に入ったところで、
華ちゃんとはるかさんに、リサに頼まれていた料理の本を買ってきてくれるように頼んだ。はるかさんはこの本屋が初めてなので、華ちゃんに連れられる形で料理のコーナーと思われる店の奥の方に歩いていった。
残った俺たちは、もちろんコミックコーナーに直行だ。
店の中を移動していたら、アキナちゃんが、
「すごいのう。この世界はあらゆるものが満ち溢れておる。
街はゴミ一つ落ちておらぬし、馬もおらぬのに車が走り回っておる。
エヴァなどから話には聞いておったが、まさに奇跡の世界じゃ」
「アキナちゃん、いずれアキナちゃんの世界も、この世界のように発展していくんじゃないか?」
「そうじゃろか? いや、わらわが弱気ではいかん。わらわはそうなるように世界を導いていかなくてはならんかった。心していかねばならぬ」
「気負う必要はないから、おいおいやっていけば少しずつ良くなっていくよ」
「そうじゃな。
ところで、わらわの読みたいコミックはここの本屋にそろっておるじゃろか?」
「ハハハ」
「ゼンちゃん、わらわは何かおかしなことを言ったかや?」
「急に話が変わったからつい笑ってしまった。
店の人に聞けば、揃っているかどうかすぐわかるから、俺に何が欲しいのか言ってくれれば店の人に聞いてやるよ」
「いや、ここは日本語の勉強のつもりで、わらわが店員に聞いてみる」
前向きだな。アキナちゃんがどういったコミックを読みたがっているのか興味がある。
コミックコーナーでは棚だけでなく、台の上に平積みになってコミックが山のように置いてある。そのコミックの表紙を子どもたちは一々確認していく。
「うん? このコミックはさっきの本屋にもあったが全然揃っておらんかった。この店で全巻揃ったとしても、わらわのお小遣いでは全巻揃えられそうもないの」
エヴァたちもアキナちゃんが大きな声を出すものだから、そのコミックに注目した。もちろん俺もだ。
見れば、国民的超有名コミックだ。今棚に並べてあるコミックは途中が何冊か虫食いになっていたが、0巻から45巻まで、全巻で46冊あるようだ。
1冊500円のようなので、46冊だと全部そろえるには2万3千円かかる。アキナちゃんがお小遣いをまだ使っていなければ1万円持っているはずだが、それでは20冊しか買えない。俺が出してやってもいいが、一つ提案してみることにした。
「他にこのコミックを読みたい人がいたら、お金を出し合って買えばいいんじゃないか?」
「おっ! その手があったか。
みなのもの、このコミックをわらわと一緒に買おうというものはおらんか?」
「アキナちゃん、わたしも一緒に読みたいからお金をだすよ」「「わたしも」」
結局4人全員アキナちゃんの提案に乗ることにしたようだ。しかし、みなのものとはな。子どもたち4人は知らぬ間にアキナちゃんの子分になっていたようだ。
「みんな、すまぬな。
それでは店員を呼んで、全部そろっているか確認じゃ。
そこの店員さーん!」
「はい」
近くで本棚の整理をしていた店員にアキナちゃんが日本語で呼び止めた。
「このコミックは全巻揃ってますか?」
「揃ってますよ」
「お願いします」
「お持ちしますので、少々お待ちください」
店員さんが倉庫だか事務所の方にかけていった。
のじゃロリだと思っていたアキナちゃんだが、郷に入っては郷に従ってちゃんと子どもらしい日本語を使っていたのには驚いてしまった。
3分ほどで先ほども店員さんが段ボール箱を抱えて戻ってきた。
「そこのレジの裏に置いておきますので、お買い上げの際、レジの者にひとこと言ってください」そう言って店員さんは棚の整理を再開した。
アキナちゃんは目じりを下げてニマニマしている。こうやって嬉しさを正直に表現できることは、才能だよな。
「さっきのコミックは俺も読みたくなったから、俺もお金を出してやる」
「さすがは、わらわの見込んだゼンちゃんじゃ。ゼンちゃんの気持ちはありがたく受け取っておくのじゃ。
ゼンちゃんがお金を出してくれるというから、みなのもの、どんどん面白そうなコミックを買わねばならぬぞ」
そういった意味ではなかったのだが、仕方がない。
横を見たら、料理本を手にした華ちゃんとはるかさんがいつの間にか合流していて、笑いを堪えて妙な顔をしていた。
それから数度店員さんがアキナちゃんに呼ばれ、コミックの詰まった段ボール箱がレジの裏に運ばれていった。
その中には俺の選んだ大人向けのコミックも入っている。宇宙SFもの全15巻、原作小説は知っていたのだが、コミックになっていたとは知らなかった。地球よりも大きな宇宙船の艦長になった主人公が、何のかんので地球の危機を救い、宇宙の危機を救う話だ(注2)。さらに異世界ファンタジーもの全30巻。これも原作者は宇宙SF ものの原作者と同じだ。内容は異世界に召喚された主人公の高校生が、偶然手に入れた最強の相棒と、たった一つのスキルでなり上がっていき、その世界を少しずつ良くしていく話だ(注3)。
注1:
塙保己一『ほんに、目明きは不便よのう』を思い出したもので。現在の400字詰めの原稿用紙は、彼の著した群書類従のフォーマットから来ているそうです。これはさっき知りました。
注2:
『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』
https://ncode.syosetu.com/n6166fw/ よろしくお願いします。
注3:
ここでは宣伝できないので、よかったら探してください。




