第208話 グリーンリーフ3
グリーンリーフの面々は第3階層への階段を探すべく自衛隊員たちを引き連れて第2階層へ下りた先の空洞から伸びる2つの洞窟のうち左側の洞窟を進んでいった。
5分ほど進んだところで奥の方から何かが接近することを察した一葉が、皆に警告した。
「前方から何かくる!」
自衛隊員たちを含め、全員が各々の武器を構える中、前方から足音が聞こえ始め、そしてその姿がはっきり見えてきた。
「大ネズミだわ。数が多い、
一郎くん、近づいてくる前に一匹でも多く斃して」
「ファイヤーボール!」
慌てた一郎はファイヤーボールを大ネズミの群れに撃ち込んだ。
ドッジボール大の朱色の火の玉が迫りくる大ネズミの群れの真ん中あたりで爆発した。
爆風で、3人は尻もちをつき、自衛隊員たちも体勢を崩したが、ケガをした者はいなかったようだ。
大ネズミの群れの方はあらかた吹き飛んでしまい周囲に肉片をばらまいたが、先頭を走っていた2匹だけは無傷で一葉たちに向けて突っ込んできた。爆発のショックで逃げる方向を誤った可能性もあるが、一葉たちにとっては同じことなので、まず一葉が例の剣で先頭の大ネズミを両断し、残った一匹を一郎がファイヤーアローで頭を撃ち抜いた。頭を撃ち抜かれた大ネズミの頭部は吹き飛んでどこかにいってしまった。
「ごめん、とっさにファイヤーボールを撃ってしまった」
「大丈夫よ。だけど、爆発系は洞窟の中では使わない方がいいみたいね。
でも、ピンチの時は気にせず使って」と、一葉。
ちゃんとフォローもできるようだ。
「了解」
「今の一郎くんのファイヤーボール、すごかったね!
練習の時より威力が増してたんじゃない?」と、茜が一郎に聞いた。
「意識したわけじゃないけど、そうかもしれない。
おそらく、茜さんの『願い』の影響がここにも出てたのかもしれない」
「そういえば、わたしも剣を振っててそんな気がしてた」と、一葉も一郎の言葉を肯定した。
「えっ! そうなの? それなら、わたしの願いが少しでも役立ってよかった」
「まさに、一人はみんなのために! だよね!」と、一郎。
「それってどこかで聞いたことあるけど、どこでだったっけ?」と、茜が一郎に尋ねた。
「三銃士のドラマか映画だよ」
「そうだった。思い出した!
一人はみんなのために、みんなは一人のために!
これって、わたしたちのモットーにしない?」
「いいわね。そうしましょ。
一人はみんなのために、みんなは一人のために!」
「「一人はみんなのために、みんなは一人のために! おう!」」
3人のその姿を後方から撮影していた2人は、この場面をどう編集するか考えていたが、このままでいいかと結論付けた。
盛り上がった3人は、ファイヤーボールの爆心地を通過して先に進んでいった。
臓物のないダンジョン生物なので、血の臭いはするけれど、それだけなのでそれほどひどいことになってはいない。それでも、血と肉片は飛び散っているため、それなりの惨状ではある。
「なんだか、すごいことになっちゃったね」と茜。
他の二人も同じ気持ちだったが、口には出さなかった。
そこから先には枝道が何本かあったが、枝道は本道と比べ若干細くなっているし、レンジャーの一葉にはそのあたりを容易に区別できるため、枝道に迷い込むことなく彼らは進んでいった。
20分ほど前進して洞窟が広がった空洞を発見した。空洞の真ん中には予想通り下り階段があった。
「茜さんの勘が的中したね」
「よかったー」
「ほんと、順調だよね」
「でも、気を引き締めていきましょう」
リーダーとなった一葉は、ちゃんとリーダーの役割を果たしているようで、一郎、茜ともども一葉のことを信頼し始めていた。
階段を下り切った先も空洞が広がっており、その先には洞窟が数本延びていた。
モンスターの気配はなかったが、すぐに一葉が壁に違和感を覚えた。
「そこの壁に何かあるわ」
「ディテクトトラップ、ノック!」
予想通り壁が崩れ、空洞が現れた。空洞の中には、一本の木製に見える棒があった。
「棒?
鑑定!
杖だった」
「大きさは僕の杖と同じだ。重さは少し軽いか同じくらい」
「一郎くん、ただの木の棒がこんなところに隠されているわけないから、きっとその棒は魔法の杖だよ」と、茜。
「一郎くん、わたしもそう思うから、それを使ってみた方がいいわよ」
「使ってみるといっても、これでモンスターを叩いたり突いたりするのかな?」
「魔法の杖なんだから、その杖を持って魔法をかけるんじゃない?」
茜の指摘はもっともである。
「それじゃあ、試しに、
ファイヤーアロー!」
一郎は杖の先から発現するようにファイヤーアローを壁に向かって唱えたところ、希望通り杖の先から白い光の条が壁に向かって飛び出して、
バシッ! と音を立てて壁に命中した。
ファイヤーアローが命中した壁は表面が弾け、その先の壁は30センチほど熱で赤くなっていた。
「とんでもない威力のファイアーアローが撃てた」
「魔法の杖だったようね」
杖の大きさがそれなりに大きかったので、一葉の剣のように腰に括り付けることができなかったため、一郎は支給されていた杖を左手に持ち、新たな魔法の杖を右手に持っていくことにした。
「予想通り、新しい階層の入り口にアイテムがあったね」
「ちゃんと、このことは報告しないとね」
「そう言えば、ここって、洞窟型のダンジョンじゃない。南のダンジョンは石室や石造りの通路だったでしょ? ここも下に下りていったら石造りのダンジョンになるのかな?」
「その可能性はあるんでしょうけど、ずいぶん下まで潜らないといけないようなら、そこまで行って帰ってくるだけで大変よね。
岩永さんみたいに転移できればいいよね」
「そうだよね。岩永さん、今何してるのかな。僕たちなんかよりよほど凄い冒険者なんだから、こっちのダンジョンを攻略すればいいのに」
「だって、岩永さんは南のダンジョンを神殿からもらったそうよ」と、茜。
「その話聞いてなかった」
もちろん一葉もその話は知らない。
「正確じゃないけど、なんでも神殿にとってとっても大切な人を助けたお礼に神殿が岩永さんにあのダンジョンをあげたんだって」
「そうなんだ。自分のダンジョンを持つってすごいことだけど、それなら、そっちの探索を優先するわよね」
そういった世間話をしながらも3人は周囲を警戒しつつ探索を続け、予定の午後3時、無事ピラミッドから代々木公園に帰還し、そのまま、待機していた自衛隊の車両に乗り込み、宿舎としている市ヶ谷の防衛省内にある宿泊施設に帰っていった。
こうして1回目の一般人によるダンジョン探索が大成功に終わった。防衛省ではダンジョン内で撮影した映像を徹夜で編集し、翌日には一般公開した。これ以降、一般人へのダンジョン開放が加速していくことになる。
今回発見された剣と杖は、一度理化学研究所に送られ分析されたが、剣については鋼鉄製の剣であることだけが判明し、杖については、種別不明の木製の杖であることだけが判明しただけで、何もわからないまま防衛省に戻ってきた。
その後、剣は田原一葉専用、杖は斎藤一郎専用として防衛省から二人に預けられた。
その後、善次郎たちがオブザーバーとして参加した第2ピラミッド=ダンジョンを除く30個のダンジョンについて、グリーンリーフの進言に沿う形で、順にグリーンリーフの3名が派遣され、出入り口の空洞と、第2階層の下りた先の空洞が調査され、いずれの空洞からもアイテムが発見された。彼らの移動には陸上自衛隊のヘリコプターが使用されている。




