第201話 撃破。
拉致召喚された3人を日本に送り返して、屋敷の居間に現れたら、居間には全員揃っていた。
「3人はどうでした?」と、華ちゃんの問いに、
「防衛医大病院で検査してから各自の家に帰すそうだ」
「良かったですね」
「まあな。
そっちは一応片付いたんだが、アイツに神殿が襲われていた」
「わらわの神殿がアヤツに襲われた?」
「倒壊まではしていなかったが、建物が壊されてケガ人もだいぶ出ていたからポーションを置いてきた」
「ゼンちゃんありがとう。
神殿が心配じゃから、ゼンちゃん、わらわを神殿まで送ってくれんかのう。
今日は魔神の眷属と戦うつもりじゃったが、済まん」
「心配なのは当然だから、気にすることはない。
それじゃあ、アキナちゃんを神殿に送ってくる。
アキナちゃん、俺の手を取ってくれ」
アキナちゃんが俺の手を取ったところで、神殿の大ホールに転移した。
「爺、わらわじゃ」
「おお、御子さま。
申し訳ありません。魔神の眷属にやられました。
幸い神殿の者はゼンジロウ殿からいただいたポーションで全員回復しており、動けるものは瓦礫の片付けなどをしています。明日からでも修復工事を始められます」
「大事がなくてよかった。
それなら、魔神の眷属退治にわらわも付いていけるの。
ゼンちゃん、安心できたから、わらわも魔神の眷属退治に向かうぞ」
「了解、それじゃあ俺の手を取ってくれ、屋敷に戻る」
「爺、そういうことじゃから、後はよろしくな。
それと、弁当は好評じゃったぞ」
アキナちゃんが言い終わったところで俺たちは屋敷の居間に戻った。
「神殿の負傷者はみんな回復したそうだ。それでアキナちゃんもバケモノ退治に同行できることになった」
「アキナちゃん、よかったね」
「ゼンちゃんのおかげじゃ」
「それで、さっき言いかけたことなんだが、
昨日、あのバケモノの部屋に王水を作ってぶちまけてやったんだが、効果があったようだ」
「王水とは?」と、華ちゃん。
「金も溶かすという酸だ」
「あいかわらず何でもアリですね」
「そのおかげだと思うが、ヤツの着ていたものから骨にこびりついていた乾燥肉、果ては骨の一部まで溶け落ちて、すっきりしてたそうだ。
物理と魔法には強かったが、化学には弱かったようだな」
「バケモノは神殿を襲った後どこにいったか、分かっているんですか?」
「いや。行方は全く分からないそうだ。
しかし、昨日俺たちがあの部屋に踏み込んだら、あいつが突然現れただろ?」
「はい」
「おそらくアイツはあの部屋を守ってた番人なんだ。
誰かがあの部屋に踏み込んできたら、部屋を守るためアイツは必ず現れるんじゃないか」
「ありえますね」
「ということで、今日もあの部屋にいってみよう。
作戦は昨日の通りだ」
「はい。それじゃあ着替えてきます」
「わたしも」「わらわもじゃ」
俺も華ちゃんたちに続いて2階の自室に戻って戦闘服に着替え、居間に戻ってみんなが揃うのを待った。
「今回はピョンちゃんを連れていかないので、ここから直接あの部屋に下りる手前の階段上に転移する。階段の上だからこけないように気を付けてくれよ」
「「はい」」「案ずるな」
3人が俺の手を取ったことを確認して、俺は南のダンジョン、リッチの部屋への階段の出口の数段上に転移した。
「おっとっとっと」。階段でバランスを崩したアキナちゃんを受け止めてちゃんと立たせ、
「大丈夫」と言って、落ち着かせた。
「ゼンちゃん、済まない」
階段上でライトを唱えた華ちゃんは、続いて目の前の石室に向かってデテクトアノマリー、デテクトライフを唱えたが、昨日同様何も異常はなかった。
俺が降らせた王水は相当の量だったので、半日程度で乾燥するとは思えないのだが、石室は乾いていて変な臭いもしなかった。王水がまだ残っていたら、収納しなくてはならなかったし、変なガスが残っていたらそれも何とかする必要があったが、ヤツがきれいに掃除してくれたらしい。意外とマメなヤツだ。
「作戦をもう一度説明するからよく聞いてくれ。
俺とキリアが石室に入っていき、ヤツが現れるのを待つ。
ヤツが現れたら、華ちゃんはここに立ったまま、ヤツにファイヤーアローを連続で放つ。
俺とキリアはそれに合わせてヤツに如意棒とフレイムタンを叩きこむ。
思惑が外れたとしてもキリアのフレイムタンはヤツに通用するはずだからある程度のダメージは入るだろう。あいつが何かを仕掛けるには最短でも1秒の間が空く。その1秒で片を付ける。
これでうまくいくはずだが、ダメなら撤退する。アキナちゃんは華ちゃんの空いた手を持っててくれ。そしたら二人一緒に転送できるから。転送先は前回同様屋敷の居間だ」
「「はい」」
「了解じゃ。
その前に、3人にはわらわの祝福を授けておこう」
アキナちゃんがそう口にしたとたん、俺たち3人の体が薄く山吹色のオーラに包まれた。そのとたん体が少し温かく、そして少し軽くなったような感じがした。
「それじゃあ、準備はいいな?」
「ちょっと待ってください。
その前に、ヘイスト、ヘイスト、ヘイスト、ヘイスト」
華ちゃんがヘイストなる魔法を全員にかけたようだ。
「これで、少し速く動けます」
「サンキュー。
いくぞ、キリア」
「はい」
如意棒を構えた俺とフレイムタンと丸盾を構えたキリアが左右二手に分かれて昨日男が立っていた場所に向かっていった。
俺とキリアが、男が立っていた場所を各々得物の間合いに入れたところで、一瞬目の前が揺らいだと思ったらスケルトンが立っていて、何かしゃべろうとしたのか口を開けかけた。
「そこだー!」
俺の叫びが終わる前に、階段から華ちゃんのファイアーアローが無数に放たれ、俺は如意棒を、キリアはフレイムタンを全力でスケルトンに叩き込んだ。
バリーーン。
俺の一撃の方がキリアより一瞬早くスケルトンを捉え、スケルトンは言葉を発する前に頭蓋骨から胸にかけて粉々に砕けてしまった。そして華ちゃんの放っていたファイアーアローもスケルトンの四肢に次々命中してスケルトンはバラバラに吹き飛んでしまった。
「意外とあっけなかったな」
「ご主人さま、本当に斃したんでしょうか?」
「斃したと思う。その証拠にキリアの革鎧は真っ黒だ」
「わっ! ほんとだ」
俺と華ちゃんの革鎧は黒光りし始めている。如意棒も見た目は漆黒だ。華ちゃんのメイスも漆黒だ。
華ちゃんとアキナちゃんが階段から俺とキリアの立っている場所にやってきた。華ちゃんは俺とキリアを先にデスペルマジックで緑の発光を止め最後に自分にデスペルマジックをかけた後再度ライトをともした。
「うまくいきましたね」
「さすがはゼンちゃんじゃ。
わらわの祝福も少しは役だったのかも知れんがの。
これでわらわと神殿の借りも返せた。ザマァみろ! なのじゃ」
「アキナちゃん、せっかく気持ちよくしてるところ申し訳ないんだが、俺の経験から言って、こいつは門番で、俺たちをこの先に進ませないためにここにいたと思うんだ」
「そうかもしれんの」
「じゃあ、この先に何があるか? 言い方を変えよう。この先に何がいるか?
アイツが魔神の眷属と名乗っていた以上、魔神がどこかにいるんじゃないか? 魔神がいる可能性が高いのはこの先だと思うんだが、どうだ?」
「うーん。確かにな。
じゃが、この部屋にはアヤツの粉々になったカケラ以外何もないぞ」
「そこが問題なんだがな。
何か隠されているはずなんだが、華ちゃんのデテクトアノマリーでも反応がなかったし」
俺は手にした如意棒を持って、みんなが見守る中、根気よく部屋中、床や壁をコツコツと叩いていった。
部屋の広さは10メートル四方。広いと言えば広いがそれほど広いわけではない。




