第200話 襲撃と送還
とうとう200話。
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朝食を終え、子どもたちは配達に出かけた。昨夜アキナちゃんは、結局俺が用意した部屋では寝ず、子どもたちの部屋で寝たらしい。そして、先ほど子どもたちの配達に付いていってしまった。
俺は日本用の服を着て、神殿に拉致召喚された3人を引き取るため神殿に跳んだ。
本人たちの意向は聞いていないので、全員帰りたくないと言うようならそれまでだが、そうなったらそうなったでダンジョン攻略の必要の無くなった神殿の負担になるだろうし、俺も防衛省に3人を届けると言った手前、有無を言わせず引き取ってやれ。
俺が跳んだ先は、アキナちゃんの寝ていた例の部屋なのだが、やはり誰もいなかった。
部屋を出て、地上階に出ようとすぐ先の階段に向かったのだが、廊下に瓦礫が転がって、その先の階段は崩れた石組などで埋まっていた。
もしや、あの男が昨夜神殿を襲ったのか? やはり、それしか考えられないよな。アキナちゃんをうちで預かってて正解だった。
俺は階段の瓦礫を全部収納して急いで階段を上った。
上った先は廊下なのだが、明り取りの小窓が上の方についているだけで、ちゃんとした窓は付いていない。その廊下はいたるところが破壊されて、瓦礫が散乱していた。人の声も聞こえてきた。壊れた廊下の壁の隙間から声のする方を見ると、そこは中庭になっているようだ。
状況を確認しようと思い、廊下を適当に片付けながら中庭への出口を探して歩いていたら、廊下の中庭側の壁が完全に破壊されたところあったので、そこから中庭に出ることができた。
中庭では、芝生の上に20人ほどの男女が横たわっていて、数名の女性がその人たちの世話をしていた。横たわった者たちの衣服は血だらけで、おそらく布で傷口を押さえているのだろうが、その布も血だらけだ。既に亡くなっているのか全く動いていない者もいた。
見るに見かねた俺は、
「ポーションを持ってきたぞー」と、立ち働く女性に声をかけた。
その声で、亡くなってしまったのかと思っていた者が動いたのでじっとしていただけだったようだ。
すぐに負傷者の世話をしていた女性が数名駆け寄ってきた。
俺はヒールポーションを100本入れた段ボール箱をその場で作り、
「ケガがひどいようなら、2本でも3本でも治るまで飲ましてやってくれ。これだけあれば足りるだろう」
その女性は部外者のはずの俺に何も言うことはなく、
「ありがとうございます。
これでみんな助けることができます」と、頭を下げ礼を言った。
負傷者の元に帰ろうとした一人を呼び止め、
「大神官がどこにいるか教えてくれますか?」
「大ホールで負傷者を看ていると思います」
「どうやっていけばいい?」
「そこの出入り口を抜けて左手に回り、突き当りを右に折れれば大ホールです」
「ありがとう」
俺は言われた通り通路を回って大ホールに出た。ホールの中央には彫刻を施した太い石の柱が2列に並んでおり、見上げると天井には雄大な風景の天井画が描かれていた。相当金のかかったホールと見た。壁には壁画が描かれたいたが、ところどころ大きく崩れ、石作りの床には瓦礫の山がいくつもでき上っていた。
大ホールの2列に並んだ石柱の列の間に数十人の負傷者が寝かされていた。その負傷者の中を10人ほどの男女が立ち働いており、その中に法衣を脱いだ大神官がいた。
「こっちもひどいな。
おーい! 大神官さん、善次郎です。
ヒールポーションがあるから使ってください」
こっちは、人数が多かったのでヒールポーションを100本入れた段ボール箱を二箱作り、その場に置いた。すぐに負傷者を見ていた男女が数人駆け寄って礼を言って段ボール箱を負傷者の近くまで運んでいった。
大神官も俺のところまでやってきて、
「ゼンジロウ殿、かたじけない。
御子さまはご無事ですか?」
「もちろんです。
やはり魔神の眷属とかいうバケモノに襲われたんですか?」
「明け方、わたしの寝所にいきなり現れました。前回現れた魔神の眷属はローブを着てフードから覗く顔は干からびた死体のように見えましたが、今回現れたのは半分溶けたようなスケルトンでした」
「おそらくそいつは俺の作った王水を浴びて着ているものと肉が溶け落ちた魔神の眷属だと思う」
「なんと!」
こっちも痛い目に遭ったが、一矢報いることはできたようだ。
「やっぱり鳳凰の羽根が目当てだったようですか?」
「はい。わたしに向かって鳳凰の羽根をよこせと。
そんなものはない。と、言ったところ、では、なぜ御子が石から蘇ったのだ? と、聞かれ、
それこそ御子のお力。と、答えたところ、
2年以内に鳳凰の羽根をさがせ!
そう言って、彼奴は神殿の破壊を始めました。
われわれでは彼奴を止めることはできず、この有様です」
「ヤツがどこにいったか分かりますか?」
「分かりません」
だろうな。
「勇者たち3人は?」
「何事もなく3人とも無事です。支度は済ませているはずですから、人をやってここに連れてきましょう」
大神官が近くの者を呼んで、勇者たち3人をここに呼んでくるように言った。
他の者たちは手分けして俺の提供したポーションを配っている。
魔神の眷属があのダンジョンからここまでどうやってきたのか分からないが、明け方近くに襲撃したところを見ると、俺の王水攻撃からある程度回復を待ってから行動し始めたと考えていいだろう。
あの石室の先に何か隠されていてヤツが番人代わりに守っているのかもしれない。というか、それこそ、それが中ボス本来の業務だ。ヤツの本拠地がどこなのかは不明だが、俺たちがあの石室に現れ、王水攻撃ではないと分かれば、ヤツは昨日と同じように現れると考えていいだろう。
昨日は華ちゃんのデテクトアノマリーで異常が見つからなかったが、あの部屋に何か隠されている可能性が高い。すべてはヤツを撃破してからだ。
5分ほどして、神殿の者に連れられ高校生姿の3人が現れた。ちゃんと拉致された時の服を持っていたようだ。
新しく拉致召喚された二人のうち一人は男子で、もう一人は女子。見た感じ普通の男子、女子高校生だ。勇者は持っていなかったが二人はそれぞれ学生カバンを持っていた。
「俺が、岩永だ。
話は聞いているだろうから省略して、これから日本に君たちを連れ帰る。行き先は事情があって防衛省だ。
そこで、君たちの面倒を見てもらう。
それじゃあ、さっそくだが、一緒に転移して跳ぶから、俺の手を取ってくれるか」
「ここは、いったいどうしたんですか?」と、男子高校生が聞いてきた。
「バケモノに襲われたんだが、もう日本に帰るんだからあまり気にしない方がいい」
「は、はい」
「それじゃあ、手を取ってくれ」
3人が俺の手を取ったことを確認し、俺は防衛省の例の会議室に跳んだ。
約束の8時には5分ほど遅れたのだが、会議室にはいつもの4人と、防衛医大病院でポーションの臨床試験を行った一人、医官の牧野一尉がいた。
「遅れてすみません。3人を連れてきました」
「岩永さん、ご苦労さまです。
さっそく3人には健康状態のチェックのため防衛医大病院に一日か二日入院してもらい、異常がないようなら、少しお話を伺った後、みなさんのご家庭にお帰しします」と、川村室長。
「3人とも安心してください。
検査で異常が見つかったとしても、岩永さんから提供していただいたポーションがありますからほぼ間違いなく、それも短時間で完治します」と、牧野一尉が3人を安心させた。
「それじゃあ、3人のことはよろしくお願いします」
「もう帰られますか?」
「少し立て込んでいまして」
「それはそれは。
3人のことはお任せください」
俺は頷いて、3人を残して屋敷に戻った。




