第198話 反撃1、いやがらせ
キリアのフレイムタンが振り下ろされたところで、俺は気絶してしまったのだが、気が付けば足の激痛は一切なくなって、足に感覚が戻っていた。
床に寝たままなので見えてはいないが俺の足は繋がったようだ。両断されたわけだから生えてきたというのが正解だろう。その証拠に、顔を横に向けたら床の上にミディアム肉がくっついた白い石の足が二つ並べて置いてあった。ちょっとというより相当グロなのだがゴミ箱に捨てるわけにもいかないので、記念にアイテムボックスに収納しておいた。
屋敷にいたほかの連中も全員居間に集まって俺の周りを囲んでいた。
「キリア、ありがとう」
「ご主人さまーー」。キリアが泣き出してしまった。
半身を起こして周りを見ると、床には俺の足を切り飛ばした時にできたフレイムタンによる焦げた切れ目が入っていた。修理せずに記念に取っておいても良さそうだ。フレイムタンのおかげか血の量はそれほど流れていなかったようで、床の上に流れたであろう俺の血を拭いた跡はそれほど広くはなかった。
はるかさんは、あうあうしてるだけで言葉が出ないようだ。そりゃあ目の前で両足が両断されて、切口から足が生えてきたんだものビックリするよな。
「アキナちゃん、華ちゃんありがとう」
「さすがはわらわの見込んだ男じゃ」
「岩永さん、よかったー」。華ちゃんの顔がなぜか少し赤くなっていた。あれ? アキナちゃんにポーション瓶を渡したはずだが華ちゃんがポーション瓶を手にしていた。アキナちゃんだと寝ている俺にポーションを飲ませるのは難しいだろうから、華ちゃんが代わって飲ませてくれたんだろうな。
ティッシュ男が一撃死するような攻撃ではなく石化の呪いを最後に発動してくれたおかげで俺は死なずに済んだし、キリアとヒールポーションのおかげで石にもならずに済んだ。まさに九死に一生。本当にラッキーだった。ヤツは自分が絶対強者だと思って、俺を一思いに殺さず、なぶり殺しにしようとしたのだろう。ザマーみろ!
次回アイツに遭ったらまた石化攻撃を受ける可能性があるから、エリクシールは最低でも人数分は必要だ。さっきの痛みを考えたらエリクシールを錬成した時の脱力感など大したことはない。ハズ。
あの男がまだあの部屋にいるかどうかははっきり分からないが、とりあえず、嫌がらせをしてやろうじゃないか。効果があればめっけものだ。
俺は錬金工房内で、できるだけ濃い塩酸と濃い硝酸を混ぜ合わせたものを大量に作った。正解は3:1の体積比だったはずだが、うろ覚えなので正確ではない。塩酸の素材は海水だ。海水は熱海の海で大量にアイテムボックスに仕込んでいる。硝酸の素材は空気と水だから全く気疲れすることなく錬金工房で錬成できている。
こいつは魔法でもなく物理でもない。化学の力だ。効かないかもしれないが効くかもしれない。俺たちがあの部屋に足を踏み入れたとたんヤツは現れたわけだから、部屋に異変があれば再び出現するかもしれないと思ったので、さっきの部屋の天井にゆっくり転送してやった。2分ほど大雨を降らせてやった。
居間の床に半身を起こしたままで反撃した俺は『よっこらしょ』と起き上がり、俺の石の足の近くに置いてあった靴下と靴を履き、ズボンのすそを下ろしてソファーに腰を掛けた。痛みで相当額に冷や汗をかいていたはずだが、誰かが拭きとってくれていたようで、すっきりしている。
「みんなも驚いたようだが、俺はこの通り大丈夫だ。心配かけてすまなかった。そして心配してくれてありがとう。
もういい時間だから、今日はここまでだな。
まず、アキナちゃんを神殿に送って、それから、俺は風呂に入って汗を流すから。
それじゃあ、アキナちゃん送っていこう。俺の手を取ってくれ」
「帰りとうはないが、帰らぬわけにもいかぬからの。
じゃが、あの男がまた神殿に現れるやもしれぬのじゃが」
「そういえばそうだった。鳳凰の羽根を取りにいくとか言ってたものな。
アキナちゃんは、ここにいた方がいいな。
部屋は用意できるから大丈夫だ」
「すまんな」
「アキナちゃんはゆっくりしておいてくれ。
着替えた方がいいから服を用意しないとな」
「ご主人さま、アキナちゃんの大きさならわたしの服がぴったりだと思います。部屋からとってきます」と、イオナが手を挙げて居間から駆けだしていった。
すぐにイオナが衣服を抱えて戻ってきたので、
「それじゃあ俺は、神殿にいってあの男が神殿を襲うかもしれないからアキナちゃんをうちに泊めると伝えてくる。そしたら直接風呂に跳んで風呂に入ってしまうから、アキナちゃんはここで着替えておいてくれ」
神殿に跳んでいく前に、夕食の準備で居間から台所に向かうリサに、アキナちゃんの夕食を頼んでおいた。
神殿に跳んだ俺は、巫女さんらしき女性がちょうど近くにいたので、アキナちゃんのバスケットをまず返した。巫女さんは、いきなり現れた見ず知らずの俺に驚いたようだったが、手渡したアキナちゃんのバスケットを見て少し安心したようなので、アキナちゃんのことと、魔神の眷属のことを話し、大神官に伝えてくれと頼んでおいた。巫女さんが頷いてくれたところで、俺は屋敷に戻った。
脱衣場で鎧と一緒に服を脱いで裸になった俺は、湯舟に湯を入れて、その湯を桶で掬って体を軽く洗い、湯舟に体を沈めた。
あらためて新しい足を湯面から出して眺めたが、妙な気持ちがする。新しく生えてきたわけだから真っ白いのかと思ったが、そういう訳でもなく、それなりに日に焼けて新しい足という感じは全くしない。世の中に足の生え際という言葉があるかどうか知らないが、膝の先の足の生え際を探ってみたところ、どこが生え際か分からなかった。
足が完全に元に戻ったことに安心した俺は、お湯に浸かりながら、あの男の攻略方法を考えようと、先ほどのあの男との戦闘を思い返していた。
俺の如意棒の物理攻撃も華ちゃんの魔法攻撃も効かなかったが、キリアのフレイムタンの攻撃だけは有効だった。
そのときヤツはマジックアイテムがどうのと言っていた。
ヤツの言うマジックアイテムとはフレイムタンのことなのは確かだろう。
フレイムタンと俺の如意棒の違いは、もちろんフレイムタンには物を焼くという不思議な力が宿っているが、俺の如意棒にはそんな力は宿っていないところだ。
もしも物を焼く力がキーなら、華ちゃんのファイヤーアローでも十二分に焼く力を持っている。しかし、華ちゃんのファイヤーアローはアイツには全く効かなかった。
何が違う? いったいどこが違うんだ?
俺は湯舟の中で無い知恵を絞っていたのだが何も思いつけなかった。
だいぶ長い間湯に浸かっていたので、俺は体や頭を洗うことなく風呂から上がって、次の風呂の準備をしてから普段着に着替えて居間に戻った。




