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第182話 発見


 扉の向こうの石室は時計回りに進んできたちょうど角にあたる石室で、その石室から右に方向転換するハズの石室だったが、扉を開けて中を覗くと、一辺50メートルほどの正方形の石室だった。広さにすればこれまでの石室の25倍ほどになる。部屋の真ん中に30メートル四方の四角い池が作られていた。壁には今俺が空けた扉の他に扉はなかった。ここもプールとして利用するにはいい場所に思えたが、今はそんなことを考えている場合ではない。



 扉の外からデテクトアノマリーとデテクトライフを華ちゃんが唱えたら、池の向う側の縁が1カ所緑に点滅し始めた。


 華ちゃんとキリアが扉をくぐり、華ちゃんの頭上のライトの明かりで部屋が照らされ、はっきりと内部が見えるようになった。


「池の縁の緑の点滅は人だ!」


 池の向こう側の縁に、人が頭と片手を乗せてうつぶせになっていた。首から下は池の中で半分沈んでいた。


 急いで駆け寄ると、被った革のヘルメットの脇から長めの黒髪が流れていた。片腕は水の中であらぬ方向に曲がっている。


行方不明者ゆうしゃだ。

 緑に点滅しているから死んではいないはずだけれど、念のためアイテムボックスに収納できるかやってみよう。収納できたら良くて心肺停止だ」


 俺は行方不明者ゆうしゃの生死を確かめるためアイテムボックスに収納しようとしたができなかった。


「収納できなかった。ちゃんと生きてる」


 俺の横に立つ華ちゃんから、息を吐きだす音が聞こえた。


 池の中から引き上げようと、勇者の両脇に手を入れ引っ張ったが、姿勢も悪く、水に濡れた衣服と水を吸った鎧のせいか相当重かった。


 そこで華ちゃんが「ストレングス」と声を出したら、勇者が急に軽くなって、簡単に勇者を引き上げることができた。ストレングスか、いい魔法知ってるじゃないか。


 池から引き揚げた勇者を石の床の上に仰向けに寝かせてたら、片足が変な方向に向いていたが、どこも欠損はないようだ。生きてはいるので、ポーションを口に突っ込んだらそのうち息を吹き返すだろう。


 俺はちょっといいヒールポーションを錬金工房で作って、勇者の口を開けて瓶の口を突っ込んでやった。熱海のサウナのおじさんたちはそれだけでポーションが口の中に入っていき、生き返ったが、今回はヒールポーションがほとんど口からこぼれてしまった。


「だめだな。体を起こしてからならポーションが喉に入っていくかもしれない。華ちゃん、俺が勇者の体を起こしておくから、ポーションを口に突っ込んでくれるか」


「その前に、わたしがヒールをかけてみます」


 華ちゃんが右手を勇者に向け『ヒール』と呟いたところで、勇者の体全体がわずかに淡く光ったような気がした。


 勇者の体全体が光ったということは、体全体にダメージを受けていたということなのだろう。自力で池から這い上がろうとして力尽きたのだろうから溺れていたわけではないし、かすかに呼吸はしているようなので、これで何とかなるだろうと思ったが、勇者はピクリとも動かないし、状態は良くなっているようには見えない。


 そのあと、もう一度華ちゃんがヒールをかけたが、勇者の体が光るということもなかった。


「わたしのヒールじゃだめだ。

 岩永さん、わたしが勇者やまださんにポーションを口移しします。

 ポーションを!」


 華ちゃんに言われるままもう一本ポーションを作って手渡した。今度のポーションはかなり効きがいいポーションのハズだ。俺はポーション作成疲れを回復するため華ちゃんにヒールポーションを手渡したあと、スタミナポーションを飲んでむりやり回復しておいた。


 華ちゃんが俺の渡したポーションを一口口に含んで、勇者の上に覆いかぶさって口移しした。華ちゃんの真剣な顔のせいか、想像していたのとはかなり違っていた。


 俺とキリアが見守っているあいだ、華ちゃんは、もう2回繰り返した。それでポーション瓶は空だ。勇者は一瓶丸ごとポーションを飲んだハズだ。


 ヒールポーションの効果がそろそろ出始めるころだと思ったら、曲がっていた手首と、足首が少しずつまっすぐになっていった。それと同時に寝息も聞こえ始めた。顔に血の気も戻ってきた。


「わたしはまだまだですね」と、華ちゃん。


 そうは言っても、華ちゃんがいたからこそ目の前で寝てる勇者は助かったと思うよ。


「華ちゃんも、もっと魔法の修業が必要かもな」と、口では言っておいた。


「はい」



「連れて帰らないといけないが、どこへ連れて帰ればいいかギルドの人に聞いてなかったな。金が欲しくて受けた仕事じゃないから、わざわざ神殿に返す必要もないと思うが。

 その前に、濡れた革鎧を脱がせて、服も着替えさせた方が良くないか? ヒールポーションはいくらでも作れるから風邪は引かないと思うけど、かなり不快だと思うぞ」


「少なくとも、鎧は外しちゃいましょう」


 そう言って華ちゃんは鎧のバックルに手をかけたが、


「水で膨らんで、うまく革ひもが外れません」


「切っちゃおう」


 俺はアイテムボックスからダガーナイフを取り出して、


「華ちゃん、これを使って革ひもを切ってくれるかい」。俺が切ってもいいが、バックルは微妙な場所にもあるので華ちゃんに丸投げすることにした。


「このナイフ、切れそうですね。

 あっ! 簡単に革ひもが切れた。これなら楽」


 華ちゃんが勇者の身に着けていた革鎧の革ひもをどんどん切っていって、革鎧の上下を取り外すことができた、ヘルメットの革ひもは顔にくっついているので、切り取っていない。従ってヘルメットは被ったままだ。見ようによらなくてもかなり変な格好だ。


 俺たちと違って勇者が鎧の下に着ていた衣服はニューワールド仕様なので下着などもニューワールド仕様なのだろう。


 今まで、女子たちのいろんな服をコピーしている関係で、かなりのレパートリーはあるから、着替えを提供するのはやぶさかではないのだが、華ちゃんがヘアドライヤー魔法で勇者を乾かし始めたので、黙っていることにした。


 そろそろ、勇者も意識を回復してもいいころだと思うのだが、まだみたいだ。100メートルもある穴の中を落下中死なずに済んだのは勇者補正の賜物だったのだろうが、ここまで落っこちるあいだ意識があったのなら相当怖い思いをしたのだろう。俺の勝手な想像だが、その辺りの精神的ダメージを脳内で修復中なのかもしれない。




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