第181話 救出劇2
リサに、俺と華ちゃんとキリアの夕食は要らないと告げて、俺は2階の自分の部屋に戻ってダンジョン用の戦闘服に着替えた。
着替え終わった俺は、居間に下りて、華ちゃんとキリアがやってくるのを待っていたら、5分ほどで二人が着替えて居間にやってきた。
二人が俺の手を取ったところで、すぐに南のダンジョンに転移した。行き先はダンジョンの出入り口の石室だ。
すぐに華ちゃんがライトから始まる一連の魔法を唱え、異常のないこととモンスターが潜んでいないことを確認し、俺が石室の扉を開いたところで、華ちゃんが再度デテクトアノマリーとデテクトライフを唱えた。
デテクトライフには俺たち3人だけが反応したままだが、デテクトアノマリーで、通路のそこかしこ、扉は全て赤く点滅していた。
「今は落とし穴は閉じちゃったみたいでどこにも穴は見えないけど、勇者が落っこちたのは、その辺りの床じゃないか。10メートルや20メートルとはとても思えない深さらしいから、偽の第2階層まで落っこちた可能性があるな」
「あそこは部屋だらけの階層だから、どこも見通せないのが厄介ですね」
キリアはこのダンジョンの偽第2階層にいったことはないので俺たちの話をじっと聞いているだけだ。
「そこの床から、まっすぐ下に落ちたとすると、オートマッピングで位置が割り出せるかもしれない。えーとアレはどうやったっけな。最近御無沙汰だったから使い方を忘れてしまったぞ」
「岩永さん、確かマップとか言ってませんでしたっけ?」
「そうだった。『マップ』」
ちゃんと、HUD機能が俺の目に搭載され、視界右下に周囲のマップが小さく表れた。
これで、この辺りの位置をマップが覚えたハズなので、偽第2階層に跳んでそこからここを重ねてみれば、だいたいの位置がつかめるはずだ。
「これから、偽第2階層に跳んで、行方不明者を探そう」
行方不明者が偽第2階層に落っこちていたら、どういった形であれ、見つけることは可能だろう。そうでなければ、かわいそうだがお手上げだ。
二人が俺の手を取ったところで『転移』
俺たちが転移で現れた先は、300階段を下りた先の4面の壁に2つずつ扉が付いている石室だ。
そこでも華ちゃんが念のためデテクトアノマリー、デテクトライフを唱えた。
俺は、視界の右下のミニマップに、さっきまでいた第1階層のマップを重ねたところ、今いる石室から、階段方向に4つ扉の石室15個分進んで、そこから左手に5つ分離れた位置だった。
「場所はだいたい分かった。こっちだ。
行方不明者が移動していなければいいがな」
移動していないということは、俺たちからすれば面倒でなくなるが、動けない理由があるということなので、本人にとっては望ましい状態ではないだろう。
扉を開けるたびに、華ちゃんがデテクトアノマリー、デテクトライフをきっちり唱える。実に堅実だ。
俺たちの進んでいる方向の石室は今まで通ったことのない石室だったが、宝箱もモンスターも現れてくれなかった。もしかしたら、勇者一行がこの辺りをくまなく探索した後なのかもしれない。
何も変化のないままデテクトアノマリー、デテクトライフを繰り返してまっすぐ進み、15個目の石室に入った。そこで左手に方向転換して、4個石室を進んだ。この部屋の扉の先が、目指す石室なのだが、果たして行方不明者はいるか?
「この先が、落とし穴の真下のハズだ」
キリアはいたって普通だが、華ちゃんは緊張しているのか少し顔の表情が硬い。
俺は扉を押し開いた。
「いない。穴が曲がっていて、まっすぐここに落ちてきたんじゃなかったのかな?」
「上の穴も塞がっていたから、天井に孔が空いていたとしても塞がったのかもしれませんが、まっすぐ落ちてきたんなら、助からないんじゃないでしょうか?」
「それもそうだな。こういっちゃかわいそうだが、まっすぐ落ちたなら、この部屋に死体が転がっているか、なにがしかの遺留品が残っているはずだものな。曲がっていたと仮定してこの部屋の周辺をクルクルと回ってしらみつぶしにするほかないな」
「そうですね」
「その前に、休憩して夕食にしよう。ふたりとも手っ取り早いのはハンバーガーと牛丼だけど、地べたで牛丼はちょっと食べにくそうだから、ハンバーガーの方がいいか」
「「はい」」
ブルーシートを床に敷いて、3人で座り込み、2人にリクエストのハンバーガーと飲み物を渡した。俺は簡単にチーズバーガーとコーラにしておいた。
「ご主人さま。ここは、石造りの部屋ばかりでしたが、これから先もずっとこういった部屋が続くんですか?」
「絶対とはいえないが、そうだろうと思っている」
「モンスターに出会っていないのはどうしてだと思います?」と、華ちゃん。
「勇者たちが階段下のあの部屋を中心にしらみつぶしに探索したからじゃないか」
「なるほど」
「俺たちは、この部屋を中心にそれをやろうとしてるわけだから」
「行方不明者が動きまわっていたら、発見できない可能性があると思うんですが」
「斜めに落っこちたとしても、ピンピンして元気に動き回ることはできないんじゃないか? 勇者ってヒールとか使えなかったんだろ?」
「そう思います。でもヒールポーションを持っていたら回復できるんじゃ?」
「ヒールポーションくらいは持ってたろうが、落っこちているあいだに瓶が壊れたかもしれないしな。
まっ、そういったことを、今考えても仕方がないから、地道に捜索しよう」
「そうですね」
夕食を簡単に済ませ、ゴミクズなんかも収納して、俺たちは捜索を再開した。
落とし穴のあった場所の真下の部屋を中心に時計回りで一部屋、一部屋確認していく。
俺たちは、2時間ほどそうやってしらみつぶしに各部屋を確認していった。この辺りは勇者たちの探索範囲外だったようで、たまにモンスターと出くわしたり、宝箱も見つかったが、宝箱の中身は、普通の金貨だけだった。
その間、華ちゃんはデテクトなんちゃらの声だけだし、俺は部屋の扉を開ける時の声だけ出していた。キリアはいつも無口なので、今も無口でついてきているが、モンスターの相手をするときの動きは北のダンジョンの時よりも良くなっている。
……。
「よし、開けるぞ」
扉を開けた先も四角い石室だったが、その広さがこれまでの石室の何倍もあり、部屋の真ん中には四角く池が作られていた。




