第173話 週明けの定例会議2
温泉旅行を終え、屋敷に帰ってきたのだが、そう簡単には日常生活に戻れない。
昼食は簡単にハンバーガーで済ませ、夕食は、いつぞやの高級ソウメンと天ぷらで済ませた。
翌日。週明けの防衛省への出勤日だ。ポーションの数を確認し華ちゃんを伴い、いつもの会議室に跳んだ。
今日はいつもの4人の他、先週ダンジョンで指揮をとっていた山根2佐が出席していた。
あいさつを済ませて席に着いたところで、簡単にこの一週間でのD関連室がらみの話があったが、特に変わった話はなかった。
その後、火器によらないモンスター退治の検証結果について、山根2佐から報告があり、一般人でもある程度身体能力が高ければ、十分ダンジョンで通用するだろうとの見解だった。
「岩永さんはどう見ました?」と、川村室長。
「そうですね。ケイブ・ウルフの時だけは若干苦戦したようですが、ああいった大物が頻繁に現れるわけではないでしょうし、わたしも、一般人でも火器を使わずダンジョンの探索は十分可能だと思います」
「三千院さんはどうでしたか?」
「わたしも、岩永さんと同じ意見です」
「なるほど。さすがは、い……」
「えっ? 何ですか?」
「いえ、何でもありません。
話を戻しますが、自衛隊の精鋭での検証の次の段階として、一般人数名からなるチームに火器以外の武器を持たせての検証になると思います。
もちろん、一般人と言っても素人では無理でしょうから、武道、武術の心得のある人物であることが望ましいでしょう。
検証チームのメンバーは一般募集して、なにがしかのテストで選別することになると思います。
現状、ダンジョン開放を待ち望む声がかなり高くなっていることを考えると、応募者はそれなりの数集まるでしょう。選別チームは、最初は自衛隊の護衛を付けた上の探索。問題ないようなら、護衛無し。そんな感じでしょう。
その段階が無事終了すれば、いよいよ民間への開放に向けて法整備が進み、関連制度、施設が作られていくんでしょう」
「なるほど。多数の応募者の中から選抜されるということはそれだけ優秀な人が選ばれるわけでしょうから期待できそうですね。
そうそう、先週のダンジョンでの探索でモンスターの死骸を多数抱えているのですが、どこに出しましょうか?」
「そうでした。中にはスライムの死骸も保存されているという話でしたので、特殊な容器を用意しました。少々お待ちください」
野辺副室長が電話をかけ、1分ほどで制服を着た自衛官2名、鋼鉄製?の大型の瓶が2つ載った台車を押して会議室に入ってきた。
「その瓶の中には液体窒素が入っているそうで、瓶の中にスライムの死骸を入れていただけませんか?」
「了解しました。蓋があっても直接中に入れることができるけど、液体窒素の量が溢れるほど入っているとマズいから、蓋を開けてもらえますか?」
最初の瓶の蓋が手袋をした自衛官の手で外されたところで、白い湯気?が立ち上った。すぐに俺はスライムを瓶の中に出してやったら、エライ勢いで白い湯気が溢れてきた。
「今入れました。次いきます」
もう一つの瓶の蓋が外され、俺が残っていたもう一匹のスライムの死骸を入れ、大きく湯気が噴き出した。
台車に載せられたスライムの入った瓶は蓋をあけたまま、一礼した2人の自衛官によって素早く会議室から運び出された。
「残った他のモンスターの死骸は?」
そう言ったらすぐに台車が2台、部屋の中に運び込まれてきた。台車の上には死骸の保管用らしきジッパーの付いた厚手のビニール袋が乗っていた。
そのビニール袋の中にケイブ・ウルフ以外のモンスターの死骸を詰めた。
ここまでで、
大蜘蛛×6
スライム×2
大コウモリ×3
大ネズミ×2
の死骸を引き渡したことになる。
「残りは大物のケイブ・ウルフが3匹ですが、どうしましょう?」
「すぐに台車がきますので」
その後大型のビニール袋に入れたケイブ・ウルフは台車1台につき1匹載せられて、部屋を出ていった。
「どうも、ここでの受け渡しは大変そうですから、どこか場所があれば、そこでポーションなんかも卸しますが」と、提案してみた。
「お心遣いありがとうございます。それでしたら、そうですねー」
「正面駐車場にテントを張っておけばどうでしょう? そこからなら車両への積み込みも楽ですし、岩永さんもあそこはご存じですし」と、野辺副室長。
「岩永さん、正面の駐車場でいかがでしょう?」
「大丈夫です。今日はどうします?」
「今日は、こちらに台車を用意しているので、この部屋でお願いします」
「了解しました」
ということで、前回同様、1箱100本のポーションをヒールポーション、スタミナポーション各々20箱取り出して積んでおいたら、台車がやってきて持っていってくれた。
「そうそう、スキルブックをお渡しするのを忘れていました。
スキルブック:剣術です」そう言って、川村室長の前にスキルブックを押し出しておいた。
「今日はこんなところですね。
それじゃあ、失礼します」
そう言って俺は、華ちゃんを連れ、いったん例の中古車屋の前に跳び、廃車を2台ほど仕入れておいた。
中古車屋前の歩道の上で、
「今日は外で食べてくると言って出てきたけど、昼はどうする?」
「軽めのものでいいんですが」
「温泉旅行で少々食べ過ぎたせいか、俺も軽めの方がいいな。
グルメになったわけじゃないけど、悩むよな」
「そうですね。そういうことを考えると、リサさんをはじめ食事を任されている人は偉いですよね」
「確かに。毎日違うものを作ってるものな」
「ですよね。わたしも料理を勉強しようかな?」
「何でもやってみればいいよ」
俺たちがなんとなく自動車道に沿った歩道の上を歩きながら話をしていたら、黒塗りの大型車が横に止まった。
その車の後部座席の窓が下がって、中から、50がらみのおじさんが顔を出した。
「華、華じゃないか!?」
その声を聞いた華ちゃんが、俺の手を取って、
「岩永さん、どこでもいいから、連れていってください!」
俺はとっさに楽園の真ん中に華ちゃんを連れて転移した。




