第172話 温泉旅行終了。
サウナの中で意識を失っていたおっさん二人をサウナから運び出した。と、フロントに連絡した後、体を拭いて服を着ていたら、担架を持った4、5人の旅館の人が脱衣場に入ってきてそのまま浴場に入っていった。
服を着終わって、洗面台の前で頭を乾かしていたら、さっきのおっさんたちが担架に乗せられて運びだされていった。当たり前だが、ちゃんとバスタオルが掛けられていた。
おっさんたちを見送ってドライヤーで頭を乾かしていたら、また旅館の人が入ってきた。
「さきほど、ロビーに急を知らせていただいたお客さまですか?」
「俺だ」
知らん顔をしてても良かったが、旅館の人の仕事を増やす必要はないと思ったので、ちゃんと答えてやった。
「ありがとうございます。お客さまのお部屋はどちらでしょうか?」
部屋番号を教えておいた。
「夕食前に、女将が改めてお礼のごあいさつに伺いますのでよろしくお願いします」と、頭を下げて帰っていった。旅館の女将か。ドラマじゃ若女将が定番だが、世の中そんなに甘くはないのだ。でもちょっと興味ある。
風呂場ではとんだハプニングがあった。男湯から出て、女子たちを待つため、昨日と同じくマッサージチェアに体を預け振動ともみもみに体を預けていたら、救急車のサイレンが聞こえてきて、そのうち止まった。おそらくあの二人のおっさんたちはちゃんと回復するだろう。よかったよかった。
気持よくもみもみされていたら、女子たちが女湯から出てきた。
「岩永さん、お待たせ」「善次郎さん、お待たせしました」
俺はマッサージチェアから起き上がり、
「それじゃあ、今日も牛乳だ!」
「「はーい!」」
みんな牛乳瓶を持ち、蓋を取ったところで、俺と子どもたち4人は昨日と同じように、横一列に並んで胸を張って、ごっくんスタイルで牛乳を飲んだ。
ゴクゴクゴクゴク。プッファー!
牛乳を飲み終えて、部屋に戻り、思い思いの場所で寛いでいたら、部屋の外から、
『失礼します。当館の女将でございます』
と、声がした。声の感じは若い女性だ。
「どうぞ」
「失礼します」
膝をついて入り口のふすまを開けて現れた和服を着た女性が、部屋の中にそのまま膝歩きで入ってきて、両手を畳について頭を下げた。
「岩永さま、この度はまことにありがとうございました。
岩永さまが助けられたお客さま二人は、病院で無事意識を取り戻し、回復中とのことです」
「それは良かった」
「はい。
それで、病院で意識を取り戻されたお二人が後日岩永さまにお礼がしたいとのことで、岩永さまの連絡先を知りたいとのことでしたが、先方にお伝えしてよろしいでしょうか?」
「当然のことをしただけなので、別にわざわざ礼まで必要ないですよ。その気持ちだけで十分です。と、伝えておいてください」
「かしこまりました。先方にはそのように」
そう言って若女将は一礼して、ふすまを閉めて部屋を出ていった。
その後、みんなに先ほどのサウナでの出来事を説明しておいた。
当然、みんな驚いていた。子どもたちは昨日も今日もサウナに入ろうと思って扉を開けただけで撤退したそうだ。
後で聞いたが、今日の女風呂の正面のガラス壁には、よしずのようなものが外から掛けてあったそうだ。
その日の夕食も豪華絢爛だったのは言うまでもない。
翌日。
遅めの朝食をいただいて、軽く朝風呂に入り、部屋に帰ってきたらそろそろいい時間だった。みんなも着替えていたので、俺だけ隣りの部屋で帰り支度をした。
ロビーに下りて売店でお土産の温泉まんじゅうを買って、今回の温泉旅行は終了した。
フロントで鍵を返した時、
「少々お待ちください」と、そこで引き留められた。
しばらく待っていたら、宿の女将が現れて、
「岩永さま。昨日はありがとうございました。
これは、当館の無料宿泊券ですのでお納めください」
そう言ってかなり厚めの封筒を渡された。
「ありがたくいただいておきます」と、礼を言っていただいておいた。
あとで、無料宿泊券の枚数を勘定したら20枚も入っていた。しかも、使用期間指定なしだった。これだけで少なくとも50万はしそうだ。ポーション2本使ったわけだから、その代金とすればそうでもないかもしれないが、旅館側はそんな大層なものを俺が使ったとは知らないわけだからお礼の額とすれば破格と思う。
逆に考えると、俺が助けたあのおっさんたちは温泉旅館にとって相当大事な客だったのではなかろうか? 俺は知らないうちに旅館のピンチを救ったのかもしれない。いずれにせよ、人助けをしてちゃんと感謝されるのはそれなりに嬉しいものだ。
俺たちは大勢の旅館の人に見送られて、旅館を後にしたのだが、ずーっと見送られてしまい、転移で移動しづらくなってしまった。旅館の門を出て坂道をある程度下り、旅館が見えなくなったところでみんなを引き連れて屋敷の玄関ホールに転移した。
その日は、やはり旅行疲れが出たようで、各自に荷物を手渡したら、みんなおとなしく自室に戻っていった。リサも疲れているだろうと思い、昼食はそれほど久しぶりでもないが、ハンバーガー類で済ますことにした。