第162話 温泉旅行4、大浴場
大浴場の入り口で、水色の地に白い温泉マークの暖簾のかかった男湯とピンクの地に白い温泉マークの暖簾のかかった女湯の前で女子たち7人とは分かれ、俺は正々堂々と男湯に入場した。
時間が時間だったせいかまだ誰もいなかった。というかちょっと前に風呂場が開いたらしい。これは運が良かった。浴場には使えない時間があることなど完全に失念していた。ここでも添乗員評価はマイナスが付かなかったが、このままでいくと、優・良・可・不可の中の、可の最低線60点を割り込みそうだ。
俺は意味もなく冷や汗をかいたが、すぐに気を取り直し、置き場所を失念しないよう一番隅っこに置いてあったカゴの中に着ていたものを入れて真っ裸になった。
そのあと、脱衣場に備えてあったタオルを1本持って浴場に入っていき、扉のすぐ先の掛け湯用に張ってあったお湯を桶にとって肩から掛け、軽く手で体を洗い再度掛け湯をして中に入っていった。
絶景じゃないか。
大浴場の向こう正面は全面ガラス張りで、そこからも青い海と熱海の街並みが見えた。
俺は、バシャバシャと天然石でできた大浴槽の中に入っていき、窓ガラスから絶景を眺めた。
あれ? 俺が真っ裸で熱海の街並みを見下ろしているということは、熱海の街並みから俺の雄姿が見えるということだろう。
あまり窓ガラスには近づかないでおこう。お互いのためだ。
たいていの旅館の風呂は、男湯と女湯が時間で交代制になっていたはずだ。現在女湯として使われている風呂もこっちと同じように前面が全面ガラス張りだったら大変だが、その辺りはさすがに旅館側で考慮しているだろう。
それはそれとして、湯舟に肩まで浸かり、それから隣の泡ぶろに移動して、そこで背中と伸ばした足の裏側にブクブクを感じてしばらく浸かり、その後、ちょっと熱い湯に浸かって、洗い場に移動した。
洗い場で体と頭を洗って、シャワーで流した俺は、サウナに入ることにした。入り口の脇には水風呂があったが、ちょっと手を入れただけだが相当冷たかった。こんな冷水かけて大丈夫なのか?
サウナの入り口の扉にはガラスの覗き窓が付いていて、サウナ室の壁に掛けてある温度計が覗けた。
現在の温度は95度。まずまずの温度だ。と思う。
扉を開けただけで、熱気がムッときた。俺はバスタオルだかマットだかが敷かれた簀の子の上を歩いてサウナ室の一番奥。一段高いところに腰を下ろした。簀の子同様、直に長椅子部分の木に触ると95度で火傷するので尻の下にはバスタオルが敷かれている。サウナは上の方が当然温度が高いので、俺の頭の辺りは本当に95度あるのだろう。
座って10秒も経たないうちから毛穴から汗が吹き出てきた。その汗がだんだん大きくなって隣りとくっつきそれが流れ落ちていく。流れ出る汗で火傷していないところを見ると、汗の温度はそれほど高くないのだろう。
俺の座ったところの正面には、12分で1周する時計がかかっていた。入った時間を覚えていないので、今から3分目標に頑張ることにした。
髪の毛からも汗が流れ落ちてくる。髪の毛を触ると、表面は乾いていて、すごく熱い。これって髪の毛的にマズいんじゃないか? 俺のヒールポーションでも回復不能なダメージが髪の毛に入ってしまうような気がして、冷や汗まで出てきた。サウナで冷や汗は珍しいかもしれない。
そうこうしていたら、何とか3分が経過したので、俺は這ってはいないが、這う這うの体でサウナ室から退散した。サウナ室の扉は火傷するほど熱かった。次回があるなら、ちゃんとタオルを介して扉を開けないとな。
サウナ室をでたら、相当涼しい。だからと言って体の芯まで温まっているので、もちろん寒いわけではない。
もちろん体にスゴク悪そうな冷水は敬遠して、再度俺は一番広い大浴槽に肩まで浸かった。
1、2、3、……、99、100。
風呂から上がり、軽くタオルで体を拭いて脱衣所に戻ったのだが、まだ俺以外誰もいなかった。意外と人気がなくて空いてる旅館だったか? などと失礼なことを考えてしまった。
備え付けのバスタオルで頭から体を拭き、マッパのまま大きな扇風機の前に立って涼んでいたら、お約束の、
「わ・れ・わ・れ・は・う・ちゅ・う・じ・ん・だ」を2回やったところでガラガラと出入り口の引き戸を開けて次の客が脱衣場に入ってきた。『う・ちゅ・う・じ・ん・だ』を言い終わっていてラッキーだった。
俺はすぐに下着を着て、持ってきた浴衣をその上に着て、鏡の前の洗面台に置いてあったヘヤードライヤーで頭を乾かそうとしたらもうほとんど乾いていた。以前に比べて髪の毛の乾きが速いような。まさか、まさか髪の容量が減ってきたせいで乾きが速くなったのでは?
一抹の不安があったが、俺にはヒールポーション(極)があると思い直し、男風呂から外に出た。
風呂場から外に出たところにはちゃんと長椅子が置いてあったので、俺はそこに座って女子たちが風呂から上がるのを待つことにした。椅子の目の前には自販機が置いてあり、各種牛乳のほか清涼飲料水を売っていたが、みんなで飲んだ方が美味しいと思って我慢することにした。さらにその先の小部屋には、マッサージチェアが4つ置いてあった。コピーしてやろうかと思ったが、こういったものは新品に限ると思い自重した。
マッサージチェアをそのうち購入しようか。とか、こういったものは温泉に置いてあるからこそ気持ちいいんだ。とか、考えていたのだが、気付けば俺は長椅子からマッサージチェアの1台に体を預け、コントローラーを操作してお任せモードで起動していた。
もみもみと振動が首から腰にかけて移動する。首の振動でまた『う・ちゅ・う・じ・ん・だ』を始めそうになったが、これは自重した。
今回はだれ得?の主人公の入浴シーンでした。m(_ _ )m




