第160話 温泉旅行2、新幹線
ホームでしばらく待っていたら、新幹線が入線してきた。乗客がみんな下りたところで、いったんドアが閉まり、それから清掃員が中に入っていって清掃が始まった。駅のホームに階段で上がったところから、リサ以下5人の声がなくなっていたが、今もその状態が続いている。
彼女たちも自動車や自動車道路は慣れているし、在来線は距離を置いてなら見たことがあるはずなので、それほどでもないのだろうが、これだけ近くで列車や鉄道、それも新幹線を目にすると迫力が違うので、圧倒されたようだ。
車内清掃が終わったところで、列車名の表示が変わったのだが、俺たちの乗るひかりではなかったようだ。俺たちの乗るひかりの発車予定時刻までまだ30分はある。ホームの売店でも弁当を売っているかもしれなかったのだが、どうせなら車内販売で弁当を買った方が子どもたちも喜ぶだろうと思ってあえて売店を覗かなかった。
はるかさんと華ちゃんはホームで待っているのは退屈だろうが、リサ以下5人は見るものすべてが新しいものなので退屈はしていないようだった。早くきて正解だったのかもしれない。
おとなしく待っていたら、目の前の新幹線が発車して、それからしばらくして大阪方向から列車がやってきた。今度は誰も乗っていなかったし、俺たちの乗るひかりだった。
「みんな、ドアが開いたら乗り込むからな。乗る時は俺たちが立っているホームと新幹線の間に隙間があるから足元に気を付けろよ」
ちゃんと注意しておいた。
なかなかドアが開かなかったが、5分ほどで開いてくれ、俺たちは1番でひかりの中に入っていけた。俺たちの後ろには10人ほど人が並んでいた。
添乗員の俺はチケットを片手にまず席を見つけ、3人席を回転して6人席にして、順番に座らせていった。
6人席の並びの2人席の通路側に俺、窓側にはるかさんが座った。
それから10分ほどで、ホームにベルが鳴り、ドアが閉まって、半分くらい座席の空いたひかりは音もたてずに滑るように発車した。
リサたち5人は相変わらず口を開けて窓の外を眺めておとなしくしている。6人席に座った華ちゃんが、窓の外に映る景色を見て説明してやっている。
東京から熱海までは35分ほどしかないので、車内販売が待ち遠しい。通路に体を乗り出して前後の出入り口を確認するが、こういう時に限ってなかなか車内販売がきてくれない。
東京駅を発車したと思ったら、ひかりは品川で停車して乗客が何人か乗り込んできた。すぐにひかりは品川を発車し、多摩川を渡ってしばらくして新横浜に到着してしまった。もはや駅弁を買っても食べる時間がない!
結局車内販売がやってこないまま、ひかりは熱海に到着してしまった。
熱海到着前から俺の誘導でみんな出口前に集合していたので、俺を最後に無事ひかりから全員降車できた。
ここまでの添乗員としての自己採点は65点というところか。ちなみに合格点は60点である。
ホームに降りた俺はさっそく目印の日の丸を掲げ改札まで7人を誘導した。
8人分のチケットを駅員さんに渡し、改札を出て駅前広場に。時刻はちょうど午後1時。チェックインは2時なのでまだ1時間もある。どうも時間の使い方に難があるな。
旅館は山の中にあったはずなので、時間を潰すにはまた苦労することになるし、駅弁を買いそびれた関係で昼食がまだだ。ちょうどアーケード街が目に付いたので、送迎バス乗り場の反対側になるが、そっちにいけば食堂があると思い旗を立てて7人を誘導してそっちの方に歩いていった。
どうせ、今日明日の夕食に魚介類は飽きるほど出てくるはずなので、魚系統が本場かもしれないが、あえて、最初に目に付いたそば屋に入ってみることにした。
時間が時間だったが、運よく4人席が並んで二つ空いていたので、テーブルをくっつけて8人で席に着いた。席順は屋敷の食堂と同じだ。
慣れないものを食べる時には、みんな同じものを食べた方が無難なので、
「みんな天ざるでいいかな?」
みんなと言っても、華ちゃんとはるかさんしかメニューを理解できないので、二人に聞いたようなものだったが、二人ともそれでいいということだったので、天ざるを8人分注文した。
そば屋だけあってそれほど待たされず天ざるがやって来た。
「いただきます」「「いただきます」」
俺が揚げたてのエビの天ぷらをつゆにつけたのを見て、子どもたちも同じようにエビの天ぷらをつゆにつけた。
「赤く出てるのはしっぽだから、食べてもいいが食べる必要はないんだからな」
子どもたちに教えておいて、俺はエビ天を口に運んだ。
つゆが付いているが衣がサクサクだ。美味いじゃないか。
半分残ったエビ天をつゆにつけてしっぽの手前まで食べてしまった。
今度はそばだ。長いことソバを食べていなかったが、久しぶりのソバはどうだ?
まずは薬味に添えられたネギをとソバの上に振られた刻みノリをつゆに入れ、それからそばを箸で摘まんでつゆの中に。
ネギとノリをそばに絡ませてから、つゆ入れを口の近くまで持ち上げて、
ズズー。
ちょうどいい硬さのそばだ。プロだもの当たり前か。
しまったー。ソバだけでも食べる前にコピーしておけばよかった。そばの味については俺が素人なので分からないが、こういったものはマズくなければおいしいという認識で間違いない。
子どもたちも俺もマネをしてそばを口に運んで、
「「ズズー」」。今日はよそ行きの服をみんな着ているので、つゆが服に散るかもしれないが、ちょっとくらいなら大したことないだろう。それに、子どもたちの服も俺が一度コピーしているので替えはいくらでも作れる。
30分ほどでみんな食べ終わった。天ぷらとそばに満足した俺たちは、そば屋を出て、送迎バス乗り場があるはずの駅前広場に戻っていった。




