第155話 火器によらないモンスター退治の検証3
小休止が終わり、部隊は前進していった。入り口の空洞から正確なところはもちろんわからないが、2キロほど前進したところで洞窟は広がって空洞になり、その真ん中に下り階段があった。それまでに、5人の侍は大蜘蛛を2匹を難なく斃しており、死骸は俺が収納している。
バレンの北ダンジョンは1キロで下り階段だったがここは入り口から2キロもあったので、ちょっと親切さが少ないようだ。将来的に一般人に開放されるなら今の階層でそれなりに経験を積んでから2階層に下りていくようになるのだろう。たとえば、第一階層100時間経験してないと第2階層に進めないとかそういったルールが作られるかも知れない。
駅の自動改札のようなものを設置して、冒険者カードで入場するとかすればいけそうだが、路面を掘り返してケーブルを引くことはできても、改札の機械がモンスターに壊されればお終いなので難しいか。
洞窟を拡張して路面をきれいに整地してマイクロバスを走らせればいいかもしれない。それならバスの中の機械でカード管理できるものな。
あれ? 空洞を大々的に拡張すればダンジョン内に人工的に楽園が作れるんじゃないか? 今のところ、水の湧き出ているところは楽園でしか見ていないが、このダンジョンの中にも水が湧き出てどこかに流れているところがあるかもしれない。そこを拡張していけば地下都市ができる。問題は出入口の狭さか。大型機械の出入りできる大きさがあれば開発も捗るのになー。
俺がそういった夢想していたら、佐高隊長が、俺たちに向かって、
「これから階段を下って第2階層に向かいます。下の情報はほとんどありませんので、注意して下さい」と、注意喚起してくれた。
注意しろと言われてもいつも以上のことはできないので、軽く「はい」と答えておいた。
「階段を下りる前に、ディテクトアノマリー、ディテクトライフ」
華ちゃんがいつもの保険をかけたところで、部隊は階段を下り始めた。
おそらく50段ほどの階段を5人の侍が下りきる前に、再度華ちゃんがデテクトアノマリーとデテクトライフをかけたところ、階段下の空洞の壁の一角が赤く光っていた。
今まで、無反応だったデテクトアノマリーに初めて反応があった。
「何か壁に隠されていると思います。
確認してもいいですか?」
佐高隊長から了承を得たので、華ちゃんがアイデンティファイトラップで罠ではないことを確認してから、ノックを唱えた。
これまでと同じように、赤く点滅していた壁の一部が崩れてその中から空洞が現れ、黒いスマホ型のプレート、スキルブックが見つかった。
「鑑定:
スキルブック:剣術
剣術のスキルブックでした」
「華ちゃん、それは隊長さんに渡しておいた方がいいだろう」
「自分がそれを持っていてもよろしいのですか?」と、隊長さん。
「もちろんです。邪魔になるようなら、わたしが持っていても構いません」
「ぜひそうしてください」
ということなので、俺が預かっておいた。
階段の下り口の空洞では、正面とその左右に一本ずつ洞窟の入り口があり、佐高隊長は正面の洞窟に進んでいった。もちろんデテクトアノマリーとデテクトライフは華ちゃんが再度唱えている。
そこから先、何度かモンスターに遭遇したが、5人の侍たちで難なくモンスターを斃している。
階段を下りた先の空洞から、2キロほど進んだところでまた空洞が広がり、第3階層への階段が見つかった。
時間は早かったが、そこで昼食の大休止となった。俺たちにとっては早い時間だったかもしれないが、自衛隊員たちは、俺たちと違って早くから動き回っていたのだろうから、そんなに早いわけでもないのだろう。
自衛隊員たちはいわゆるミリ飯を食べ始めた。俺たちも渡されたミリ飯を試しに食べることにした。隊員たちは思い思いの場所に座り込んでいるので、俺たちもマネをして適当に路面に座り込んだ。
渡されたショルダーバッグの中から、緑色のビニール袋を取り出した。缶詰はビニール袋ごと温めたのか濡れていた。華ちゃんとキリアに一つずつ袋を渡し俺も一つ手にしてビニール袋を開けたら中から缶詰セットが出てきた。袋の底の方には小さな缶切りが一つ入っていた。
ショルダーバッグの中にはビニール袋の他に割り箸が3膳入っていたので、割り箸も二人に渡した。ビニール袋から取り出した缶詰は火傷するほど熱かったので、俺は華ちゃんとキリアにハンドタオルほどの布を渡してやった。
二人が熱々の缶詰をビニール袋から何とか取り出したのだが、熱くて缶切りが使えそうもない。そもそもキリアでは缶切りが使えないだろう、ということで、二人に缶詰を並べさせて、上のブリキをアイテムボックスに収納することできれいに蓋を開けてやった。
缶詰は4個。内容は赤飯、たくあん、マグロ味付け、コーンドビーフベジタブルと緑色の缶詰の横に書いてあった。
キリアにとっては初めての缶詰なので最初箸が止まっていたが、華ちゃんが、いろいろ説明し、俺が食べてみせてやったので、すぐに缶詰のミリ飯をおいしそうに食べ始めた。
「このごはん、屋敷で食べたごはんと違うんだ」
「うん、それはモチゴメって、ちょっと違うんだよ。そのお米を潰して、練るとオモチって焼くとこんなに伸びる食べ物になるんだよ」と、華ちゃんが両手を使って説明した。
口で言っても分からないだろうが、そのうちおしるこでも仕入れて食べさせてやろう。
俺たちが、缶詰を食べていたら、佐高隊長がやってきて、
「どうです。自衛隊のミリ飯は?」
「初めて食べましたが、おいしいですね」
「そう言っていただけると、わたしも嬉しいです。今日のミリ飯は缶詰セットでしたが、パック飯とレトルトのセットもあってなかなかですよ。
それはそうと、今日の探索はここまでということで、午後から引き返します。最後までよろしくお願いします。
ところで、この緑色の点滅ですが、いつまで続くんでしょうか?」
最後のひとことを言いたかったのだろう。確かに緑の点滅を続けていたらまっとうな社会生活はできないものな。
「それは、三千院さんがいつでも解除できるので心配ないですよ」
「良かったです。ほっとしました」
佐高隊長は心底安心した顔をして、他の隊員たちのところに戻っていき今の話を伝えたようだ。隊員たちの顔があからさまにほっとしていた。さすがの空挺隊員でも気にすることがあったようだ。
俺の感覚では、大休止は比較的長く90分ほどだった。長いと感じたのはあまり緊張もせず歩いていたためと、自分自身の身体能力が知らず知らずにそれなりに上がっていたからだと思う。キリアがへばるようなら、俺がスタミナポーションを与えてもいいし、華ちゃんがスタミナの魔法をかけてもなんとでもなるが、キリアもいまのところ平気そうだった。もちろん、華ちゃんも平気そうにしていた。自衛隊の最精鋭と互角じゃね? とか不遜なことまで考えてしまったぞ。
大休止が終わったところで、部隊はもと来た道を引き返し、何度かモンスターに遭遇したが危なげなくモンスターを切り刻んで、出口のある空洞まで引き上げた。やはり、日本のダンジョンでもそれなりのモンスターを斃すことで、佐高隊長以下5名の武器は黒ずんでいたようだ。しかし、防具と元の色が黒っぽい小銃についてはわからなかった。
本部のある空洞に帰り着いたところで、今回の戦利品であるモンスターの死骸とスキルブックを渡そうとしたのだが、死骸回収袋の用意がなかったため、来週、防衛省にポーションを卸すとき一緒に受け渡すことにした。スキルブックもその時ということになった。
今回の戦利品は、以下の通り。華ちゃんの斃したモンスターも含まれているが、一緒に渡すつもりだ。
大蜘蛛×6
スライム×2
ケイブ・ウルフ×3
大コウモリ×3
大ネズミ×2
スキルブック:剣術
オブザーバーとして参加した俺の講評は、ケイブ・ウルフの時だけは苦戦したが、総じて、火器を使わなくてもダンジョン内の探索は可能だということにしようと思う。
そもそもニューワールドで産業として成り立っているわけだし、日本のダンジョンと向こうのダンジョンで出現するモンスターに差がない以上、より洗練された装備でこちらの冒険者は臨むのだろうから、問題があるはずはないというのが俺の考えだ。




