第150話 斎藤一郎、鈴木茜
ケイブ・ボアーを3匹斃したところで、俺たちは休憩に入った。
しばらく休憩して、空になった飲み物の容器などを回収して、俺たちは再度洞窟を進み始めた。
報道カメラマンと化したはるかさんは、やたらとフラッシュをたいていたのだが、
「電池、電池がもうすぐ。
予備が、あれ? 予備がない!」
はるかさんの電池はリチウム電池だと思うが、俺程度の化学知識では、どういった化学反応が起こるのか皆目見当もつかない。充電済みの電池があればコピーできたのだが、リチウム電池を充電状態に再生することはできない。久しぶりの敗北宣言だ。
はるかさんがおとなしくなったところで、さらに俺たちは洞窟の中を進んでいった。
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神殿の山田圭子だが、レンジャーの田原一葉が逃げ出し、赤き旋風も契約切れで去った今、彼女一人ではダンジョンの探索はできないので、神殿の自分の部屋で過ごしている。
何もすることもなく日々を過ごしているため、神殿の侍女たちに当たり散らすようになっていた。すでに複数の侍女が山田圭子付きを交代している。
新たに神殿に召喚された2人は男女だったため、それぞれ一人部屋が与えられた。大神官はこの二人をある程度訓練した後で、山田圭子に会わせようと考えている。
一人の名まえは、斎藤一郎17歳。もう一人の名は、鈴木茜17歳。二人は面識はなかったが、同じ境遇だったためすぐに打ち解けた。
斎藤一郎の職業は魔術師、鈴木茜の職業は治癒師だった。
斎藤一郎
年齢:17歳
職業:魔術師
スキル:魔術:Lv3:鑑定:Lv1
魔術師である斎藤一郎は順当に攻撃魔法を覚えていっており、ボール系の魔術の威力も明らかに勇者の山田圭子を凌いでいる。魔術レベルが3のため、その上の段階の魔術が使えるはずだが、三千院華の時と同様、神殿にはボール系統を超える魔術の使い手がいなかったため斎藤一郎はその先の魔術は使えなかった。また、治癒系魔術も使えなかった。
鈴木茜
年齢:17歳
職業:治癒師
スキル:治癒:Lv3
治癒師は賢者同様、神殿でも把握していない職業であり、治癒スキルも同様だったためどういった形でスキルを使うのか当初分からなかったのだが、何かの拍子で鈴木茜が足首を捻挫してしまい、腫れた足首を見て、『治ってくれないかな』と心の中で思ったところ、腫れた足首がわずかに光り、気付けば腫れも引いて痛みも無くなっていた。それ以来、鈴木茜は願うことで負傷を治せるようになった。もちろん風邪などの病気も簡単に治せる。今のところ、治癒スキルの効果は治癒魔術との差はない。ただ、神殿には重病人もケガ人もいなかったため、治癒のスキルにどれほどの力が秘められているのかは今のところ不明だ。
山田圭子が何もすることもなく自室で時間をもてあそんでいるあいだ、斎藤一郎と鈴木茜は神殿兵たちと体力づくりと武器の扱いの訓練の一環として今日も神殿の中庭で素振りを行っていた。
斎藤一郎の持つ武器は片手で持てる杖で鈴木茜の持つ武器も同じく片手で持てる杖である。片手杖と言っても訓練用の杖のため、かなり重く、数十回振っていれば腕が上がらなくなってくる。
素振りのあとはランニングで神殿の敷地を囲む塀の内側を二人そろって数周する。最初は1周も走れば鈴木茜はへばってしまっていたが、今では5周程度は平気で走れるようになっていた。
本人は意識していないのだが、これにはからくりがあり、辛くなると楽になるよう無意識に願っていたのである。意識した願いではなかったせいか、辛さがすぐになくなるわけではなく徐々に辛さが消えていくため気付けなかったようである。
今日は5周ほど二人は走り終えたところだ。
「はあ、はあ、斎藤くん、全然息が切れてないよね」
「僕はいちおう、陸上部だったからこれくらいは平気だけど。
鈴木さんも最初のころはかなりしんどそうだったけど、ちゃんと走り切れてそっちの方が凄いと思うよ」
「ほんと。ありがとう。
わたしたち、こんなところに拉致されちゃったけど、これって、日本にできたピラミッドとかダンジョンに関係あるのかな?」
「さあ、どうだろう。ここのダンジョンでアーティファクトを見つけることができれば日本に帰れるってことは信じられないけど、いつか日本に帰ることができれば、その時はヒーローになれるよ」
「そういう考え方もあるわね。悲観しているよりよほどいい考え方と思うわ。私も見習おう」
「二人して頑張ろう」
「うん」
「二人って言っちゃったけど、僕たちより先に拉致されていた山田さんのことどう思う」
「顔を見かけただけで話もしたことないけれど、わたしの苦手なタイプかな」
「あっ。僕も。怒ってるような顔だったし。雰囲気怖いよね。何かイヤなことでもあったのかな?」
「拉致されたこと以外でとなると、あまり思いつかないわよね。ここ、待遇だけはいいし」
「そうだよね。食べ物はおいしいし。
お風呂で女の人に背中を流されて最初はすごくびっくりしたけど、気持ちいいしね」
「もう斎藤くんたら。でもわたしもお風呂で体を洗ってもらうと気持ちよくってついうとうとするくらいだから許してあげる。フフフフ」
「あははは」
いたって健全、かつおおらかな二人だった。
彼らは明後日、山田圭子と正式な顔合わせをし、その後3名で南の荒れ地でならしたあと、ダンジョンの探索を再開することになる。




