第148話 はるかさん、ダンジョンデビュー1
キリアが冒険者として鮮烈なデビュー戦を飾ったところで俺たちは屋敷に戻った。
屋敷の居間に現れたところ、昼食の準備中のようで誰もいなかった。
華ちゃんとキリアはベルトからそれぞれの武器を外して居間の壁に立てかけ、そのあと俺も一緒になって、ヘルメットと手袋、肘当てを取り、革鎧の上を脱いでから洗面所にいって手を洗っておいた。すね当てともも当てと膝と膝のプロテクターは面倒なので着けたままだ。
居間に戻って、昼食の用意が済むのを待っていたら、すぐに昼食の用意が整ったとエヴァが知らせにきたので、3人揃って食堂にいった。
キリアが食堂に入っていくと残っていた3人に迎えられた。
「「キリアどうだった?」」
「何とかなった。あとは食べながらね」
俺たちが席に着いたところで、
「それじゃあ、『いただきます』」
「「いただきます」」
はるかさんも今日は街歩きには出なかったようで、食堂にいる。
昼食を食べながら、キリアが冒険初日のことをみんなに話すのだが、いちいちエヴァたち3人が驚くので実にほほえましい。
最後にキリアが『ダンジョンの中に入っていく前に、冒険者ギルドで登録したらFランクの冒険者になったんだ。それでダンジョンから帰ってきて冒険者ギルドにいったらAランクになっちゃった』
そのひとことで食堂の中が大騒ぎになってしまった。そこで、俺もキリアから預かっていたAランクの冒険者証をアイテムボックスから取り出して、まずは俺の隣に座るイオナに渡してやった。
「キリアの名まえががいてある。すっごーい!」
その後、イオナからエヴァに手渡され、最後にオリヴィアに金色の冒険者証が手渡された。
「すっごーい。キリア頑張ったんだね」
オリヴィアから冒険者証がキリアに戻され、最後に俺がまた預かった。
さすがのはるかさんも、これには驚いたようで、
「Aランクというのは、確か冒険者ギルドでは最高ランクでしたよね?」
「そうなんですが、今回斃したバジリスクがかなり大物モンスターだったみたいで、後日、わたしと華ちゃんとキリア、3人揃って対象者のいなかったAAランクになるようです」
「そ、そこまで」
「バジリスクを斃したのは前回のケイブウルフの時と同じで今回も華ちゃんなんですけどね。
そうだ、食事が終わったら、バジリスクを見せてあげましょう。
ギルドじゃ解体できないから買い取れないと言われたので、持って帰ってきてるんですよ」
「ぜひお願いします。カメラで撮影してもいいですか?」
「もちろん。バジリスクに肖像権はありませんから」
「そ、そうですよね」
食事を終えて、みんながアイスクリームを食べ終わったところで、裏庭に出た。はるかさんはデジカメを取ってくると言って自分の部屋に戻っていった。
はるかさんが裏庭に出てきたところで、
「そこに出しまーす」
2匹のバジリスクの死骸を裏庭に並べて出してやったら、キリア以外の3人がまた大騒ぎを始めた。
「すっごーい」「おおきーーい」「ちょっとこわい」
はるかさんは、バジリスクの周囲を回って、手にしたデジカメでいろいろな角度からバジリスクを撮影していた。
「はるかさん、モンスターも研究対象なら、今度一緒にダンジョンに入ってみますか?」
「わたしなんかがダンジョンに入って大丈夫でしょうか?」
「キリアでも立派に冒険者してましたから、大丈夫でしょう。危険な目には合わせませんよ。もし何かあったとしても、ポーションもあれば華ちゃんのヒールの魔法もあるし。
丸1日だと大変だから、これからでも一緒に行きますか?」
「じゃあ、連れていってください。
でも防具なんか何もありませんが?」
「はるかさんは見学だけだからワークマ〇スーツだけでも大丈夫でしょう。
すぐに作りますから、それを着てください。はるかさんの体格は華ちゃんとそんなに変わらないから華ちゃんと同じサイズでいいでしょう。
バジリスクはこんなところでいいかな。
収納」
バジリスクをアイテムボックスに収納して俺たちは居間に移動した。
居間に戻ったところで、はるかさん用にワークマ〇スーツ一式を作って渡しておいた。はるかさんはワークマ〇スーツを抱いて2階に上がっていったので、その間に俺たちは外していた防具を身に着けていった。はるかさんに防具は不要とは言ったが、洞窟内を歩くのに、さすがにヘルメットはあった方がいいと思い、ミスリルのヘルメットを作っておいた。もちろんスタミナポーションをすぐに飲んで回復している。
ワークマ〇スーツに身を包んで居間に戻ってきたはるかさんの首にはさきほどバジリスクを撮影したデジカメがぶら下がっていた。俺ははるかさんに先ほど作ったヘルメットを渡し、ヘルメットが頭になじんだところで、
「それじゃあ、北のダンジョンの第4階層まで跳んでいくから手を取って」
3人が俺の手を取ったところで、午前中最後にいた北のダンジョンの第4階層に転移した。
転移したところで、すぐに華ちゃんがライトを唱え、さらにデテクトアノマリーとデテクトライフを唱えた。洞窟内に異常はなかったが、俺たち4人はちゃんと同期して緑の点滅を始めた。はるかさんはそれについては何もコメントしなかった。
はるかさんが周囲を見回しながら、フラッシュを焚いて写真を何枚か撮り、
「ここが、ダンジョンの中」とひとこと。そのあと、慌てたように、
「あっ! フラッシュ焚いても大丈夫でしたか?」
「問題ないですよ。華ちゃんの頭の上にはライトの明かりもついてるし。全員緑に点滅してるし。
日本にできたダンジョンもここと同じで洞窟型のダンジョンです。
それじゃあ、奥の方にいってみましょう。
隊列は、俺、はるかさんとキリア、殿が華ちゃんでいこう」
「「はい」」
俺たちはそこからゆっくり前進していき、ときおり華ちゃんがデテクトアノマリーとデテクトライフをかける。
10分ほど進んだところで、緑の点滅を前方に確認した。動きの遅さからスライムかナメクジだろう。
「一匹のようだから、またキリアでいこう」
「「はい」」
キリアがフレイムタンを鞘から引き抜き盾を構えて前方の緑の点滅に向かっていく。
如意棒を構えた俺がキリアのすぐ後に続き、その後を華ちゃんとはるかさんが続いている。デジカメを構えているはるかさんは、戦場カメラマンのつもりになっているのかもしれない。




