第144話 キリア、冒険者デビュー3。冒険者登録
キリアの装備を整えた日の夕食後。
華ちゃんによる国語の勉強は子どもたちの勉強部屋で行われた。小型の白板は買ったものの、居間のソファーに座っての勉強では使い勝手が悪かったので、結局居間の棚の脇に置いたままになっていたのだが、勉強部屋ができたので、そっちに運んで壁に掛けておいた。まっすぐ座ったままで白板を見えるように、壁に向けていた机を白板をかけた側の壁に向くように回している。
翌朝。
子どもたちがポーションの配達を終えて屋敷に帰ってきたところで、まずはキリアを冒険者ギルドに連れていき冒険者登録をすることにした。何歳から冒険者登録できるのかはわからないが、前回、北のダンジョンにいったとき、キリアぐらいの子もダンジョン内で見かけたから、キリアでも問題なく冒険者に成れるだろう。
俺と華ちゃんは先に支度を終えて、キリアが支度をして居間にやってくるのを5分ほど待っていたら、支度を終えたキリアが居間に現れた。革鎧がキッチリ締まっていないと危ないので、キリアの革鎧を点検していたら、エヴァたちも居間にやってきた。キリアの革鎧は上から下までちゃんとバックルに革ひもが通されキッチリしていた。
「キリア、ちゃんと鎧を着けて、偉いじゃないか」
「エヴァたちが手伝ってくれたので、うまく着られました」
「キリア、頑張ってね」「気を付けてね」「ご主人さまがいるから大丈夫!」
なるほど、良い仲間だな。
腰のベルトに剣の鞘を結び、片手でキリアが丸盾を持った。これで準備は整った。
「それじゃあ、二人とも俺の手を取ってくれ」
華ちゃんとキリアがそれぞれ俺の手を取ったところで、
「いってくる。昼には一度戻ってくるから。
転移」
北の冒険者ギルド支部に近いわき道に現れた俺たちは、そのまま表に回ってギルドの建物に入っていった。今回は子ども連れなので、面倒な連中に絡まれないよう、俺は首から金色の冒険者カードに孔を空けてワー〇マンシューズの靴ひもを結んで首から下げている。華ちゃんのカードは俺が預かったままなので、華ちゃんの首には何もぶら下がっていない。
俺たちが窓口に向かって歩いていると、それまでざわついていたホールは少しずつ静かになっていった。そんな中で、小声の囁き声が漏れ聞こえてきた。
『あいつらだ』『一心同体だ!』『後ろに子どもを連れてるが着ている防具は、少し赤いが同じものだ。ということは一心同体のパーティーメンバー! まさかあの子どもも実力者?』
知らぬ間に俺たちは相当有名になっていたようだ。名まえが名まえだけに覚えやすいしな。
カウンターには誰も並んでいなかったので、前回華ちゃんを登録した時の窓口の女性の前にいって、キリアの冒険者登録を頼んだ。
必要事項を書いた用紙を受け取った窓口の女性が、用紙を確認して、
「キリアさんも一心同体のメンバーということでよろしいですね」
「それでお願いします」
「少々お待ちください」
ほとんど待つことなくキリアの冒険者カードができ上った。
いったんキリアに渡し、
「どうだキリア、冒険者になった気持ちは?」
「わ、わたしが、ご主人さまの冒険者パーティー一心同体の新メンバー!
ご主人さま、ありがとうございます。すごくうれしいです。これから一生懸命頑張ります!」
「頑張ることはいいことだが、無理する必要はないからな」
「はい」
「岩永さん、掲示板にまた指名依頼がないか確認しますか?」
「窓口で何も言われなかったから、そっちは良いだろう。
外に出たら、さっそくダンジョンの中に入ろうぜ」
「直接入りますか?」
「キリアは揺らぎを通ったことないはずだから、今回は真面目に揺らぎから入っていこう」
「そう言えばそうですね」
ということで、俺たちは冒険者ギルドの建物を出て、冒険者たちがダンジョンに向かう流れに乗って歩いていった。
「おい、そこのガキ、高そうな装備に立派そうな剣を持ってるじゃねえか?」
後ろから声がしたので振り向くと、俺の後ろを歩いていたキリアに、どこぞのガラの悪い冒険者が絡んでいた。華ちゃんも俺と一緒に振り向いたのだが、そのまま片手を上げようとしていた。どんな魔法であれ華ちゃんの攻撃魔法は人に向かえば必殺なので、俺が早めに前面に出ないといけない。華ちゃんとキリアは武器を腰に下げているが俺だけは今のところ手ぶらだ。
如意棒を取り出して俺の実力を見せてやっても良かったが、ここはアレのご利益が使えるか試してみようと思い、キリアを後ろに引いてから、俺は男に向かって一歩前に出て、
「おい、お前。子どもに向かってなに粋がってんだ?」と、軽めに挑発してやった。
「なんだ、てめー?」
男がそう言った時、男の連れらしき冒険者がしきりに男の袖を引いて『おい、止めておけ、マズいぞ』とか言っていた。
「子どもだと思って舐めてるみたいだが、お前、一心同体って聞いたことないか? 俺たちがその一心同体の二人で、この子は今日からうちに入った新メンバーだ。
俺の胸に下がったこのカードが目に入ってなかったようだが、よーく見せてやろう!」
そこで俺は首にかけていた金色のカードを首から外して、男がよく見えるよう片手で持って突き出してやった。世が世なれば、おれは助さんだ。
俺の隣りに立っている格さんはなぜか顔を背けていた。周囲を警戒しているのだろう。ナイスフォローだ。
「ゲッ! Aランク! ヤヴァい」
男は連れの冒険者と二人で回れ右して反対方向に駆けていった。ちゃんと金色カードにはご利益があった。
「キリア、妙なヤツに絡まれても心配することはないし、おそらく、今のお前でもさっきの男より強いと思う。
そこらへんはまだ実感がないだろうが、いずれ実感すれば、ああいった手合いにひるまなくなるからな」
「は、はい!」
俺も華ちゃんも付いているから、少々キリアが意気込んで空回りしても、キリアを危ない目には合わさないから大丈夫だろう。
「よし。それじゃあ、いこうか」




