第142話 キリア、冒険者デビュー1。
子どもたちへのお土産も買ったし、台所用品も買った。素材も補充できたしそろそろ屋敷に戻るか。
「華ちゃん、今日はこんなところかな?」
「そうですね。はるかさんは外出中だし、新しい機械の使い方でリサさんたちが苦労しているかもしれませんから早めに帰りましょう」
華ちゃんが俺の手を取ったところで、一度辺りを見回し『転移』
この、転移とかアイテムボックスの出し入れの時、周囲を気にするのは既に癖になっているのだが、これも一種の職業病なのだろうか?
俺たちは屋敷の居間に現れたのだが、居間には誰もいなかった。台所の方から声が聞こえてきているので、みんなで昼食の準備をしながら新しい器具を使っているのだろう。台所で新しい器具と言っても、冷蔵庫と換気扇、それに水道くらいなので、考え過ぎか。
「使い方が難しそうで、一番使うことが多い洗濯機の講習会を開いたらどうだろう? 乾燥機が付いて天気に関係なくいつでも洗濯できるわけだから、今日の昼からでもいいんじゃないか?」
洗濯機をちょっと見たところボタンが沢山ついていたようだから俺には無理なので、講習会の先生は誰がするとは何も言っていないが、華ちゃんなら何とかしてくれるだろう。という心の中での丸投げである。
「無茶なことをしない限り、子どもたちでも危なくないし、みんなにちゃんと教えた方が良いですよね。昼からわたしが先生になってみんなに教えます。その前に、説明書を」
自衛隊の隊長さんが置いていった説明書の束は居間の棚の上に置いているので、その中から洗濯機の説明書を見つけて華ちゃんに渡しておいた。
しかし、華ちゃんは俺が口に出さない事でもちゃんと察してくれるよな。まさに『一心同体』の名に恥じない以心伝心だ。
いやー、華ちゃんがうちに逃げ込んできてくれてほんとに良かった。
一心同体で思い出したが、今度キリアを連れてダンジョンにいってみないとな。ワ〇クマンスーツは華ちゃんのワークマ〇スーツの型を縮めればいいだけだし、革鎧も一緒だ。あとはヘルメットだが、すこし面倒でもミスリルのヘルメットも作ってやろう。
武器は何を持たせるかだな。
俺の手元に残っているスキルブックは、
盾術×1
体術×1
斬撃武器×2
武器類は
ダガーナイフ×1
長剣×2
メイス×1
ラウンドシールド×1
タワーシールド×1
キリアでは体術スキルを取ってガチの殴り合いはないだろうから、長剣と盾を持ったファイタータイプとして育てる以外ないな。スキルブックの斬撃武器を2つと盾術を使えば、そこそこのファイターになるだろう。何もしなくても俺たちと一緒に行動していれば、武器や防具も強くなるだろうしな。
これでスキルブックの在庫が体術だけになるから、もう少し補充したいところだ。明日からキリアを連れてダンジョンを探索するか。南のダンジョンの方は勇者チームから一人脱落しているから、連中のダンジョン探索は捗っていないずだ。連中に出くわす可能性は低そうだが、あのダンジョンはモンスターが極端に少ないからあまり面白くないよな。
そう考えると、まずは北のダンジョンにいってある程度キリアを鍛えてから、南に行ってもいいな。よし、明日は北のダンジョンにいってやろ。潜る前にキリアを冒険者登録して、それからだ。ケイブ・ウルフが2、3匹でも見つかればおいしいし、そうすればキリアも初日からBランクだ。
明日のことを考えてソファーに座っていたら、エヴァがやってきて、食事の準備ができたと教えてくれた。
洗濯機の説明書を見ていた華ちゃんと一緒に食堂に急いで席に着き、
「いただきます」「「いただきます」」
昼食を食べながら、
「台所用のフライパンと鍋を買ってきた。特殊な加工がされているので食材がくっつきにくいはずだ。火の強さは中火までらしいので、強い火を使う料理なら今までのフライパンや鍋を使ってくれ。台所に置いておくから」
置いておくからと言った時には、アイテムボックスから台所の調理台の上に鍋セットとフライパンセットを出しておいた。じゃないと忘れてしまうからな。
「次は、4人の勉強のために机を用意した。もちろん椅子も一緒だ。
4人の部屋に入れてしまうと部屋がかなり狭くなるだろうから空いている部屋を一つ勉強部屋にして、そこに置いておくからな」
「「はい。ありがとうございます」」
「ついでに電気で光るライトも用意したから、机の上に置いておく」
居間やこの台所に置いてあるスタンド型のライトを想像したのか、子どもたちがきょとんとした顔をしたので、
「見ればわかる」で、済ませておいた。
「それで、脱衣所の先に置いてある機械だが、あれは洗濯する機械だ。食事が終わったら華ちゃんがアレの使い方をみんなに教えるからな。よく聞いて覚えるように」
「「はい」」
食後のデザートを食べ終わり、みんなで片付けを始めたところで、華ちゃんは、説明書を見ながら洗濯機を確認すると言って、説明書を置いていた居間に向かった。
俺の方は2階に上がって、空き部屋に4人用の机と椅子を置いてやった。空き部屋だったがちゃんと掃除してあったのは言うまでもない。
椅子にはビニールが張ってあったので引きはがし、ライトは箱から出して机の上に並べておいてやった。
部屋の中にはコンセントが何個所も付いているのでいつでもライトを点けることができる。
俺がちょうど最後のライトを箱から出して机の上に置いたところで子どもたちが扉の開いていた空き部屋の俺を見つけてやってきた。
「ここが、今日からお前たちの勉強部屋だ。
今日は本棚を買い忘れたが、そのうちな。今のところは机の上に置くとか引き出しに入れていても大丈夫だろう。
どの机を自分の机にするのか決めて、椅子に座ってみろ」
窓に近いところから、壁向きに机を順に並べたのだが、奥から、エヴァ、オリヴィア、キリア、イオナの順になったようだ。
「机が決まったら、机の上のライトから出てる紐の先を壁についてるコンセント、これだ。
コンセントに突っ込んでくれ。ちゃんと突っ込まないとだめだからな」
「それでいい。
そしたら、機械の台になってるところについている白い出っ張りを押してみろ」
4人がライトのスイッチを押したらライトが明るく光った。
「明るい」
「まぶしいくらい」
「もう一回押したら、明かりが消えるからやってみろ」
ちゃんとライトが消えた。
「もう一回押して、明かりを点けて、白い出っ張りの横の銀色の丸い出っ張りをどっちでもいいから回してみろ」
「もっと明るくなった」
「暗くなっちゃった」
「今のは明るさの調節だから、自分がちょどいいと思うところに合わせておけばいいだろう」
「「はい」」
「そういう感じだ」
そう言えば国語の授業にはリサも出席したのを思い出したので、もう一セット用意してやった。
「いまだした机はリサの机だから、あとでリサに教えてやってくれ。
それじゃあ、華ちゃんが脱衣所で待ってるはずだから、ライトを消して、脱衣所へいってよく話を聞くんだぞ」
「「はい!」」
四人が揃ってライトを消して駆け足で部屋を出ていき、階段を下りていった。




