第138話 夕食はソーメン
屋敷の現代化大改修が終了し、子どもたちは大はしゃぎで屋敷の中を探検して回っていた。
これから夕食の準備は大変なので外食しようと思ったが、どこにいこうか迷っているところだ。
「華ちゃん、はるかさん、今日の夕食は何食べたい?」
どこかの主婦のような質問をしてしまった。
「そうですねー。ソーメンなんてどうでしょう?」
「たしかに。そう言われると食べたくなるが、どこかソーメンのうまい店知ってる?」
「さすがにわかりませんが、麺さえあれば簡単にできますから」と、華ちゃん。
「華ちゃん、ソーメン茹でることできるの?」
「説明書通りに茹でれば簡単と思いますけど。でも、ソーメンだけってわけにはいきませんから、ちょっと厳しいかな」
「麺もあるし、天ぷらもあれば、ツユの素もあるよ。
あと、キュウリさえあれば十分かもしれない。
華ちゃんがソーメン担当してくれるんだったら、今日はソーメンにしよう。
俺は、向こうのスーパーにいってキュウリを買ってくる。他に何か必要なものはないかな?」
「あとは、ショウガやミョウガ?」と、はるかさん。
「トマトもおいしいかも」
俺の今の格好は、自衛隊を送り迎えした関係で向こう用の服だ。
「じゃあ、ちょっといって買ってくる」
そう言って、いつものスーパーに転移した。
さっそく俺は買い物カートを押して野菜売り場に回り、先ほど聞いた野菜を買っていった。
「キュウリ、トマト、えーとあとなんだっけ?」
メモを取っていなかったので、あと何種類かあったはずだが思い出せなかった。仕方ないので野菜売り場の端から端まで見て回ったところ、ショウガを思い出すことができた。ショウガ繋がりでなんとかミョウガも思い出せた。
ついでにほとんどなくなっていた牛乳、バターも仕入れ、ついでに生玉子も買っておいた。
生玉子を買ったことで、冷蔵庫があったことを思い出し、ついでとばかりに麦茶のパックを買ってしまった。
一通り買い終えた気になった俺だが、
「ソーメンとなると、ガラスの器だよな」
そう思い至り、食品類のレジを済ませて、人目につかぬようアイテムボックスに収納してから、食器売り場のある3階までエスカレーターで上がった。
食器売り場で涼しげなガラスの器と、ガラスのつゆバチを買った。これでラシくなるはずだ。
これ以上買ってしまうと、明日華ちゃんと買い物をする予定が狂ってしまうので、それだけ買ってレジを済ませて、俺は屋敷に戻った。
「色々見てたら少し時間を取ってしまった。
それじゃあ、さっそく準備しよう。人数が多いから、麺の方ができ上ったら俺が収納しておくよ。そうすれば伸びないから」
華ちゃんとはるかさん、それにリサが俺の帰ってくるのを待っていたようで、さっそく4人で台所に移動した。男子厨房に入って活躍するわけではないが、荷物は届けないといけないからな。
俺はさっそく調理台の上に、買ってきた野菜類と生玉子、それにソーメンとつゆの素を出しておいた。ソーメンは、揖保○糸の中でも最高級品ということで買ったものだが、果たしておいしいものかどうかはわからない。
「あっ、このソーメン、うちで買っているソーメンと同じです」と、華ちゃん。
「これって、すごくお高いソーメンじゃ?」と、はるかさん。
はるかさんは庶民感覚があったようで何よりである。
「高ければいいってものじゃないかもしれませんが、試しに買ってみただけなんですよ」とか、言ってみたところ、
「ソーメンだけは、高ければおいしいと言っていいようです!」と、はるかさんに言われてしまった。俺も一つ賢くなったし、ちょっと高いかもしれないと思って買ったソーメンだがこのソーメンはハズレでないばかりか、大正解だったようなので良かった。
「玉子は錦糸玉子を作ればいいと思ったんだ」
「錦糸玉子もいいですね。でもわたしじゃ無理だから、はるかさんできます?」
「わたしも無理。リサさん、玉子を薄く焼いてそれを千切りにできますか?」
「大丈夫です」
さすがはリサだ。
「あと、ソーメンにはガラスの食器と思って器とつゆバチも買ってきた」
「それでしたら、洗い場に置いてもらえますか? 洗いますから」
「了解」。人数分洗い場に出しておいた。
「この水道?ってほんとうに便利ですね」と、食器を洗いながらのリサ。
そうだろうそうだろう。
俺は最後に、以前買ったままで出す機会のなかった天ぷらを出しておいた。
「天ぷらおいしそう。
これがあると、ソーメンが豪華になりますねー」と、はるかさん。
食器を洗い終わったリサが天ぷら用にお皿を出してキッチンペーパーを皿の上に敷いて、その上にトングを使って天ぷらを並べていった。長箸もあった方が良かったな。
「それじゃあ、麺をどんどん茹でていきましょう」
4つの鍋に水を入れて、ガステーブルに並べていく。4つ穴のガステーブルの本領発揮だ。
すぐにガスに火が着き、鍋の水を沸かし始めた。華ちゃんは時計を持っていなかったが、はるかさんは腕時計をしていたのでタイムキーパーだな。
麺が茹で上がる間、リサが素早く野菜を切っていく。俺は今までリサの包丁さばきを見ていなかったので知らなかったが、凄いものだ。正確に野菜の千切りができていく。ショウガはおろし金がないかと思ったがちゃんと台所に用意されていた。日本のものとは少し形は違うがよくおろせそうだ。
当たり前だがトマトだけは千切りではなくざっくり切っている。まさに、匠の技がそこにあった。
鍋のお湯が煮立ってきたところで、華ちゃんは鍋の中に二束ずつ20秒間隔ほどでソーメンを順に投入していった。
タイムキーパーの腕の見せ所である。
……。
2分経過してはるかさんが順番に『時間です』と告げていき、華ちゃんがゆで上がった麺をお湯ごとザルに空け、すぐに水で冷やしていった。ある程度麺が冷えたところで俺がアイテムボックスに収納していく。夕食の前に器に移すだけだ。
華ちゃんとはるかさんが一生懸命麺を茹でていたので言い出せなかったのだが、麺は一束ゆで上げてくれれば、それをコピーすればいいだけだった。麺を茹でているときに気づいたんだから仕方ない。
2巡目、華ちゃんが鍋に水を入れ始めたところで、
「華ちゃん、麺はその程度でいいよ。麺が足りなくなればコピーするから」と、オブラートに包んでコピーできることを教えてやった。
華ちゃんも一束茹でるだけでよかったことを察したのか、
「そうでしたね」と、笑っていた。
リサの匠の技も終了したので、今度は錦糸玉子だ。
大き目のフライパンをガステーブルの上に置き、火を点けてしばらく熱したあと、油を垂らし、その後、玉子を2つ割り入れて、木のヘラを使って玉子をかき混ぜながら広げていき、すぐにフライパンを火から下ろした。それだけで、薄焼き玉子ができたらしい。
でき上った玉子の薄焼きをまな板の上に広げたリサが、
「ご主人さま、これだけでは足りないと思いますが、どうしましょう」
「千切りにしてくれれば、それをコピーしちゃうから、薄焼き玉子のはそれだけでいいよ」
「はい」
でき上った錦糸玉子をコピーして皿に出しておいた。これくらいの量があれば十分だろう。
後、必要なのは、麺つゆだ。つゆの素は買っているのだが、容器に書いてあるように水で薄めてしまえばいいのか?
「水で薄めて使えばそれで十分です」
とのことでした。
つゆバチにつゆの素を入れて水で薄め、それを冷蔵庫の中に入れていく。
あっという間にソーメンの準備が終わってしまった。
ソーメンの器は冷たい方が良いから錬金工房で冷やしてやろうと思ったが、せっかく冷蔵庫があるので、
「ソーメンの器は冷蔵庫で冷やしておくから」と、言って冷蔵庫の中に4枚ずつ重ねて入れておいた。
ついでに、製氷機用に水も入れておいた。でき上った角氷の貯まる引き出しにもある程度氷を入れておいた。




