第134話 屋敷の現代化改修2
屋敷の現代化改修の初日は測量などの下準備だった。それも半日で終わった。
午後からは華ちゃんと、こちら側のダンジョン、日本側のダンジョン間を揺らぎを通して電線を通すことができるか確かめた。結果は、予想に反して電線を通すことができた。このことですぐにどうこうできることは何もないのだが、将来的にはこのニューワールドに、日本から電線を引き、インターネットなども使えるようになるかもしれない。
夢を膨らませながらその日も就寝前に金のサイコロを錬成したら、久しぶりに、ピロロンが鳴ってしまった。
『錬金術スキルの熟練度が一定値に達しました。スキルポイントが1付与されました。残スキルポイントは25です』
ここのところ、この辺りでチョロチョロとスキルポイントを使っているので、なかなか増えていかない。目標は60ポイントだ。60ポイントたまったら、最高レベルが10だとして魔法レベルを一気に1から10まで上げるんだ! とか考えていたらそのうち眠っていた。
翌日。
まずは、華ちゃんとポーションの配達の終わった子どもたちを楽園に届けておいた。広場に広げたブルーシートの上に飲み物やお菓子なども置いてきている。昼には俺も顔を出して、ハンバーガーにはなるが昼食を届けるつもりだ。
午前8時55分、昨日同様、防衛省の駐車場に転移した。
今日はトラック3台で、1台には小型のバックホウと資材が積まれ、残りの2台には幌が掛けられていた。2台のうち1台に作業をする自衛隊員が乗車し、もう一台に資材が積まれているのだろう。
D準備室からは、今日は野辺副室長だけが駐車場に立っていた。俺は野辺副室長と作業隊の隊長さんにあいさつをして、すぐに屋敷の裏庭に3台のトラックごと転移した。
裏庭に転移したトラックから、すぐに自衛隊員たちが降りて、まず、トラックから小型のバックホウが自分で地面に下りて、井戸から敷地の隅に向かって溝を掘り始めた。
他の隊員たちは、資材をトラックからどんどん運び出していく。トラックの中には発電機が積み込まれているようで、トラックの荷台からは何本かケーブルが降ろされた。
まず、井戸の手押しポンプが取り払われた。
セメントの練り箱が置かれ、ビニールに入ったセメントと砂を入れトラックから伸ばしたホースから少量の水を入れて隊員がスコップでセメントをこね始めた。
その横で、木枠が組まれ、ビニールに入った砂利が敷かれ、その上に練り上がったセメントがスコップで流し込まれた。セメントを流し込み終わったところで、セメントの中にボルトが真上を向くよう4本突っ込まれた。
30分ほどで木枠が取り払われて、セメントの上にポンプらしきものが置かれ埋め込まれていたボルトとナットで固定された。後で聞いたが1時間で完全にセメントは硬化するそうだ。
セメントが固まる間に電動のカッターで塩ビパイプが切断され、先っちょを太くした穴だらけのパイプに繋ぎ、それが接手などを介して、モーター一体型のポンプにつながった。ポンプからもパイプが伸ばされて、バックホウで掘られた溝にパイプが敷設された。ポンプにはカバーが掛けられた。
バックホウは今度は方向を変えて台所の裏に向かって溝を掘り始め、その後は風呂場の裏辺りに向かって溝を掘り始めた。
裏庭がうるさくなったので、屋敷の中からはるかさんが出てきて昨日と同じように、作業の隊長さんと話を始めた。今屋敷の中にいるのはリサだけだ。この状況ではもちろん仕事などできないので、昼食ははるかさんと一緒に楽園に連れていく予定だ。昼食時だれも屋敷にいなくなるが、相手は自衛隊員なので心配はないし、そもそも貴重品など屋敷の中には何もない。
井戸水関係のパイプが屋敷まで延ばされたところで今度は、屋敷の中に作業員が入っていき、中から壁に孔を空けて、外側からパイプを通した。台所の中からも、風呂の中からもバタバタと音がしているので作業ははかどっているのだろう。
みていたら、風呂用の湯沸かしタンクの下にある薪の焚口の横が掘り返され、そこにポンプの時と同じように木枠が作られて、ビニール袋に入った砂利が2袋ほど入れられて均された後、隣で練られていたセメントが流し込まれた。これにもボルトが4本差し込まれた。
隊員たちはセメントが乾く間、パイプを切ったり、パイプにネジを切っていたが、30分ほどして、トラックから大きな荷物を2人がかりで運んできた。運んできた荷物はどうもガス湯沸かし器のようだ。
包装から取り出されたガス湯沸かし器がセメントの上に置かれ、ポンプの時と同じようにセメントから出ていたボルトにナットでしっかり固定され、配管がされていった。
どうも、今回の改装では、ガス生活ができるようになるようだ。ガスは当然プロパンだろうから、俺が運搬しないといけないがそれは織り込み済みのようだ。というか、こういった諸々は全てはるかさんが決めたものなのだが持ち主に相談なく、よくやってくれた。ありがたや。さすがは理研の研究員だ。作業計画に抜かりはなさそうだ。
水系統と思われるパイプは塩ビっぽいパイプとプラスチックのパイプが使われていたが、こちらのガス器具には、金属パイプが使われているようだ。いろいろ決まりがあるんだろうな。
そういった作業の間、バックホウはトイレの裏手に回っていき、かなり大きな穴を掘りそこから、下水溝に向かってまた溝を掘り始めた。
かなり大きな穴は、浄化槽のような気がする。今回のトラックに浄化槽は乗っていなかったと思うから設置は明日だな。
俺が半分呆れながら作業を見ていたら、隊長さんがやってきて、
「これで、今日予定している外回りの作業は完了しました。
1時間ほど休憩して、それから屋敷の中の配管配線をしてきます」
「よろしくお願いします」
時刻はまだ11時30分。
隊員たちは屋敷の庇の下に入っていわゆるミリ飯を食べ始めた。
俺は、隊長さんに、
「冷たいものを用意しているので、お飲みください」
「いえ、休憩中ですが勤務中ですので、お気遣いだけで結構です」と断られてしまった。だれもチクりはしないんだから気にしなくていいのにと思ったが、やはりそんなところも自衛隊員らしさなのだろう。




