第114話 ピアノとスキルブック
2022年10月25日、18:20
107話でピアノを購入時、トラックでの運搬後の調律が不要である。というそれらしい理由をでっちあげておきました。
はるかさんを見送った俺は、駅前を歩きながら人ごみに紛れて屋敷の居間に転移した。
子どもたちは台所に手伝いにいっているそうで、居間には華ちゃんだけがいた。
「木内さんはどうでした?」
「池袋駅前に転移してそこで別れた」
「そうでしたか」
「うん。
さて、せっかくだから、早いところピアノを据え付けちゃおう」
居間の隅に、分厚い段ボールで梱包されたピアノ置いてみた。床を補強した方がいいか迷ったが、まっ、良いだろうと思い、そのまま床に置いてやったのだが、少し心配になって第一人者である華ちゃんの意見を聞いてみた。
「床は大丈夫かな?」
「床板はしっかりしていますし、柱なんかを見てもかなり太いものを使ってますから、床下もしっかりしているんじゃないでしょうか」。思っていた以上に切り込んだ評価だった。
「床板は木だから、ピアノの底のキャスターでへこまないよう、鉄板でも敷いておくか」
「それなら全然平気になると思いますが、キャスターの下に敷くインシュレーターって包みに入っているかも知れません」
「インシュレーター?」
「ピアノのキャスターの下に置くゴムとかプラスチック製のお皿で、置いておくとキャスターが動くこともないし、床もへこまず、少しだけですが防音効果があるそうです」
「ふーん。梱包を解体して中に入ってないか見てみる」
俺は、ピアノの梱包を床の上に置き、先日ダンジョンで手に入れたダガーナイフで解体していった。しかしこのダガーナイフだが、よく切れる。
華ちゃんが見守る中、梱包を解体し、中から黒いピアノが現れた。残念ながらインシュ何とかは入っていなかった。
梱包資材の段ボールと樹脂テープはそのまま素材ボックスいきだ。裸になったピアノはいったんアイテムボックスに収納していつものようにコピーしておいた。
「包の中にはインシュ何とかはなかったけど、それくらいなら簡単にできる。ハズ」
俺は、硬質ゴム製で真ん中のくぼんだお皿のようなものをイメージし錬金工房で錬成してみた。最初はなんだか柔らかかったのでが、2、3回作り直していったら固くなったので、それを4つ作っておいた。
そのあと、ピアノをいったん収納してキャスターに今作ったゴム製のスリッパを履かせて部屋の隅にピアノを排出した。
「これでできあがりだ」
今のところピアノは1台あれば十分なのでオリジナルを床の上に置いて、その後ピアノ用の椅子をアイテムボックスから出して梱包から取り外し、いったん収納して同じようにコピーしてオリジナルをピアノの前に置いておいた。
俺もアイテムボックスを使い慣れてきたせいか、ダンボールを解体したくらいで、あまり肉体仕事をすることなくピアノをセットできたと思っていたのだが、よく考えたら、ピアノの梱包はそのままアイテムボックスに収納できたはずだと気づいた。『修行が足りん!』とだれかに怒られるところだ。
「ちょっと弾いてみてもいいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
華ちゃんがピアノの蓋を開けて立ったまま高音部のキーを素早く叩いた。速い! その後、端から端まで鍵盤を一つずつ叩いた華ちゃんが、
「アップライトの割に音もいいし、ハンマーの戻りもいい。音ズレもないみたいですから今のところ調律は必要ないみたいです。良いピアノですね」
新品なんだから音ズレはないのが当たり前じゃなかったのか? どこら辺が良いピアノなのか俺にはさっぱり分からなかったが、いいピアノだったらしい。
その後、華ちゃんが椅子にちゃんと座ったので、
「華ちゃん、楽譜要る?」と、聞いたら、
「覚えていますから大丈夫です。何年もピアノに触っていないので、指をちゃんと運べないでしょうから、簡単なもので」
その後、華ちゃんがピアノを弾いたのだが、聞いたことがあるようなないような曲だった。なんであれ素人の演奏ではなかった。
「今の曲名は?」
「ベートーヴェンの月光ソナタ第3楽章です。第1楽章の方はよく聞く音楽ですから岩永さんも御存じだと思います」
そう言って、華ちゃんがまたピアノを弾いた。
「こっちは確かに聞いたことがある」
その後も、華ちゃんが何曲か弾いてくれたが、俺からすればプロの演奏だった。
俺は仕入れていた楽譜をピアノの上に置いておいたが、華ちゃんは楽譜を見ることなくピアノをしばらく弾いていた。
俺は生ピアノを気持ちよく聞いていたのだが、風呂の時間だと思いだして居間を後にして風呂の準備をし、そのまま風呂に入った。
風呂から上がって子どもたち用に風呂の準備を終えて居間に入ったら、夕食の手伝いが終わったのか子どもたちがピアノを弾く華ちゃんの周りに集まっていた。
「そろそろ、お前たちも風呂に入れよー」
「「はーい」」
ピアノを弾く手を止めた華ちゃんに、
「華ちゃん、子どもたちも興味津々みたいだったな」
「興味があるってことは、うまくなる可能性があるってことですから楽しみです」
「スキルブックの使い方も分かったことだし、そういったスキルが見つかれば面白いな」
「そうですね」
「午後から色々あったから忘れていたけど、俺も両手武器と打撃武器のスキルブックを使ってレベルアップしてやろう。華ちゃんは打撃武器を使ってみないか?」
「やってみます」
俺はアイテムボックスから、スキルブック:両手武器とスキルブック:打撃武器を2つ取り出してピアノの上に置き、まず両手武器を両手で折った。
折れたスキルブックは手の中で崩れていき、床に落ちる前には消えていた。
「人物鑑定!」
名前:ゼンジロウ・イワナガ
年齢:27歳
職業:錬金術師、転移術師
スキル:錬金術:LvMax、アイテムボックス:LvMax、転移術LvMax、杖術:Lv3、人物鑑定、第2職業選択、オートマッピング、両手武器Lv1
「ちゃんと両手武器Lv1が付いた」
「それじゃあ、華ちゃん」そう言って華ちゃんにスキルブック:打撃武器を渡した。
華ちゃんが渡されたスキルブックを折ったところで、人物鑑定したら、
『スキル:魔術:Lv4、錬金術:Lv1、鑑定Lv1、片手武器Lv1、打撃武器Lv1』となって、これもちゃんとスキルが付いていた。
「同じスキルのスキルブックを壊したら、レベルが上がるか試してみよう。
華ちゃん、残ったこの打撃武器のスキルブックを壊してくれるかい」
「岩永さんはいいんですか?」
「どうせそのうち手に入るからその時で大丈夫。それより、2回目以降レベルアップすることが確かめられればやる気もアップするだろ?」
「分かりました。それじゃあ壊しちゃいますね」
華ちゃんが2個目のスキルブックを壊したところで人物鑑定したら、
『スキル:魔術:Lv4、錬金術:Lv1、鑑定Lv1、片手武器Lv1、打撃武器Lv2』となっていた。
「華ちゃん、ちゃんと打撃武器がレベル2になってた。
俄然スキルブック集めのやる気がでるな」
「そうですね」
「明日からまたダンジョンに潜るぞ!」
「はい」
子どもたちが風呂から上がり、華ちゃんがヘアドライヤー魔法で子どもたちの髪の毛を乾かしたら、夕食の時間になった。
月光ソナタ第3楽章
https://www.youtube.com/watch?v=igaEMSm4fdM




