第113話 木内(きのうち)はるか3
木内女史がいきなり俺に謝ってきたので、何があったのかと聞いてみたら、子どもたちに屋敷を案内されながら俺のことをさんざん子どもたちから聞かされたそうだ。どうも、子どもたちは俺のことを慕っているようで、奴隷とか、ロ〇とか諸々変な想像をしていたことは全部思い過ごしだったと気付いて、俺に詫びたようだ。
木内さんは、俺などと違い正義感の強い人物なのだろう。すぐ反省できて頭を下げることができるということはある種の美徳ではある。これならこれから先、屋敷で一緒に暮らせていけそうだ。
ということで、
「誤解も解けたのならそれで十分です。
木内さん、どこか身体の具合が良くないところとかありませんか?」
「はい?」
「こっちに駐在する前に、身体の悪いところがあれば治しておいた方がいいでしょう。
防衛省に卸しているヒールポーションは少しいいヒールポーションなんですがもうちょっと良いヒールポーションをどうぞ」
そう言って、うちの連中に飲ませたのと同じそれなりに高級なヒールポーションを錬金工房で作って木内女史に渡した。いちおう、スクリューキャップの付いたリ〇D仕様だ。
「これって、1本100万円のポーションですよね?」
「いや、あれよりも効き目は強いはずです。
イオナは以前足が不自由だったんですが、それを飲んだらちゃんと歩けるようになったくらいなので」
「そ、そんなもの飲めません!」
「わたしは錬金術師ですが、この世界で最高の錬金術師の一人のハズです」
なにせ、錬金術レベルがマックスだものな。
「わたしにかかれば、そのポーションを作ることなど造作もないことで、げんに今お渡ししたポーションはさっき話しながら作ったものです。ほら」
そう言って俺は、木内女史に先ほど渡したのと同じヒールポーションを作って手に持ち、木内女史に見せてやった。
「そこまでの人物だったんですか!?」
「人物かどうかはわかりませんが、どうぞ飲んでください。
駐在中に調子が悪くなられたら、それこそ大変ですから」
調子が悪くなればその時ポーションを飲んでも何とかなるだろうが、俺がすぐ近くにいるとは限らないし、もし俺がいなければ手遅れになるかもしれない。
そうだ! 俺が留守の時用に薬箱を作って置いておこう。いいことに気づけた。
「分かりました」
そう言って木内女史はスクリューキャップを回して、一気にポーションを飲み干した。
「どうです? 何も変化を感じなかったら、健康体だった証拠です」
「頭の中がスーっとしたような。体も軽くなりました。
いままで、頭痛と一緒に視野が狭くなったり、手足がしびれることがあったので、そのうち検査しようと思ってたんですが、今の感じだと検査なんか必要ないかも」
「何か脳に異常があったのかもしれませんが、これで少なくとも数年は問題ないでしょう。
とはいえ、わたしは医者じゃないので、検査はいずれ受けた方がいいですよ」
「分かりました。ありがとうございます。
あれ? 目がかすんでよく見えない」
「木内さん、木内さんはコンタクト入れてませんか?」と、横で様子を見ていた華ちゃん。
「入れてます。まさか視力が回復したってことですか?」
「おそらくそうです」
「ちょっとコンタクト取ってみます」
木内女史が右目のコンタクトを外して、
「あっ! よく見える」
次に左目のコンタクトを外して、
「凄い。視力が回復しちゃいました。
もうコンタクトはいらないかも知れないけど」そう言って、木内女史はコンタクトをケースに仕舞った。
「なんだか10代に戻った気がします。
岩永さん、本当にありがとうございます」
「良かったですね。体も軽くなったということだから、どこか悪いところがあったかもしれませんが、もう大丈夫でしょう。
そろそろ、日本に送りましょう。わたしの知っているところまでしか送れませんが、木内さんはどちらにお帰りですか?」
「練馬になります」
「練馬だと、池袋かな?」
「はい。そうです」
「それじゃあ、池袋に。
わたしの手を持ってくれますか?」
「はい」
そう言って木内女史は恐る恐ると言った感じで俺の手を取った。
口に出す必要はないが、いちおう慣れない人を連れていたので「転移」
俺たちは池袋駅の西口に転移した。たくさんの人がいたが俺たちに注意を向ける人はいないようだ。
「それじゃあ、木内さん、来週の月曜、あの会議室に荷物を持ってきてください。荷物ごと向こうに運びますから」
「持っていく荷物の重量制限とか体積制限とかはどうなっていますか?」
「文字通りいくらでも構いません」
「分かりました。それでは来週。
あと、わたしのことは、はるかと呼んでください」
「それじゃあ、はるかさん」
「善次郎さん、さようなら」
そう言って木内女史あらためはるかさんは池袋駅の中に入っていった。




