第111話 木内(きのうち)はるか2
防衛省の会議室から、木内女史を連れて屋敷の玄関前に転移した。時刻はまだ11時だ。
「木内さん、ここがわたしたちの家です」
木内女史は初めての転移だったせいかしばらく呆けていたが、何とか起動して、
「話には聞いていたのですが、今のテレポーテーションにはビックリしました。
凄い能力ですね。D関連室の方から岩永さんは錬金術師だと聞いていましたが、今のテレポーテーションも錬金術の一種なんですか?」
「いや、これは転移術というまた別のスキルです」
「そんなスキルもあるんですね。
それにしても立派なお屋敷ですね。これをわずかな期間で?」
「中古で購入しました。
中に入ってみましょう」
玄関を入ると、子どもたちは昼食の支度を手伝っているようで台所の方から声がわずかに聞こえてきている。
「ただいま。お客さんを連れてきた」
台所に向かって大きな声で声をかけたら、子どもたちがバタバタと走ってやってきた。
「「ご主人さま、おかえりなさい」」「「ハナおねえさんおかえりなさい」」
「「ただいま」」
「リサねえさんは、いま料理で手が離せないのでもう少ししたらやってきます」と、エヴァ。
「お客さんを連れてきた。
今日は昼食を断ってたから俺たち3人はハンバーガーだな」
先に子どもたち4人を木内女史に紹介していたら、リサがやって来たので、リサも紹介した。
そのあと「木内はるかさんだ。こっち風に言うと、ハルカ・キノウチさんだ。
週末あたりになるのかな?」
「はい」
「次の週末からこの屋敷に住むことになる。みんなよろしく」
「「よろしくおねがいします!」」「よろしくお願いします」
「リサ、いちおう昼食はここでとるけど、おれたち3人の分は用意していないだろうから、俺たちはハンバーガーで済ます。気にしないでいいからな」
「3人分なら今からでも間に合います」
「それなら、頼む」
「はい。それでは」
そう言ってリサは台所に戻っていき、子どもたちもリサについていった。
「岩永さん、あの子どもたちはご主人さまと岩永さんのことを呼んでいましたが」
「あの子たちも、リサも俺が奴隷商館から買ってきた奴隷なんだ」
「ど、奴隷!?」
「そ。まあ、住み込みのお手伝いさんのようなもんだな。俺から見ると給料を毎月支払う代わりに一括代金を支払ったようなものだ」
「はあ」
奴隷という言葉のインパクトが強すぎたのか、木内女史は俺の説明に、どうも納得できないようだった。
今度は華ちゃんが木内女史に、
「木内さん、あの子たちはもともとは孤児だったんです。それを奴隷商館で衣食住付きである程度の教育をして、裕福な人に預けているんです。言葉の上では奴隷といっていますが、福祉的な意味合いが強い制度のようです。子どもたちは成人する18歳で奴隷から解放される契約です。
リサさんの場合はどういった理由かわかりませんが、奴隷商会が借金の肩代わりをして、その借金分を働いて返すということらしいです。借金の量で働く期間が増減しますが、その期間が明ければ彼女も奴隷身分から解放されます」
「……」
華ちゃんの説明でも木内女史は考えているようだ。人権がどうのとか言い出して、郷に入っても郷に従えないようなら、今回の件はなかったことにするしかないな。
「奴隷制度については理解しましたが、岩永さんが買った奴隷は全員女性。そのうち4人は10歳くらいに見える女子。まさか、ロ〇?」
「いやいや、子どもたちを買ったのは女の子だからってわけじゃないし、リサは料理を作ってもらうことが目的だったから女性を選んだだけだから」
「分かりました。わたしはこう見えても20代ですから」
「そ、そうなんですね」
今度は俺の方が分からなくなってきた。
その後、昼食の準備が整い、食堂で食事が始まった。
テーブルは8人掛けなので、ピッタリだ。お客さんの場所は俺の正面にして、今まで俺の向かいに座っていた華ちゃんたち3人に横にズレてもらった。
テーブルに並んでいたのは、野菜サラダ。野菜のポタージュスープ。ベーコン入りのパスタだった。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます!」」
少し遅れて、木内女史が「いただきます」といって、食事が始まった。
野菜サラダにはテーブルの上に置いてあったドレッシングの容器を各自で振って、それからかけている。ドレッシングはスーパーで買ったものを容器ごとコピーしたものなので商品名やメーカー名の付いた包装もそのまま付いている。
テーブルには他に醤油さし、ウスターソースの入ったプラスチック容器なども置いている。はっきり言って日本の家庭の食卓だ。
木内女史も黙って食事をしていたし、俺も黙って食事をしていたので、ほとんど会話のないまま食事が終わった。
「それじゃあ、今日もアイスだ!」
俺のひとことでテーブルの雰囲気が一変した。みんなもう次のアイスは決めているようだったので、アイスを乗っけたコーンをどんどん配ることができた。
「木内さん、サーティー〇ンのアイスがあるんですが何食べます?」
「えっ!? えーとそれでしたら抹茶で」
「どうぞ」
そう言って抹茶アイスを木内女史に渡し、俺も同じ抹茶アイスを手に持った。
子どもたちは幸せそうにアイスを舐めている。
「おまえたち、後片付けが終わったら屋敷の中と敷地の中を木内さんに案内してくれ。
木内さん、午後からは子どもたちが案内するので、屋敷の近代化改装を念頭に見て回ってください」
「「はい」」「は、はい」
「華ちゃん、ピアノの受け取りにはちょっと早いから、俺たちは先に楽器屋にいって楽譜でも探していよう」
「はい」
俺と華ちゃんは日本から帰ってきて着替えていないので、木内女史を屋敷に残し、そのまま楽器屋の前に転移した。
楽器屋に入った華ちゃんは、並んでいた楽譜を数冊手にして、
「何冊か入門用のスコアがありましたが、本屋さんにもピアノの入門用の本があるから、そこの本屋さんにいってみましょう」
文脈から言ってスコアって楽譜のことのようだ。いままで知らんかった。
いちおう華ちゃんの手にした楽譜を購入し、俺たちは先週コミックを買った本屋に向かった。
勝手知ったるなんとやらで、華ちゃんはスタスタと本屋の中を進んで迷わず楽譜なんかを置いてある書棚に到達した。小学校でピアノを止めたというのはうそだったのか? というほど迷いがなかった。
そこで、華ちゃんがそれなりの楽譜と入門用の本を選んだのでそれを持って会計しようと思ったが、コミックを週末全部読み終わっていた俺は、華ちゃんに、
「コミックを買っていかないか?」
と、提案したところ、二つ返事で、
「買いましょう!」と力強く返されてしまった。
今回買ったコミックは、SFもので、宇宙生命体により壊滅した地球を脱出した宇宙船がその生命体と戦いながら新天地を求めていくというものだった。全15巻。これも店頭には全巻揃っていたわけではなかったので店員さんに言って倉庫から持ってきてもらった。
華ちゃんは、少女漫画に興味があるみたいだったので、音楽もののコミック全25巻を買うことにした。こっちも全巻倉庫から持ってきてもらった。
SFもののコミックと音楽もののコミックの扱いの差はお許しください。




