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第110話 週明けの会議2、木内(きのうち)はるか


 ポーションを卸し終えて席に着いた俺は、ダメもとで要望をいってみた。


「わたしは向こうの世界で屋敷を買って住んでいるんですが、井戸は手押しポンプですし、トイレ関係はその延長線。いちおうガソリン発電機は導入したんですが、素人なもので。

 できれば、屋敷の近代化に力を貸していただきたいのですが?」


「岩永さんのおっしゃることは理解できますし、われわれも協力できることは協力を惜しみませんが、この世界の文明?そういったものをむやみに異世界で使っても良いのでしょうか?」


「魔法が普通にある世界ですから、少々のことは魔法でごまかせると思います。

 それに、わたし自身むこうの世界の人たちとそれほど親しくしている訳でもありませんし」


「わかりました。

 具体的な要望を挙げていただければ、自衛隊から施設隊を派遣しましょう。その際隊員や機材の異世界との往復はお任せしますがよろしいですよね」


「もちろんです。車両に乗っていただければ一度に向こうと行き来できますから任せてください。要望書は早ければ来週、遅くともその次の週ポーションをお持ちした時にお渡しします」


 今の話を聞いて華ちゃんが嬉しそうな顔をしていた。


「岩永さん、当方の頼みを聞いていただけませんでしょうか? 先ほどの案件のバーターというわけではありませんのでもちろん断っていただいて結構です」


「どういった頼み事でしょうか?」


「理研の木内きのうちはるかさんですが、せっかく異世界語が使えるようになったわけですので、向こうの世界に常駐して向こうの世界について調査報告させたいのです。滞在期間は6カ月を予定しています。その際木内さんは理研から防衛省うちに出向という形になります」


「常駐ということは、うちに住む?」


「はい、そういうことでお願いします。もし、部屋数などに問題があるようでしたら、宿泊先を見つけていただければ」


「向こうは何もないところだから退屈するかもしれませんが、屋敷の部屋はまだ空いているからうちに来ていただいて構いませんよ」


 そう言ったら、木内きのうち女史が俺に頭を下げた。本人の希望だったのか?


「華ちゃん良いよな?」


「もちろんかまいません。もともとわたしは居候ですし」


 華ちゃんは成り行き上うちの居候になったが、俺と華ちゃんはいまではれっきとした『一心同体』のパートナー同士だ。居候は余分だろう。


木内きのうちさんのニューワールドでの滞在費用として月額100万円を岩永さんの口座に振り込ませていただきます」


 今となればヒールポーション1本分だ。貰う必要など何もないが、筋を通す必要はお互いあるだろうと思いうなずいておいた。


「それと、これは防衛省内いちがや用のIDカードになります。お二人の場合、おそらく無用でしょうが、構内を移動する場合は首からお下げください」


 田中事務官が立ち上がって首掛けの紐の付いたカードケースを俺と華ちゃんの机の上に置いた。中に入っているカードの顔写真は最初の会議の時のものだろう。


 カードに書いてあったのは、


『防衛省情報本部D関連室 特別研究員 岩永善次郎』


 当たり前だが、華ちゃんのは、名まえが三千院華になっただけで同じだ。


 そのあと、川村室長がメモを見ながら、いろいろ説明してくれた。


「それと、ダンジョンに関する最新の情報ですが、自衛隊は大まかな偵察を終え、徐々に派遣人員を減らしています。来週中には全てのダンジョン内に侵入中の部隊はいったん撤収する見込みです。その後は、ピラミッドの外での監視ということになります。

 自衛隊の当面の動きは以上です。

 つぎに、ダンジョン生物について、いくつかの報告が上がっています。

 まず一つは、見かけ上地球の生物に似たダンジョン生物には消化器官らしきものはあるものの排泄器官はありませんでした。また生殖器官もなく、従って雌雄もありません。

 もう一つは、ダンジョン生物の体内にはウィルスを含め一切の微生物が存在しないことが判明しています。もちろん寄生虫なども存在していませんでした。

 また、ダンジョン生物の組織を分析したところ、人の必須栄養素をすべて含んでいることが判明しています。完全栄養食そのものと言っても良いでしょう。これは動物型のモンスターに限らず捕集した全てのモンスターに共通していました」


 日本に現れたダンジョンに棲むモンスターがニューワールドのモンスターと同じなら、モンスターの肉は高級食材だという話もうなずける。21世紀は昆虫食などという話があったが、少なくとも日本ではモンスター食になりそうだ。そのためには大量の冒険者が必要になるが、その辺りはどうなんだろう?



「私設の冒険者ギルドが沢山できて、ダンジョンへの一般開放を求めているとニュースなどにあったんですが、その辺りはどうなんでしょうか?」


「火器類の使用はもちろん認められませんが、刀剣類、鈍器、投射武器、いわゆる弓矢です。これらを民間人に持たせてダンジョン内で狩をさせることについては与党内で検討中のようです。人気取りという意味で一般開放は有力な手段ですが、人命にかかわることなので保険制度なども考慮しつつ開放に向かった法整備がされるものと思います。早ければ半年後には限定的でも一般開放されるかもしれません。その前に、自衛隊の精鋭で火器を使わずダンジョン内の探索が可能か確かめてはどうかという話も出ています」


「政府の対応とすれば異例の速さですね」


「選挙のためなら。ということなのでしょう。その後のダンジョンがどうなっていくかは最初にダンジョンに入る一般人次第だと思います。最初に入った一般人に早い段階で死傷者が出てしまえば、政府に対して批判が高まるし、その逆に冒険者がほとんど無傷で成果を出せば、ブームに火が着くでしょう」


「ブームになりますか?」


「メディアもそういった論調ですし、今現在、ダンジョンの早期開放を訴える署名が360万筆も集まっているそうですから、ブームになるでしょう」


「そんなに」


「ここだけの話ですが、他国からもわが国のメディアや与野党の複数の政治家に資金が流れているようです」


「防衛省はそういった他国の動きに対して何もできないんですか?」


「監視はしていますが、スパイ防止法もありませんし、われわれには有事を除いて警察権もありませんので監視以外のことは何もできないのが現状です。

 まっ、そんなところです。

 今日はありがとうございました。

 また来週もこの時間でよろしいですか?」


「はい。

 来週、ヒールポーションを2000本、スタミナポーションを2000本お持ちします」


「よろしくお願いします」


「そうだ、木内さん」


「はい?」


「時間があるようなら、これからうちを見てみますか?」


「よろしいんですか?」


「もちろんです。あっちの状況を自分の目で見れば、必要なものが見えてくるでしょうから、うちに駐在としてくるときの参考になるでしょう。夕方までには日本にお返しします」


「それでしたらお言葉に甘えて。

 理研に連絡しておきます」


 木内女史がスマホの使用許可を取って、理研に連絡を取った。

 

 ……。


「今日1日空けましたので、よろしくお願いします」


「了解しました。

 それじゃあ、みなさん、木内さんを連れて失礼します。

 木内さん、わたしの手を取ってくれますか?」


「はい」


 華ちゃんが俺の手を取り、木内さんも手を取ったところで俺は直接屋敷の玄関前に転移した。




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