第105話 インヴェスターZ、出資
Aクラス冒険者となった俺たち『一心同体』はカウンターの前からギルドの出入り口に向かって歩いていったのだが、その間ギルドの中にいた冒険者たちの俺たちを見る目は、まさに羨望の眼差しだったと言っていいだろう。
ギルドから通りに出たら、通りは依然冒険者たちでざわめいていたのだが、少し前と比べればだいぶ落ち着いたようだ。俺たちは特に注目されることもなく、わき道に入り、屋敷に転移した。
その日は、気分良く金のサイコロを錬成し、これからの『一心同体』の活躍を夢見ることもなくぐっすり眠った。
翌日。
冒険者の醍醐味を満喫したので、北のダンジョンにいくことは止めて、その日は華ちゃんと楽園に跳んだ。ピョンちゃんと遊んでいる華ちゃんを横に見て、俺は、地面にシートを敷いてぼんやりゆっくり過ごした。こういった1日もいいものだ。
そして、その翌日。
昨日十分リフレッシュした俺は、子どもたちと一緒に錬金術師ギルドと冒険者ギルドを回って、代金を回収した。もはや1万枚を超える金貨がアイテムボックスの中に眠っている。大金持ちと言っていいだろう。
国の経済がどのように回っているのかはわからないが、金本位制の下で、個人が文字通り『現金』を抱いたままでは経済が立ちいかなくかもしれない。と、思った俺は、何か投資でもして、金を世間に廻らせようと思い立った。
ということで、屋敷への帰り道も子どもたちについて歩いていた俺だが、途中で子どもたちと別れ、商業ギルドに顔を出した。
受付の女性に来意を告げて、指定された応接室でしばらく担当者がやってくるのを待っていたら、いつもの女性が部屋に入ってきた。
「ゼンジロウさん、おはようございます」
「おはようございます」
「投資をお考えとか?」
「はい。小金がだいぶ貯まってきたので、ある程度回した方が世の中のためになるかと思いまして」と、知ったようなことを返事しておいた。
「さすがですね。そう言えば、危険なモンスターを多数斃されAランクの冒険者になられたとか。おめでとうございます」
さすがは商業ギルドだ。情報を仕入れるのは早いな。
「ありがとうございます」
「ゼンジロウさんのお仲間もAランクに同時昇進なされたとか。それで、パーティー名が『一心同体』。今商業ギルドの中で話題ですよ」
「話題になってますか」
「それはそうです。
当代一の錬金術師と言われているゼンジロウさんが、冒険者としても超一流。しかもお仲間が若くて美しくしかもAランクの冒険者。話題にならないわけはありません」
おだてられるのが、これほど心地良いとは思わなかった。
それからしばらく『一心同体』の話で盛り上がり、やってきた目的を半分忘れていたのだが、何とか思い出し、
「話は元に戻りますが、投資するに何かいい案件はありませんか?」
「そうですねー。まずは冒険者ギルドでしょうか」
「あそこにも投資できるんですか?」
「もちろんです。いちおう潰れることはありませんし、年率10パーセントの配当を冒険者ギルドでは保証しています」
なんだ!? 確かに冒険者ギルドがあと10年で潰れはしないだろう。10パーの配当があるなら10年経てば、そこで冒険者ギルドが潰れてもトントンだ。これはいい投資と思うが、うまい話には裏があるというのは常識だ。
「非常にいい話に思えますが、何か問題はありますか?」
「ご存じの通り、冒険者ギルドでは、冒険者に対して貸し付けも行っています」
ご存じではなかったです。
「貸付先が冒険者ですので、回収不能となる案件が続出しており、冒険者ギルドの経営を圧迫しているようです。
半国営のようなものですから完全に潰れるようなことはないでしょうが、当商業ギルドでは、出資金に対して10パーセントの配当を冒険者ギルドが払い続けられるか疑問に思っています」
それなら勧めるなよ。
「他にいい案件は?」
「当商業ギルドはいかがでしょう? 当ギルドに出資していただければ、年率5パーセントの配当をお支払い出来ます。これは今後10年間保証しており、10年後の見直しでプラスマイナス1パーセント変動する可能性があります」
こっちは、真っ当そうだな。
「言いにくいかもしれませんが、商業ギルドに出資するとなにか問題はありますか?」
「正直に申しまして、当ギルドの業績はこのところ伸び悩んでおり、10年後にはおそらく4パーセントの配当になると思います。また、出資金額は20年間払い戻しはできません」
少し考えさせられるな。20年は相当長い。だからと言って、俺のアイテムボックスの中に仕舞っておけばお金が増えるわけでもないし、ましてや、市中に金の絶対量がこれからも減っていくのは確かだ。
「出資の金額の制限と言ったものはあるんですか?」
「いちおう、金貨1000枚以上ということになっており、上限はありません」
「分かりました。それなら、金貨5000枚商業ギルドに出資させてください」
「ありがとうございます。書類を作ってお持ちします。
お金はいつものようにここで?」
「はい。書類を待つ間、テーブルの上に並べておきます」
「よろしくお願いします」
担当の女性が応接室を出ていったところで、テーブルの上に金貨を25枚束にしたものを10束ずつテーブルの上に置いていったのだが、一束750グラムあるので、10束で7.5キロ。
200束だと150キロになってしまう。目の前のテーブルは頑丈そうに見えるが、150キロに耐えるかどうかはわからないので、100束だけ出しておいた。テーブルは多少たわんだような気がしないでもないが、無事だった。
3分ほどで担当の女性が数人の部下を連れてやってきた。部下はそれぞれ厚手の布袋を持っている。
「まず、2500枚出しておきました」
「はい」
担当の女性が金貨の束を確認しながら袋の中に金貨の束を入れていき、20束、15キロほどになったところでその袋を持って彼女の部下の一名が部屋を出ていった。そういった形で20束ずつテーブルの上から金貨が運び去られ、カラになったところでまた100束の金貨をテーブルの上に出しておいた。
……。
「金貨5000枚確かに預からせていただきました。
こちらがその預かり証になります」
金貨5000枚の金額と今日の日付、商業ギルドの紋章印のようなもの押されていた預かり証を貰った俺は、お辞儀して俺を見送る担当女性を後にして商業ギルドから表通りに出た。
これで俺もいっぱしのインヴェスターだ。その名もインヴェスターZ! なぜか今日の俺の活舌はいいな。今までだったらインベスターのところをインヴェスターと発音できたぜ。




