第104話 騒ぎとその終息
冒険者たちで騒然とした通りを抜けてギルドの中に入ると、そこは外の通り以上に騒然としていた。
俺と華ちゃんは知った人間もいないので、そのまま受付カウンターにいったが、ギルド嬢は一人もカウンターの後ろに座っていなかった。カウンターの先ではギルドの職員たちがバタバタしていたので、
「おーい。誰か、対応してくれー!」
カウンターの向こうにいるギルド職員に向かって大きな声を上げたら、午前中俺たちを対応してくれたベテランギルド嬢がこっちに来てくれた。
「ゼンジロウさん! 第2階層にいかれてたんですよね? ご無事のようで何よりです」
「? 第2階層でケイブ・ウルフ狩りをして、それで今日の成果を報告にきたんですが、報告した方がいいんですよね?」
「そうなんですが、いま取り込んでいまして」
「何かあった?」
「ゼンジロウさんたちと同じくギルドの指名依頼を受けて第2階層でケイブ・ウルフ狩りをしていたAクラスパーティー『黒衣無双』が第2階層のとある枝道でケイブ・ウルフの群れに遭遇し命からがら脱出してきたのです。それで、ギルドでは第2階層への立ち入り禁止と、第2階層から冒険者を速やかに撤退させるため、高位の冒険者を臨時で募っているところです」
「えーと、ちなみにそのケイブ・ウルフの群れは、何匹くらいの群れでした?」
「10匹以上、15匹はいなかったはずだと報告を受けています」
「その『黒衣無双』とかいうパーティーは黒い革鎧を着込んだ男女4人組のパーティー?」
「その通りです」
「えーと、俺たち、4人の黒い革鎧を着た冒険者を追っていた12匹のケイブ・ウルフの群れを斃したから、おそらく、その12匹が話に出た10数匹のケイブ・ウルフじゃないかな? 他にも9匹斃しているんで、第2階層のケイブ・ウルフはかなり減ってると思うんですよ」
「まっ!?」
ギルド嬢は半分口を開けて一瞬固まったが、すぐに再起動して、
「ほんとですか?」
「ここに、証拠を出しましょうか?」
「1パーティー、4、5人で数匹を運ぶのが限界なケイブ・ウルフですが、お二人はどういった証拠を?」
「21匹全部。丸ごと」
「えーと。まさか、それほど大容量のアイテムボックスをお持ちなのですか?
そうか、先日3匹もケイブ・ウルフを運んできた冒険者というのはゼンジロウさんだったんですね。とはいえ、21匹ものケイブ・ウルフを半日も経たずに討伐したとなるとにわかには信じられません」
「別に血が流れ出ているようなものじゃないので、ここに出してしまいましょう。確認出来たらまた仕舞いますから」
そう言って、カウンターの前にケイブ・ウルフを21匹、6段重ねで天井まで山盛りにしてやったところ、今まで騒がしかったギルドの中がだんだんと静かになっていき、最後には物音一つしなくなった。
カウンターの中から急いで出てきた受付嬢が下の方から数を数えていく。
「1、2、……、20、21」
「確かに21匹。確認しました」
死骸の山を並べておくのは趣味が悪いので、確認が終わったところですぐにアイテムボックスに全部仕舞っておいた。
「ケイブ・ウルフはヤードにある解体場の方にお願いします。解体場に卸したらまたこちらにお越しください」
受付嬢はまたカウンターの中に入り、上司らしきおっさんと話し始めた。
俺は言われた通り華ちゃんを連れて解体場のあるギルド裏のヤードに回った。
解体場では前回と同じおっさんが立っていたので、
「またケイブ・ウルフを持ってきた。今回はかなり数が多いんだけど、どこに出せばいい?」
「数が多いって、前回だって3匹もいたじゃないか」
「今回は21匹」
「21匹だとー!
まあいい。前回同様綺麗な状態のケイブ・ウルフなら3匹ほどはそこの台の上に出してくれ。残りはその横に並べて置いてくれ。
ところで隣のお嬢さんは?」
「俺の連れで、前回も今回も彼女一人でケイブ・ウルフを全部斃した」
「なんと!」
俺は驚くおっさんを尻目に、言われた通りケイブ・ウルフを置いてやった。
おっさんは1匹、1匹確かめて、
「今回も見事なケイブ・ウルフだ。21匹全部前回同様最高査定だ。前回もただ者じゃないと思っていたが、それ以上だった。これからの活躍が楽しみだ。
二人で活動してるってことはパーティーなんだろ? パーティー名を教えてくれよ」
「俺たちのパーティー名は『一心同体』だ」
「『一心同体』か、いい名だ」
おっさんはバインダーに挟んでいた紙に何やら書き込んでそれを俺に渡した。
「支払い窓口にいって金を受け取ってくれ」
「了解」
再度ギルドのホールに戻ったら、ギルドの中はかなり落ち着いていた。窓口カウンターにも受付嬢が並んでいる。
俺は華ちゃんを連れて解体場のおっさんにもらった伝票を支払いカウンターに持っていった。
「そういえば、俺たちは指名依頼を受けてケイブ・ウルフを討伐したんだけど1匹当りの上乗せはあるんですよね」
そう確認したところ、支払いカウンターの受付嬢は「少々お待ちください」と最初言ったもののすぐに「ゼンジロウさんですね。もちろんお支払いします。
ケイブ・ウルフ基準価格金貨10枚、21匹全部最高査定ということで、金貨10×2×21+金貨5枚×21=金貨525枚となります。
少々お待ちください」
すぐに皿の上に金貨が用意された。皿の上には金貨の束と厚手の布袋が一枚置かれていた。
「全部で21束。一束に金貨が25枚入っています」
俺は、21個の金貨の束を勘定して袋に詰めていった。金貨1枚30グラムほどだったので、一束で750グラム見当。結構重い。
「確かに」そう言ってアイテムボックスに金貨の入った布袋を収納した。
受け取りが終ったところ、例のベテラン受付嬢がカウンター越しに俺の前にやってきて、
「ゼンジロウさんとハナさんの冒険者ランクが上がりました。今お持ちの冒険者証をお願いします」
俺と華ちゃんがそれぞれ冒険者証を渡すと代わりに2枚の金色のカードを渡された。
「お二人は、これからAクラスです」そう告げられた。
「華ちゃんは、最高でもBクラスとか言ってたけど?」
「さすがにたった2名で21匹のケイブ・ウルフを簡単に討伐する逸材ですからギルドでは期待も込めてAクラスに昇格させていただきました」
まっ、上に上がることはいいことだが、あんまり早いとちょっと拍子抜けする感じも無きにしも非ず。冒険者カードなど普通生活する分にはほとんど意味はないので、華ちゃんの金のカードも失くさないよう俺が預かっておいた。
「ちなみにAクラスから上のクラスってあるんですか? SとかSSとか?」
「S、SS? いえ、冒険者ギルドでの次のランクはAA、最高はAAAです。ですが現在どちらも該当者はいません。
そうそう、まだお伝えして半日ですから決まっていないのならよろしいですが、お二人のパーティー名はお決まりですか?」
「決まってます。『一心同体』に決めました」
俺がそう言うと、なにかジトッとした視線を感じたような。気のせい、気のせい。
「良い名ですね。これからの『一心同体』の活躍に期待しています」
「そう言えばパーティーのランクって、どうやって決まるんですか?」
「パーティーランクは、パーティーメンバーのうちの最高レベルが適用されます。『一心同体』の場合はお二人ともAランクなので純正のAランクパーティーということになります」
「よく、分りました」
純正のAランクパーティー『一心同体』か。なかなかいい響きだな。俺の横に立っている華ちゃんの横顔をみたら、何やら考え事をしているように見えた。おそらくこれからの『一心同体』の活躍について思いをはせているのだろう。




