第102話 一心同体3、華ちゃん鬼強い
第2階層の本道から外れた枝道の中で大ネズミとスライムを斃した俺たち一心同体の二人は、片手に炭酸水の入ったコーラのボトルを持って、ケイブ・ウルフとの遭遇を期待しつつ洞窟ダンジョン内を進んでいった。
「何だか、当てもなく歩いているだけでだるくなってきたな。華ちゃんは罠とか作る魔法を知らないか?」
「罠ですか?」
「罠の上に、さっきの大ネズミを出しておけば、ケイブ・ウルフがやってきて引っかかるんじゃないかと思うんだ」
「残念ですが、罠の魔術は知りません。罠と言えば落とし穴ですから、岩永さんがスキルで穴を掘って、その上にカムフラージュ用のネットとか布を被せておけば立派な落とし穴になると思います」
「確かに。
洞窟の真ん中に穴を掘ってその中に大ネズミの死骸を入れて、上に迷彩柄の布を張っておこう。そろそろ昼だろうから、昼メシを食べながら罠を見張っていようぜ」
俺はさっそく洞窟のでこぼこした路面を直径3メートル、深さ5メートルほど収納して穴を空けてやり、底に大ネズミの死骸を入れておいた。
そのあと、気持ちだけ周囲の岩のガラに似せた迷彩柄の大風呂敷を錬金工房で作って、穴の上に広げ、四隅に重しの小石を乗っけて罠を完成させた。
大ネズミの死骸を穴に突っ込んだ時、俺の鼻では何も臭いを感じなかったが、モンスターのケイブ・ウルフは少なくとも俺たち人間より鼻がいいだろう。
準備万端整ったところで、ふと気づいたのだが、俺も華ちゃんも相変わらず緑に点滅しているし、華ちゃんの頭上にはライトの明かりが眩しく輝いている。
モンスターは俺たちを見て警戒するかもしれないし、逆に人間など獲物だと思えばモンスターは気にせず罠に近づくだろう。おそらく、ケイブ・ウルフは後者だろうから、俺たち自身が罠のエサの役目を果たすような気もしてきた。
いずれにせよ、何がやってこようが華ちゃんが遠距離攻撃で簡単に倒すのだから、わざわざ罠を作ったものの、大ネズミの死骸はあってもなくても良かったかもしれない。
それでもせっかく罠を作ったのだからと、罠から少し下がったところに、腰掛に良さそうな出っ張りが二つ並んでいたので、俺は手にしていた如意棒を洞窟の壁に立てかけ、華ちゃんは腰に下げたメイスを付けたままその出っ張りに二人仲良く並んで座りこんだ。
「代わり映えはしないけど、ハンバーガーは何食べる?」
「じゃあ、小エビの入ったハンバーガーお願いします」
「これかな」
そう言って小エビがまとめられてフライに揚げられたのが入ったハンバーガーを渡した。
「俺は、ビッ〇マックだな。
ポテトは?」
「今はまだいいです。飲み物も炭酸水があるからいいです」
そうやって二人並んで早めの昼食をとっていたら、罠を仕掛けた前方からではなく後ろの方からどう見てもケイブ・ウルフがやってきた。今回も3頭だった。
「食事中ですが、斃しちゃいましょうか?」
「そうだな。やっちゃって」
「はい。
ライトニング!」
右手にハンバーガーを持ったまま、わずかに上げた華ちゃんの左手から白い光が放たれ、前回同様、時間差なしで先頭のケイブ・ウルフに命中し、そのケイブ・ウルフから白い光が分かれて後ろの2匹のケイブ・ウルフに命中した。3匹ともその場に倒れ動かなくなってしまった。
華ちゃんは、片手間仕事で3匹のケイブ・ウルフを斃してしまった。俺も座ったまま3匹のケイブ・ウルフの死骸をアイテムボックスに収納して、ビッグマ〇クを頬張った。
「久しぶりのビッグマ〇クだが食べ応えあるな」
「おいしいですか?」
「そこまでおいしいって程じゃないが、十分ウマい」
「やはり、男の人ですね」
どこが男の人なのかは分からなかったが頷いておいた。
しばらくそうやって寛いでいたのだが、今度は罠を仕掛けた方角からまた3匹のケイブ・ウルフが現れた。
罠にかかれば面白いとワクワクしながら見ていたが、その3匹は器用に罠を避けて俺たちに向かってきた。
「ライトニング!」
華ちゃんは右手に持ったハンバーガーを左手に持ち替え、右手から白い電撃を先頭のケイブ・ウルフに放った。それだけで3匹のケイブ・ウルフを一瞬で斃してしまった。俺はビッ〇マックを口に運びながら、その3匹をアイテムボックスに仕舞っておいた。
いちおう、口の中のものを飲み込み、
「冒険者と言っても、低位の冒険者ではスキルもないだろうし、ケイブ・ウルフにもてこずるんだろうな。
この前冒険者ギルドで聞いた話だけど、ケイブ・ウルフはCランク以上のパーティーが相手をするモンスターなんだそうだ。Cランクのパーティーってどの程度か分からないが、俺がケイブ・ウルフを3匹運んだだけでBランクになるようなモンスターを相手にするんだから、それ相応のパーティーだろう。
運んだだけでBランクに昇格したことについて後で考えたんだが、ギルドからすれば個人がどうなろうが自己責任だ。実力に見合わなければそれまでだしな。少なくとも俺にはBランクに相当する実力を持つ仲間がいそうだから俺をBランクに上げたんだろう。そうすれば今みたいに後々ギルドの役に立つものな。
実際、俺には華ちゃんがいるし、俺たちにとってケイブ・ウルフは食事の片手間に片付くようなモンスターだしな」
華ちゃんは俺の話を黙って聞いていた。
「しかし、罠の底に入れておいた大ネズミのおかげか、6匹もケイブ・ウルフが良く集まったな」
「そうですね。大ネズミはケイブ・ウルフの好物だったんでしょうか?」
「さあなー。偶然かもしれないし、人間が好物で俺たちの臭いに誘われたのかもしれないぞ」
「えっ!? わたし臭いますか?」
「いや、ぜんぜん」
「よかった」




